MLB通算100号ホームランを放ったばかりの大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)だが、投手としても好調だ。敵地でのヒューストンで初勝利を挙げた4月20日(現地時間:以下同)のアストロズ戦では、6回1安打0失点1四球、12奪三振。

6回1死までパーフェクトピッチングというすばらしい投球を見せ、強力な打者が並ぶアストロズ打線をねじ伏せた。

今年の「投手・大谷翔平」はどこがすごいのか。球速・制球力もア...の画像はこちら >>

相手打者を抑えて雄叫びを上げる大谷

 また、3勝目を挙げた5月5日の敵地ボストンでのレッドソックス戦でも、大谷は7回6安打0失点0四球、11奪三振と快投。この試合の大谷は制球力も抜群で、投じた99球中81球がストライクゾーンに入り、ストライク率は81.8%だった。これは、フェンフェイパークで登板したビジターチーム投手としては、「同球場が記録を開始した1988年以降で史上最高」と現地メディアが報じている。

 5月17日現在、大谷は6試合に先発登板して32回1/3を投げ、3勝2敗、防御率2.78、24安打10失点7四球46奪三振の成績を残している。投手を評価する指標のひとつであるWHIP(1イニングあたりの与四球・被安打数合計)は0.96。
一般的に、先発投手でこの数字が1.00未満であれば"超エース級"と言われるが、大谷がMLBでもトップクラスの投手であることがこの数字からも証明されている。

 MLBの公式メディア『MLB.com』が5月11日に掲載した今季のMVP予想で、大谷は4位に選出され、投手での活躍は次のように紹介されている。

「二刀流のスーパースターは、32回と1/3を投げて防御率2.78をマークし、そして、K/BB率(奪三振と与四球の比率)は46三振に対し7四球と驚くべき数字を残している。(大谷は)マウンドではこれまでで最もすばらしい状態にある」

 投手・大谷の活躍は春季キャンプ中からすでに予見されていた。"ピッチングニンジャ"の愛称で知られる投手分析家、ロブ・フリードマン氏は当時から、「すでにシーズン中盤並みの完成度」と絶賛。今の大谷はその言葉通り、あるいはそれ以上に躍進している。
投手・大谷がここまで好調な理由は何なのか。再びフリードマン氏に意見を求めた。

"新しいスライダー"の威力

「まずは、球速と制球力の向上、配球の変化がある」

 フリードマン氏が挙げたこれらのポイントは、現地メディアからも同じような指摘がされている。まず球速については、エンゼルスの地元紙『オレンジカウンティ・レジスター』(4月26日掲載記事)で、次のように述べられていた。

「今年の大谷はすべての球種で平均速度が上がっている。フォーシーム(ストレート)は95.6マイル(約153キロ)から97.5マイル(約156キロ)に、スプリットは88.2マイル(約141キロ)から90.1マイル(約145キロ)に、カーブは74.7マイル(約120キロ)から78.9マイル(約126キロ)と上がっている」

 さらに、こうもつけ加えられている。

「スライダーは特に印象的だ。

速度は82.2マイル(約132キロ)から84.8マイル(約135キロ)に上がったが、その変化は失われていない。普通、変化球は速度が上がれば、変化量が減って"まっすぐ"になってしまう。しかし、大谷のスライダーの水平方向の動きは、昨年の15.8インチ(約38cm)から、今年は16インチ(約40cm)になっている」

 スライダーの進化は、現地で注目の的になっている。データ分析サイト『ファングラフス』(4月21日掲載記事)は、「アストロズ戦(4月20日)での大谷は、彼のキャリアで最も高い46.9%のCWS率(全投球数における見逃しと空振りの割合)を出した。これはメジャーでも1位の数字で、"新しいスライダー"がそれを支えた」と述べ、「このスライダーは60%の確率で空振りを取るため、打者がバットに当てることは困難である」と紹介している。

 そして、大谷は制球にも力を注いでいる。
例えば、『MLB.com』(4月13日掲載記事)は、「投手・大谷は四球を与えることをやめた。彼は(四球を減らすことが)比較的苦手だったが、そこを修正した。それが今の強みだ」と述べ、昨季から今年4月12日までの与四球率の比較を掲載した。

自信がもたらした闘争心

 それによれば、昨年4月4日から6月30日までの12登板では与四球率が14%だったのが、昨年7月6日から今年4月12日までの12登板では3%にまで減少している。フリードマン氏も制球についてこう語っている。

「彼は今、非常に高い水準を維持しています。

今季の制球力は卓越しており、三振と四球の比率は6.5回で1個未満。つまり、与四球を1試合につき2個未満に抑えているということだ。これは、決して簡単なことではありません」

 フリードマン氏は続けて、配球の変化について次のように話した。

「これまでの大谷選手は、決め球にカーブを選ぶことが多かった。しかし今は、スライダーやスプリットなど組み合わせを変えています。それができるのは、彼が非常に優れた武器を多く持っているから。
ストレートはもちろん、空振り率がそれぞれ50%を超えるスライダーとカーブ、そして球界最高のスプリット。たとえ、どれかの球種で球速や制球に苦労することがあっても、他の球種に頼ることができる。彼はそれらをうまく組み合わせています」

 フリードマン氏によれば、ボールの質が向上した上に決め球の選択肢が増えたことで、いかなる場面でも自信をもって勝負ができており、「それが"闘争心"にもつながっている」と話した。

「大谷選手はランナーを抱えている時にギアを上げています。得点を与えることを嫌い、それは彼の表情に出ています。そのような場面を抑えられると彼は雄叫びを上げますが、自分の配球がうまくハマり、勝負を制しているから出てくる感情なのだと思います。そこが、これまでとは大きく違う点だと私は考えています」

 最後に、フリードマン氏は大谷がある時点からフォームに変化をつけていることを指摘。これまでの大谷はセットポジションの際、グラブを胸よりやや上で構えていた。しかし、4月20日のアストロズ戦からはグラブをベルト付近で構えるようになった。

 フリードマン氏は、「グラブを低い位置で構えると手の動きは小さくなり、打者からは握り(球種)が見えにくくなる」とそのメリットを説明する。大谷が実際にそれを狙っているかは「あくまで推測だ」と断ったが、それ以降の好投を見れば、プラスに働いていることは明らかだ。

 このように今季の投手・大谷は昨季から大幅なアップデートを果たし、シーズン序盤から歴然とした違いを見せている。今後もこの調子を維持できれば、大谷はエンゼルスの8年ぶりのプレーオフ進出の大きな原動力になるだろう。