ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

「春のグランプリ」GI宝塚記念(阪神・芝2200m)が6月26日に行なわれます。上半期の総決算となる一戦ゆえ、まずはここまでの古馬中距離路線について振り返ってみたいと思います。

 この路線は昨年の暮れ、クロノジェネシス、コントレイル、グランアレグリア、ラヴズオンリーユーといった最強クラスの名馬がそろって引退。一時代が終わる明確な区切りがあって、これにより「一気に世代交代が進むだろう」と思われていました。

 実際、それを強く感じさせたのがエフフォーリア(牡4歳)の台頭です。昨秋、当時3歳だった同馬がGI天皇賞・秋(東京・芝2000m)、GI有馬記念(中山・芝2500m)と立て続けに強豪古馬を撃破したことは、ファンや関係者に強烈なインパクトを与えました。

 しかし、この春のGI大阪杯(4月3日/阪神・芝2000m)の結果によって、「一気の世代交代へ」の確信が揺らぐことに......。昨年の年度代表馬にも輝いて、新時代の旗手と期待された、そのエフフォーリアがまさかの惨敗(9着)。

これまでとは別馬かのように動けず、5連勝の上がり馬ジャックドールともども古馬の壁に跳ね返されてしまいました。

 一方で、菊花賞馬のタイトルホルダー(牡4歳)は、GI天皇賞・春(5月1日/阪神・芝3200m)を圧勝。菊花賞同様の逃げきり勝ちで、長距離路線を制圧しました。

 ただこの馬も、決して盤石とは言えません。長い距離ですんなり逃げられた時は信頼できるものの、中距離で2番手以降での競馬になった場合はいまだ未知数です。ファン投票1位ほどの信頼度があるかどうか......。

 また、同世代のダービー馬シャフリヤールも、海外GIのドバイシーマクラシックこそ快勝したものの、続く英国のプリンスオブウェールズSでは5頭立ての4着と見せ場なし。この敗因は馬場適性が大きいものの、だいぶ物足りない結果に終わって、明け4歳世代の勢いはここにきてやや失速気味です。

 逆に元気がいいのが、5歳以上の古馬勢。大阪杯ではポタジェ(牡5歳)がGI戦で初の重賞制覇を達成。サウジアラビアやドバイのレースでは、ステイフーリッシュ(牡7歳)やパンサラッサ(牡5歳)、オーソリティ(牡5歳)といった面々が大躍進を果たしました。

 このように、古馬の中距離路線はたちまち4歳世代が中心になるかと思いきや、5歳以上の古馬勢がしぶとく盛り返してきています。

こうした状況を踏まえると、今回の宝塚記念でも4歳世代に全幅の信頼を置くことには、どうも二の足を踏んでしまいます。

 そこで今回、僕が最も気になっているのは、一昨年の三冠牝馬デアリングタクト(牝5歳)です。長期休養明けを叩いての2戦目。大きく変わるとしたら、このタイミングと見ています。

 もちろん、繋靭帯炎を克服して復活させることはそう簡単ではありません。そのことは重々承知していますが、これほどの名牝であれば、故障した時点ですぐに繁殖入りさせてもいいものを、陣営は現役続行の道を選択しました。

そこから、陣営の「まだ現役を続けられる」「復活は可能」という強い意志が感じられます。

 もともと前走のGIヴィクトリアマイル(5月15日/東京・芝1600m)は叩き台で、当初からこの宝塚記念を目標としていた、とも聞いています。無事に2戦目を迎え、3歳時のパフォーマンスを発揮するようであれば、女傑復活の可能性は大いにあるでしょう。

 ところで、今年の宝塚記念の行方は、展開面が大きなカギを握っているのではないかと考えています。

 おそらくハナを主張するのはパンサラッサで、番手にタイトルホルダーといった並びが大方の見方でしょう。僕も、パンサラッサに騎乗する吉田豊騎手の性格を考えたら、絶対にハナは譲らないと思っています。

 そして、この並びになった時にポイントになるのは、タイトルホルダーの手綱をとる横山和生騎手の立ち回りです。パンサラッサを逃がしたら厄介なのは当然わかっているはずで、かといって仕掛けが早すぎると自身が後続の恰好な目標になってしまいます。

 この、いつ仕掛けるかという判断が簡単そうで、とても難しいところです。理想は直線入り口で先頭に立つ形ですが、そのエスコートを冷静に行なえるかどうか......。

 そうなると、この2頭の出方をじっくり見ながら動き出せる、3番手に構える馬に最も展開の利があるような気がします。その候補となるのが、オーソリティです。

宝塚記念のカギは展開にあり。前行く2頭に圧力を与えつつ抜け出...の画像はこちら >>

ルメール騎手騎乗で大駆けが期待されるオーソリティ

 海外のレースに参戦したここ2戦で、同馬は2度とも逃げる形をとりました。しかし、もともとは好位で流れに乗って抜け出す競馬を得意としており、今回は無理にハナに立つこともないでしょう。

 つまり、鞍上のクリストフ・ルメール騎手はタイトルホルダー(&横山和生騎手)にプレッシャーを与えつつ、ベストな抜け出しを狙っているはず。そんな彼の存在が、最も不気味に感じます。

 ルメール騎手はオーソリティに5度騎乗して、すべて馬券圏内(3着以内)と同馬との相性は抜群。どこからどう動けば最適なのか、すでにはっきりとイメージできているのではないでしょうか。

 前の2頭が勝利への焦りなどから、もし計算違いの乗り方をした時には、この馬がグイッと先頭に立つシーンも十分にあり得ます。ということで、この馬を今回の「ヒモ穴馬」に指名したいと思います。