どうなる? エムバペとレアル(後編)

 かき集めたスター選手をどのように使っていくかは、今シーズンのレアル・マドリードの大きな課題だ。これまでヴィニシウス・ジュニオール、ジュード・ベリンガム、ロドリゴ、フェデリコ・バルベルデという十分すぎるスターたちで戦っていたところに、今シーズンからはキリアン・エムバペ、そしてエンドリッキが加入し、ユーロ2024(欧州選手権)で活躍したトルコの若手アルダ・ギュレルもいる。

カルロ・アンチェロッティ監督は彼らをどのように共存させていくのだろうか。

 それを占うのが、レアルにとってシーズン最初の重要な試合、8月14日のアタランタとのヨーロッパスーパーカップになる。

 当初、この試合はチャンピオンズリーグ(CL)で優勝した時とほぼ同じチームで戦うのではないかと思われた。ロドリゴ、ヴィニシウス、ベリンガムをトップに配し、エムバペはベンチに残るというのが大方の見方だった。だが、アンチェロッティ監督は「必ずしも決勝と同じではない」と言っている。

 ミリトンがナチョ・フェルナンデス(サウジアラビアのアル・カーディシーヤに移籍)に代わって入り、ルカ・モドリッチトニ・クロース(現役引退)に代わって入り、そしてエムバペはエドゥアルド・カマヴィンガに代わって入る......。しかし、カマヴィンガは中盤の選手だ。

 アンチェロッティ監督はこの試合でマジックを使おうとしている。従来の3トップに加え、実際は存在しないオフェンシブハーフというポジションにエムバペを据えるかもしれない。また、モドリッチでなくカマヴィンガをそのポジションに据える可能性もある。フランス代表のチームメイト、カマヴィンガはエムバペをよく知っているからだ。

 いずれにせよ、エムバペをここでデビューさせるのは、大きな印象を与えることになる。

みんな世界ナンバーワンのヴィニシウスとエムバペとベリンガムが揃うのを見たいだろう、というわけだ。

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 アンチェロッティ監督にとっては頭の痛いことだろう。もともとスター軍団にダイアモンドが入った。エムバペはベンチに残すことはできない。しかしロドリゴがベンチだと、彼の価値は下がってしまう。ベリンガムは絶対ベンチを受け入れないだろう。今や世界最高の選手との呼び声高いヴィニシウスを外すこともできない......。

【「彼がレアルに合わせなくてはならない」】

 エムバペについて、アンチェロッティ監督はほとんど話さない。しかし『フォーブス』誌のインタビューではこんなコメントをしている。

「レアル・マドリードは、ひとりやふたりの選手でできているわけではない。エムバペはほかのチームメイトと同様に、チームの状況を受け入れなければならない。彼がこれを理解し、監督の決定を尊重してくれることを願う。つまり、レアルが彼に合わせるのではなく、彼がレアルに合わせなくてはならないのだ」

 エムバペには、レアルから追い出されたら行く場所がない。

アンチェロッティ監督の決定には従わなければならない。パリでのように、自分がチームの掟であるかのような振る舞いは、できないだろう。

 もうひとつ、アンチェロッティ監督が危惧しているのがエムバペのフィジカルコンデションだ。

 昨シーズンのエムバペは、パリ・サンジェルマン(PSG)との契約延長を拒否したことから、アジアツアーから外された。つまり、プレシーズンにできちんと準備ができていなかった。また昨シーズン中も多くの試合を欠場しているし、ベンチスタートも多かった。これは将来を見据えたPSGが、エムバペのいない状態に慣れるためでもあった。

 その結果、昨シーズンのエムバペの出場試合数は、18歳でPSGに来て以来、一番少なかった(それでも歴代最高の44ゴールを挙げたことは見事だが)。シーズン後のユーロ2024では鼻を骨折、彼自身のプレーにいいところはなかった。

 この夏のレアルのアメリカツアーにも、エムバペは帯同しなかった。エムバペの体調は完全ではない。チームに合流してからも、あまりハードな練習には参加しない日が続いている。

チームは彼に再びケガをされるのが怖いのだろう。スーパーカップに出るとしたら、鼻を骨折して以来、初めてガードを外しての試合になる。

 こういう不安もあってか、いま、エムバペにはフィジカルトレーナーのアントニオ・ピントゥスがほぼつきっきりで指導している。ピントゥスはクリスティアーノ・ロナウドマンチェスター・ユナイテッドからレアルに来た時のプロジェクトの責任者であり、ロナウドの肉体を、世界に誇るシックスパックに変えた人物だ。その彼がつくということは、レアルは我々が思っている以上にエムバペの体調を気にしている、という証拠でもある。レアルはなにがなんでもエムバペが最高の力を出せるようにしたいのだ。

【戦力的には最強チームだが...】

 プレーとは別のところでの懸念材料もある。エムバペは7月末、フランスリーグ2部のチーム、カーンの筆頭株主となった。夢は1部に昇格させることだという。レアルはエムバペがこのチームの運営に熱中して、自身のプレーがおろそかになることを心配している。これについてはアンチェロッティ監督やフロレンティーノ・ペレス会長がエムバペと話し合い、「君はプロとしてここに来たのだから、それは自覚してほしい」とクギを刺している。

 それにしても、引退間近ではなく、25歳という一番脂の乗った時期の世界トップクラスの選手が、他チームのオーナーになるなどという例は、これが初めてだろう。

 手持ちのカードだけから見れば、現在のレアル・マドリードは最強のチームだろう。そして歴代最高を目指すのだろう。だが―――簡単ではない。このチームにはエゴがいっぱいだ。ロドリゴはそれほどでもないかもしれないが、ヴィニシウス、ベリンガム、エムバペ、そして監督のアンチェロッティも非常に強いパーソナリティを持つ。

 シーズン開幕当初は問題ないかもしれない。新生ガラクティコス(銀河系軍団)としてともにプレーすることの大事さは、選手たちもわかっている。しかし、シーズンが進むにつれて不満が噴出し、彼らのエゴがぶつかり出す場面があるだろう。

 それに拍車をかけるのがプレッシャーだ。このチームは何が何でも勝たなくてはいけない。CLでもリーガでも絶対的な勝利を求められる。チームの上には「100%の勝利」という大きな岩が乗っているようなものだ。

もし負けることがあれば、状況は変わり、犯人探しが始まるだろう。

 エムバペ個人にしてもそうだ。最初は「まだ慣れていないから」と言い訳ができるかもしれないが、それが通用する期間はそう長くはない。彼への期待が大きければ大きいほど、失望も大きくなる。これはパリでも見てきた風景だ。それでも彼が王様でいられたのは、それがPSGだったから。レアル・マドリードで、それはありえないだろう。

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