別名「キーストーン」コンビとも呼ばれる二遊間。今季、その二遊間コンビに新鋭選手が台頭し、球界に刺激を与えている。
【巨人・門脇誠のタフさは大きな武器】
── 現状、セ・リーグにおける二塁手の守備をどう見ていますか?
荒木 過去、ゴールデングラブ賞を10年連続受賞した菊池涼介選手(広島)、そして昨年初受賞の中野拓夢選手(阪神)は、相変わらず好守備を披露しています。ここに割って入りそうなのが、プロ2年目の田中幹也選手(中日)です。昨年は開幕直前に右肩を脱臼し、離脱を余儀なくされましたが、あのスピード感には目を奪われます。一、二塁間の抜けそうな打球に追いつき、そこからどんな体勢からでもしっかり送球できる。選手としてどこまで伸びるのか、大いなる可能性を感じさせてくれます。
── 遊撃手はどうですか。
荒木 門脇誠選手(巨人)は球際に強いですね。それまで長く巨人のショートを守ってきた坂本勇人選手が、サードにコンバートされるきっかけになっただけのことはあります。ルーキーイヤーの昨年はわずか5失策で、今年はすでに4失策していますが、それはレギュラーとして試合に出ている証であり、雰囲気に慣れれば堅実かつ華麗な守備は実証済みですので、さらに期待できると思います。門脇選手は高校1年夏から大学4年秋まで公式戦116試合フル出場と、鉄人ぶりを発揮しています。ショートはセンターラインの軸となるポジションですので、試合に出続けてくれるというのは大きいですよね。
── 遊撃手には、長岡秀樹選手(ヤクルト)、木浪聖也選手(阪神)といったゴールデングラブ賞の受賞経験者がいます。
荒木 プロ4年目の矢野雅哉(広島)の美守にも目がとまります。守備だけで言うなら、彼がセ・リーグトップクラスです。矢野といい、先述した田中といい、亜細亜大出身の内野手は鍛えられていますね。
── 中日の遊撃手はいかがですか。
荒木 昨年114試合に出場した(土谷)龍空選手、今年開幕スタメンのクリスチャン・ロドリゲス選手、ドラフト2位ルーキーの津田啓史選手、巨人、阪神でプレー経験のある山本泰寛選手、そしてプロ2年目の村松開人選手。現状は、"帯に短し襷(たすき)に長し" といったところです。ただ、まだ不動のレギュラーではないですが、村松選手がショートに定着したらどれくらいやれるのか、楽しみではあります。
── ダブルプレーなど、二遊間のコンビネーションはどうでしょうか。
荒木 昨年初めてゴールデングラブ賞を受賞した中野選手と木浪選手の阪神コンビは、一日の長があります。組んだ時間が長ければ長いほど、落ち着いてプレーすることができますし、やはりお互いの呼吸も合いやすくなる。そういう意味で、セ・リーグではこのコンビが安心して見ていられます。
【ロッテ・友杉篤輝のスピードに注目】
── 一方、パ・リーグはいかがでしょうか。まずは二塁手で、荒木さんが注目している選手はいますか。
荒木 内野、外野守れるユーティリティープレーヤーとして活躍し、チームに欠かせない存在の牧原大成選手(ソフトバンク)。ゴールデングラブ賞の記者投票でも、セカンドと外野に票が割れていましたが、もし二塁手として固定されるなら一躍受賞の有力候補に浮上しますね。
── 中村奨吾選手(ロッテ)、浅村栄斗選手(楽天)のベテランが、セカンドからサードにコンバートされました。
荒木 それに伴って、ロッテは藤岡裕大選手、楽天は小深田大翔選手がそれぞれショートからセカンドにコンバートされました。二遊間を守っていた選手がベテランになって三塁や一塁に回るのは、コーチ経由の前に選手同士でアドバイスできるメリットがあります。おそらく中村も浅村も、二塁を守る選手にアドバイスしていると思います。藤岡選手も小深田選手もショートで実績があるので、セカンドでも問題なくこなせると思います。あとオリックスのマーウィン・ゴンザレス選手も、セカンドだけでなくファーストも守りますが、グラブ捌きが見事です。
── 遊撃手はどうですか。
荒木 源田壮亮選手(西武)の"たまらん守備"や、今宮健太選手(ソフトバンク)の守備範囲の広さは、今さら言うまでもありません。そこに超強肩の紅林弘太郎選手(オリックス)も台頭してきた。パ・リーグのショートはそれぞれ個性があって、実力者が揃っています。
── 新鋭ではどうでしょうか。
荒木 私は昨年、日本ハムの秋季ジャンプで臨時コーチを務めました。その時は不参加だったのですが、3年目の水野達稀選手が頑張っていますね。そのほか日本ハムには上川畑大悟選手、ベテランの中島卓也選手もいます。みんな二遊間を守れる左打ちの選手ですので、右打ちの奈良間大己選手は面白い存在になると思います。
ロッテ2年目の友杉篤輝選手もスピードがあるので、注目しています。スピードのある選手というのは、最初は粗さがあっても徐々に馴染んできます。友杉選手がショートでいけると見込んで、サードに中村選手、セカンドに藤岡選手を守らせた。いいコンバートだと思います。
── パ・リーグで注目の二遊間コンビは?
荒木 コンビで考えるなら、やはり西武の外崎修汰選手と源田選手が頭ひとつ抜けているでしょう。そこに牧原選手と今宮選手のソフトバンク勢が続きます。また、これまでなかなかショートが固定できなかった楽天は、村林一輝選手が定着しつつあります。
【難しいのは正面のゴロ】
── 12球団の二遊間で"打撃"で目をひく選手は誰ですか。
荒木 昨年、最多安打のタイトルを獲得した阪神の中野選手は、追い込まれてからしぶとい打撃が特徴的です。ただバッティングなら、牧秀悟選手(DeNA)が抜けています。確実性と勝負強さを兼ね備えていて、長打力もある。そんな牧選手ですが、じつはゴロ処理のバウンドの合わせ方がうまく、ダブルプレー時の動きも俊敏です。
パ・リーグでは、紅林選手がパワフルなバッティングを披露し、今季もすでに二度のサヨナラ安打をマークするなどいい勝負強さも光っています。
── 二遊間コンビの守備で大事なことは何ですか。
荒木 たとえばランナーが一塁にいる場面で、ダブルプレーだと思った打球に対して、確実に2つのアウトを取ることです。捕球はもちろん、素早く正確な送球も必要とされます。
── 荒木さんがセカンドの守備で一番気を遣ったのはどんなプレーですか。
荒木 左右に飛んだゴロというのは、そんなに難しくありません。
── 最後に、現状で日本一の二遊間コンビはどのふたりになるでしょうか。
荒木 やはり、昨年日本一になった中野選手と木浪選手のコンビでしょうか。名手・菊池選手とコンビを組む広島の小園海斗選手は、昨年あたりから守備がうまくなってきました。巨人の吉川尚輝選手とコンビを組む門脇選手も同様です。やはり二遊間コンビはどちらかが実績があると、もう一方も引っ張られてうまくなります。私も井端(弘和)さんに引っ張ってもらいました。あと個人的には、中日の後輩になる田中、村松の二遊間コンビには、さらなる飛躍を期待したいですね。
荒木雅博(あらき・まさひろ)/1977年9月13日、熊本県生まれ。熊本工高から95年ドラフト1位で中日に入団。02年からレギュラーに定着し、落合博満監督となった04年から6年連続ゴールデングラブ賞を受賞するなど、チームの中心選手として活躍。