攝津正インタビュー 前編
好調ソフトバンクの投手陣分析
2位のロッテに11ゲーム差(6月26日時点、以下同)をつけ、パ・リーグの首位を独走中のソフトバンク。この強さの要因はどこにあるのか。
【奮闘する先発陣の評価】
――ここまでリーグ戦、交流戦を通じて好調を維持しているソフトバンクですが、強さの要因として挙げられることは?
攝津正(以下:攝津) やはり先発陣の奮闘でしょう。試合を作れる先発陣がある程度揃っているので、同一カード3連戦で負け越すこともそれほどありません。それと、有原航平がカード頭の試合で投げていますが、そこで勝てていることが大きいのかなと。今季は東浜巨の調子もいいですし、先発に転向したイバン・モイネロと大津亮介もしっかり働いていますね。
――攝津さんは東浜投手の状態について、キャンプの時から高く評価されていましたね。昨季と比べてどこがいいですか?
攝津 かなり真っすぐがよくなりました。あまり勝ちはついていませんが(3勝1敗、防御率2.66)、ピッチングの内容は非常にいいです。交流戦の(5月30日の)巨人戦では5回6失点(自責点5)と打たれてしまいましたが、その前に投げた(5月5日の)西武戦から中24日も空いていましたからね。
ローテーションのやりくりがもう少しうまくいけば、勝ち星が伸びると思うんです。ただ、それは故障をさせないための起用法なのかもしれませんが。カーター・スチュワート・ジュニアらも起用しながら、先発陣の登板間隔を空ける工夫をしていますよね。
――3年ぶりにソフトバンクに復帰した、倉野信次一軍投手コーチ兼ヘッドコーディネーターによるピッチャー陣の運用をどう見ていますか?
攝津 先発ローテーションを、無理に中6日で回そうとしていませんね。
――先ほど大津投手の名前を挙げていましたが(防御率2.30、5勝3敗)、攝津さんは昨年のルーキーイヤーから高く評価されていましたね。
攝津 そうですね。先発に転向してもやれると思っていました。球種が豊富で緩急をつけられますし、打たせて取ることもできる。ピッチングスタイルが先発向きだと感じていましたし、投げるスタミナもあります。QS率(88.9)も高いですよね。チェンジアップもかなり効果的でピッチングの幅を広げていますね。
先発はペース配分を考慮する分、リリーフの時よりも球威が落ちるかなと思っていたのですが......球威は落ちていませんし、リリーフの時と同じように投げています。
【リリーフ陣の貢献も大きい】
――リリーフ陣も奮闘していますが、特にいいピッチャーは?
攝津 ダーウィンゾン・ヘルナンデスと長谷川威展、この変則左腕のふたりが効いていると思います。
一方の長谷川は真っすぐとスライダーを軸に打たせて取るタイプ。ヒョイッという感じで投げる独特の投球フォームなのですが、バッターがけっこう打ちにくそうにしています。スライダーでも曲がりの大きなものと小さなものを投げ分けていて、バッターがとらえきれていません。
――チームで最多登板(30試合)の松本裕樹投手の貢献も大きいですね。
攝津 そうですね。松本はすごく安定していると思いますし、あとは杉山一樹(21試合登板)がある程度計算できるようになったのが大きいです。昨季と違い、今季は僅差の試合でも起用されていますし、信頼度が高くなっていると思います。
――長身から投げ下ろす球威のある真っすぐなど、以前から杉山投手のポテンシャルは評価されていましたが、今季は何が変わったんですか?
攝津 球威を抑えていることが功を奏しているのか、コントロールが確実によくなりました。もともと真っすぐに力があって、フォークとスライダーなどの変化球もよかったのですが、ほとんどストライクゾーンに入らなかったんです。今季は出力の調整がうまくいっていますし、球威を抑えながらでもゾーンで勝負できています。
フォアボールを出して自滅することも多かったのですが、そういう場面も見なくなりました。
【10ゲーム以上離れていても「油断はできない」】
――抑えのロベルト・オスナ投手はいかがですか? 今季は失点するケースが目立ちます。
攝津 開幕当初よりは状態が少し上がっていると思いますが、昨季までのいい時の状態に比べるとよくありません。ここ最近の球速は150km台後半が出てきていますが、球速の割にバットに当てられていますし、得意のカットボールでもあまり空振りがとれなくなっています。
今までだと、バッターがカットボールを「真っすぐだ」と思って打ちにいって空振りしてしまい、「あれっ?」っていう感じの反応をしていたのですが、そういうことも見られなくなりました。ただ、やってもらわないといけないピッチャーのひとりですし、より状態が上向いていけばいいですね。
――2位のロッテと11ゲーム差と大差をつけていますが、どう見ていますか?
攝津 数字を見るとだいぶ有利なのですが、過去にソフトバンクは10ゲーム以上の差をひっくり返されたこともありますし、油断はできません。
――2016年、最大11.5ゲーム差をつけていた日本ハムに逆転されました。当時の攝津さんの心境やチームの雰囲気はいかがでしたか?
攝津 自分も含め、みんな「いける」と思っていたでしょうし、「まさか」という感じでした。ソフトバンクのチーム状態が悪くなったわけではなかったのですが、日本ハムの勢いがとにかくすごかったんです。
(野手編:柳田悠岐がいなくても好調のソフトバンク野手陣 今後「警戒すべきチーム」に挙げたのは?>>)
【プロフィール】
攝津正(せっつ・ただし)
1982年6月1日、秋田県秋田市出身。秋田経法大付高(現ノースアジア大明桜高)3年時に春のセンバツに出場。卒業後、社会人のJR東日本東北では7度(補強選手含む)の都市対抗野球大会に出場した。2008年にソフトバンクからドラフト5位指名を受け入団。抜群の制球力を武器に先発・中継ぎとして活躍し、沢村賞をはじめ、多数のタイトルを受賞した。2018年に現役引退後、解説者や子どもたちへ野球教室をするなどして活動。通算282試合に登板し、79勝49敗1セーブ73ホールド、防御率2.98。