この夏、ヒューストン・アストロズはふたりの左投手を手に入れた。トロント・ブルージェイズから菊池雄星(33歳)を獲得し、ニューヨーク・ヤンキースからケイレブ・ファーガソン(28歳)を得た。

 どちらが大きな補強であるかは、言うまでもない。菊池は先発投手、ファーガソンはリリーフ投手だ。

 菊池との交換に、アストロズは若手3人をブルージェイズに譲った。ファーガソンの対価は、若手1人とインターナショナル・サイニング・ボーナス・プール(海外のアマチュア選手と交わす契約金の総額枠)の75万ドル(約1億1000万円)分だ。

菊池雄星を「逃すわけにはいかなかった」アストロズの思惑 青木...の画像はこちら >>
 先発投手1人と若手3人のトレードは、菊池が今シーズン初めてのケースではない。たとえば、菊池移籍の数日前にザック・エフリンがタンパベイ・レイズからボルチモア・オリオールズへ移ったトレードも、レイズが得たのは若手3人だ。

 ただ、エフリンがFAになるのは来オフだ。オリオールズは来シーズンもエフリンを保有できる。しかし、菊池の場合は3年3600万ドル(2022年~2024年)の契約最終年なので、アストロズは今夏から数カ月しか保有できない。菊池は今オフのFA市場に出て、ブルージェイズやアストロズを含め、どの球団とも契約を交わすことができる。

 また、人数だけで見返りの大きさを判断することはできないが、菊池と交換にアストロズからブルージェイズへ移った3人は、ノン・プロスペクトではない。全米注目のトップ・プロスペクトまではいかないものの、いずれもマイナーリーグに詳しいメディアの『ベースボール・アメリカ』が選定したアストロズの球団プロスペクト・トップ20に入っていた選手たちだ。

 その順位は以下のとおり。先発投手のジェイク・ブロス(23歳)が2位、外野手のジョーイ・ローパーフィード(25歳)が5位、内野手のウィル・ワグナー(26歳)は19位だ。

【アストロズの先発ローテ事情は?】

 ブロスとローパーフィールドはそれぞれ、6月21日と4月30日にメジャーデビューしている。早ければ来シーズンにも、ローテーションと外野の一角を占める可能性もある。ワグナーもすでにAAAまで上がってきている。ちなみに、ワグナーの父はアストロズなどで通算422セーブを挙げたビリー・ワグナーだ。

 未来の原石よりも台頭間近の選手を交換要員に選んだのは、ブルージェイズの意向だと思われる。菊池をはじめブルージェイズがこの夏に放出した選手の多くは、今オフにFAとなる。ただ、来オフにFAのブラディミール・ゲレーロJr.(25歳)とボー・ビシェット(26歳)は手放さなかった。この動きから察するに、ブルージェイズは数年を費やして再建を行なうのではなく、来シーズンの浮上を目指しているように見える。

 一方、アストロズのゴールは、8年連続ポストシーズン進出と、2年ぶりのワールドシリーズ優勝だ。そのためには、先発投手の獲得が最優先課題だった。

 本来なら、ローテーションに並んでいるはずの投手のうち、ホゼ・ウルキディとクリスチャン・ハビエルは、6月初旬に揃ってトミー・ジョン手術を受けて今シーズンを終えた。

さらに、ルイス・ガルシア、ジャスティン・バーランダー、ランス・マッカラーズJr.も故障者リストに入っている。この3人のうち前2人は8月前半に復帰できそうだが、ガルシアはトミー・ジョン手術明けで、バーランダーは41歳。以前のような投球ができる保証はない。

 ともに30歳のフランバー・バルデスとロネル・ブランコはローテーションの1~2番手を形成しているものの、あとのふたり、20代半ばのハンター・ブラウンとスペンサー・アリゲッティは安定感に欠ける。トレードで放出したブロスも、移籍前の先発3登板は防御率6.94だ。

 アストロズは、先発投手だけでなく一塁手も欲しがっていた。大不振のホセ・アブレイユを6月半ばに解雇したが、アブレイユに代わって一塁を守っているジョン・シングルトンも結果を残しているとは言いがたい。

【アストロズでプレーした日本人は過去ふたり】

『MLB.com』のマーク・フェインサンドらによると、アストロズはレイズからヤンディ・ディアスを手に入れようとしていたらしい。だが、レイズはディアスをどこにも放出しなかった。一塁手を獲得できなかったことも、通常より大きな見返りを差し出し、菊池を得た理由のひとつだろう。逃すわけにはいかなかった、ということだ。

 とはいえ、アストロズが菊池をローテーションに加えたのは、若手3人の放出に見合う投球ができる、ポストシーズンにたどり着くためのブースターになる、と判断したからにほかならない。

 今季の菊池は防御率こそ4.75ながら、奪三振率10.12と与四球率2.33、FIP3.65を記録している。FIPはフィールディング・インディペンデント・ピッチングの略。簡単に説明すると、投球そのものを評価するため、守備の要素をできるかぎり排除した防御率だ。

 アストロズは、昨シーズン後半に菊池が記録した防御率3.39(FIP2.81)の再現を期待しているのではないだろうか。あるいは、各球種の割合や配球の組み立てなどに何らかの変更・調整を施すことにより、そうできると考えているのかもしれない。

 スタットキャストによると、今シーズンの菊池のフォーシームは平均95.6マイル。この球速は、6シーズンのなかで最も高い。それまでの最速は、2021年と2023年の平均95.1マイルだ。

 なお、アストロズでプレーする日本人選手は、2008年~2010年の松井稼頭央と2017年の青木宣親(現・東京ヤクルトスワローズ)に続き、菊池が3人目となる。マウンドに上がるのはふたり目だ。2017年6月末の試合で、青木が1イニングを投げている。

 この登板の1カ月後、青木は当時ルーキーだったテオスカー・ヘルナンデス(現ロサンゼルス・ドジャース)とともにアストロズからブルージェイズへ移籍した。

青木のトレードと菊池のトレードは、同じ2球団であることに加え、アストロズがブルージェイズから左投手を獲得したことも共通する。ブルージェイズで先発投手として投げていたフランシスコ・リリアーノは移籍後、ブルペンに回った。

 この年、アストロズはワールドシリーズ初優勝を成し遂げた。のちにホームの試合で相手バッテリーのサインを盗んでいたことが発覚したが、それだけで勝てたわけではない。このシーズンの勝率は、ホームの.593に対してアウェーは.654だ。

 青木とヘルナンデスを放出してリリアーノを獲得した時、アストロズは地区2位に15ゲーム差以上をつけていた。現在はシアトル・マリナーズと首位争いをしている。ワイルドカードの可能性もあるが、3番手との差はマリナーズとの差より大きい。それだけに、菊池のここからの投球はポストシーズンへ進めるかどうかを左右する、重要なファクターとなり得る。

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