常総学院・島田直也監督 インタビュー 後編(全3回)
2020年から高校野球の強豪・常総学院(茨城)の監督を務めている、同校OBで元プロ野球選手の島田直也氏。自身は高校時代、名将・木内幸男監督の常総学院1期生のエースとして、甲子園準優勝を果たしているが、監督就任後もチームを2度、甲子園へ導いている。
【監督就任当時に感じた自主性の不足】
2020年に、常総学院の監督になりました。高校の時以来のトーナメントという一発勝負の世界に身を置き、何とか結果を出したいと精進する日々です。
就任後すぐの秋の関東大会で準優勝し、2021年のセンバツに出場。甲子園で1勝を挙げることができ、今春のセンバツでも1勝。高校野球の指導者としてようやく手応えを感じてきたところです。
ノックなどは若手コーチに任せ、日頃はグラウンドでじっと選手を見ていることが多いです。木内(幸男)さんも選手を見る目は鋭かったですが、僕が見ているのは「何を考えて練習をしているか」ということ。
ただ「やれ」と言われたことをやっているのか、自分に足りないものを補うために工夫してやっているのか、見ていればすぐにわかります。
赴任当時、選手を見てまず思ったのが自主性の不足でした。言われたことはきちんとやるけど、言われないとなかなかやらない。試合でも、サインが出ればそのとおりこなします。でも自分で考えていないから、意表をつかれるとうまく対応できないことが多いんです。
木内さんはよく「準備したか? 状況を考えたか?」と言っていましたが、僕はBCリーグの指導者になった時から「準備と状況判断」と表現し、その大切さを選手に説いてきました。
野球は、コンマ何秒という瞬時の判断が常に求められるスポーツです。練習の時から考えて動くようでなければ試合で力は出せません。だから、全体練習は全員がローテーションでだいたい同じメニューをこなし、3時間程度に抑えて夜7時くらいには終了。
そして、終わってからが本当の練習になります。自分も練習嫌いだったので、やらされる練習よりも自分で考える練習のほうがいいに決まっている。この時、いかに自分で考えて練習に取り組むかが、結果的に個々の差を生むと考えています。
その個人練習を、僕が見に行くことはいっさいありません。監督がいるからと意識してやってもらいたくないし、食べること、寝ることも練習の一環。だから、今日はやらないという選択肢があってもいいんです。すべて自分で判断しろと言っています。
【サインは絶対ではなく各自の状況判断が重要】
よく口にするのは、「野球をしなさい」。監督の出すサインが100%ではなく、試合をしているのは選手なのだから、投手の癖など感じることがたくさんあるはずです。
失敗したとしても、理由があってやったのならいいんです。与えられたことしかやらないことほどつまらないものはない。
木内さんは相手の意表をつく采配で「木内マジック」と呼ばれていましたが、当時の選手は先々の展開を読みながら準備を欠かさなかった。
「こんなところでエンドラン?」と思う場面でも、木内さんの野球が理解できていれば、あり得るなと思って準備ができる。そこでたとえくそボールが来ても決めることができたんです。だから僕らに言わせたら、それはマジックでも何でもないんですよね。
「準備と状況判断」さえできていれば、何にでも対応できる。そのことを、就任以来、口うるさく言い続けてきました。もうひと押しは必要ですが、ここに来てようやく浸透してきたかなと感じています。
投手育成も僕の大きな仕事で、「このところいい投手が育っている」と言われるととても励みになります。でもブルペンでは3人しか投げられないので、一人ひとりを指導するところまではなかなかいかない。
僕もバッピで育った人間で、打者を打ち取るにはどうしたらいいかと実戦を想定しながら感覚をつかんでいきました。だから、どういう意識で投げているのかがとても大事です。
その日の投球数などにとくに強制はなく、遠投やノースローにするかも自己判断。ただ、肩が張っているから投げないと決めても、投げてみたら力みが抜けて逆にいい球がいくなと思える時もあるんです。
高校生には難しいかもしれませんが、そうやって一歩踏み込んで考えられるようになってくれたら言うことはないですね。
【全員が戦闘モードにならなくちゃ】
指導では、言うべきことがあっても10あったらまず1しか言いません。あれこれ言ったら「全部やらなくちゃ」というふうになって、結果的にバラバラになる可能性がある。まずはいいところに特化して、それができるようになったら次の段階へ。段階を踏みながら指導するようにしています。
結局のところ、技術面よりも求めているのは野球への取り組み方です。今の選手って、絶対試合に出るんだという意識が薄く、レギュラーになれたらいい、ひいてはベンチに入れたらいいというような感覚が強く、それがすごく残念でもったいないなと感じています。
やっぱり「試合に出たい」という思いがないと、いざ代打や守備で途中出場してもなかなか力は出せません。だから、このところずっと言い続けているのが「2番手がしっかりしないとチームは成り立たないよ」。
そのためにみんなで競争してもらいたいし、レギュラーでなくてもゲームの流れを変えられるだけの存在になってほしいんです。
そして、チームでやっているのに、たったひとりでも違うことを考えていたら勝てなくなります。他のチームでも、夏前になると一軍と二軍で意識の差が出て、チームが一体化しないという例がよくあると思います。全員が戦闘モードにならなくちゃいけないんです。
大切なのは「みんなで戦う」ということ。監督だって選手から教わることがたくさんあるので、自分もその輪に入り一緒になって勝っていきたい。だからこうしたいと思うことは、選手のほうからどんどん意見してこいとも言っています。
【やるべきことをやれば甲子園で勝てる】
まもなく、監督として4度目の夏を迎えます。今春のセンバツでは、準優勝した報徳学園(兵庫)に2回戦で敗れました。
ただ、1−6という数字ほどチーム力に差はないと思っていて、この時、報徳はやるべきことをしっかりやれていたけれど、うちはそれを本番でできなかった。その差だけだと思うので、当たり前のことを当たり前にやれば全国でも勝てるチームだと思っています。
この夏のチームは、どこか僕がいた準優勝時のチームに似ている気がしているんです。期待に応えてくれたら本当にうれしいですね。
常総学院は、常に勝つことを求められているチーム。僕はそれに応えることが責務ですが、常総の選手たちのほとんどがこの先も野球を続けます。
技術も大切ですが、行く先で「常総の子はちゃんとできてるな」と感じてもらえるような選手に育てたい。「ちゃんと」というのは、下手くそでも気が利くとか、周りがよく見えているとか。
今や18歳で成人とみなされます。状況を理解し、責任ある行動が取れる選手であってほしいと願っています。そのためにも、自分のこれまでの経験を活かしながらしっかりと指導していきたいと思います。
終わり
前編<常総学院「木内マジック」の裏側...1987年夏の甲子園準優勝投手・島田直也を勇気づけた木内幸男の言葉>を読む
中編<名将・木内幸男の「唯一の失敗」とは...1987年夏の甲子園決勝・PL学園戦を常総学院のエース島田直也が振り返る>を読む
【プロフィール】
島田直也 しまだ・なおや
1970年、千葉県生まれ。