トレード・デッドラインが近づいてきた。今年のデッドラインは7月30日。
ブルージェイズは現在40勝49敗と負け越し、ア・リーグ東地区の最下位に沈んでいる(7月7日時点)。地区首位のボルチモア・オリオールズに16ゲーム差もつけられた。
ポストシーズン進出の最後の1枠、ワイルドカードの3番手に位置するボストン・レッドソックスとも8.5ゲーム離れている。レッドソックスとブルージェイズの間には5チームがいるので、状況はゲーム差以上に厳しい。
開幕前の思惑と違い、ブルージェイズは3年連続ポストシーズン進出を目指すよりも、トレード市場で主力を放出する「売り手」に回ることになりそうだ。すでに一塁手のブラディミール・ゲレーロJr.と遊撃手のボー・ビシェットについては、トレードの噂が飛び交っている。もっとも、このふたりがFAになるのは、来シーズンの終了後だ。しかも、どちらも20代なかばと若い。ブルージェイズは来シーズンとその先を見据え、彼らあるいはその一方を手放さず、延長契約を交わそうとするかもしれない。
だが、菊池は今シーズンが3年3600万ドル(約57億8000万円)の契約最終年だ。ブルージェイズは菊池をトレードで放出すれば、見返りとして選手あるいは金銭を手に入れることができる。
菊池は今年6月で33歳になった。基本的にはベテランと若手の交換という図式となる。一方、菊池が移籍せずに投げ続けて今シーズン終了後にFA市場に出ると、ブルージェイズが得る見返りは皆無だ。
昨オフ、ロサンゼルス・エンゼルスはFAとなった大谷翔平にクオリファイング・オファー(1年間の再契約)を申し出た。大谷がそれを断り、ロサンゼルス・ドジャースに入団したことで、エンジェルスはドラフト指名権を得た。
けれども、この方法は、ブルージェイズと菊池には当てはまらない。クオリファイング・オファーの金額は2000万ドル(約32億1000万円)前後。菊池が申し出を受け入れて残留した場合、ブルージェイズからすると、現在の契約からもわかるように高すぎる年俸となってしまう。
【パドレスが菊池雄星をほしがる理由とは...】
今シーズン、菊池は先発18登板で94.0イニングを投げ、防御率4.12を記録している。この防御率からすると、ローテーションの3番手としても少し物足りない気はする。
しかし昨シーズンは、前半の18登板が防御率4.24(93.1イニング)に対し、後半の14登板は防御率3.39(74.1イニング)と好転させてきた。昨シーズン後半のピッチングを再現できれば、エースとまではいかなくとも、3番手はもちろん2番手にもなり得る。
昨シーズンの前半と後半、そして今シーズンここまでの奪三振率は9.26→10.29→9.38、与四球率は2.60→2.54→2.20、9イニング平均の被本塁打は2.12本→0.61本→1.24本と推移している。
菊池に興味を示すチームは、決して少なくないはずだ。そこにサンディエゴ・パドレスが含まれていても、おかしくない。
パドレスは現在49勝43敗。ナ・リーグ西地区ではロサンゼルス・ドジャースに7ゲーム差と水を開けられているものの、ワイルドカードの2番手に位置している。
本来ならパドレスで先発3本柱を形成するはずの投手のうち、ダルビッシュ有とジョー・マスグローブは離脱していて、いつ復帰できるのかまだわからない。あとのひとり、3月中旬にシカゴ・ホワイトソックスから獲得したディラン・シースは、今シーズンこれまで18登板で防御率4.24だ。期待に応えているとは言いがたい。
シースに続き、ホワイトソックス(現在ア・リーグ中地区で最下位)からギャレット・クロシェを手に入れれば、大きなプラスになるだろう。もっとも、クロシェを獲得するにはシース以上の見返りが必要だ。
彼らがFAになるのは、シースが2025年のオフ、クロシェは2026年のオフ。
それに対し、菊池のようにFAまでに保有できる期間が短く、数カ月の「レンタル」という形になる選手であれば、そこまで大きな見返りを求められることはない。
【2017年のダルビッシュも移籍年にWS出場】
パドレスはシースとの交換に、若手3人(と他1人)を放出した。今もホワイトソックスがほしがり、なおかつパドレスが手放してもいい若手が残っているのかどうかについては、疑問符がつく。
たとえば、今年メジャーデビューした21歳のジャクソン・メリルを含む数人を放出すれば、クロシェを入手できるかもしれない。だが、そうすると本末転倒になりかねない。メリルは早くもセンターに定着し、先月中旬からはパワーも発揮し始めている。今シーズンのみならず、その先もパドレスには不可欠な選手だろう。
これまでに、7月のトレードで「売り手」から「買い手」のチームへ移った日本人選手は何人かいる。
2007年の井口資仁(ホワイトソックス→フィラデルフィア・フィリーズ)、2011年の福留孝介(シカゴ・カブス→クリーブランド・インディアンズ)と上原浩治(ボルチモア・オリオールズ→テキサス・レンジャーズ)、2012年のイチロー(シアトル・マリナーズ→ニューヨーク・ヤンキース)、2017年のダルビッシュ(レンジャーズ→ドジャース)、昨年の藤浪晋太郎(オークランド・アスレチックス→オリオールズ)もそうだ。今年の菊池も、移籍先はパドレスではないかもしれないが、そこに加わるに違いない。
彼らのうち、移籍した年にワールドシリーズ出場を果たしたのは、2017年のダルビッシュしかいない。現在の菊池と同じく、当時のダルビッシュも契約最終年だった。2011年のレンジャーズはワールドシリーズまで勝ち上がったが、上原(と建山義紀)はシリーズに出場していない。ふたりともリーグ・チャンピオンシップ・シリーズでは登板したものの、ワールドシリーズのロースターには入らなかった。
2011年のレンジャーズも、2017年のドジャースも、3勝3敗で迎えたワールドシリーズ第7戦に敗れた。今年、菊池が移籍を経てワールドシリーズに出場すれば、それがどのチームであれ、日本人選手ではダルビッシュに続くふたり目、ワールドシリーズ優勝なら初のパターンとなる。