近年のプロ野球は、"真のレギュラー"と呼べるような若手の選手が育っていない――。かつて大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)で活躍し、現在は野球解説者やYouTubeでも活動する高木豊氏は、そう警鐘を鳴らす。
なぜ、そのような事態に陥っているのか。複数の選手を例に挙げてもらいながら、「選手が育たない」理由を語ってもらった。
【我慢して使い続けないと選手は育たない】
高木豊(以下:高木) 最近の若手は、結果が出ないとすぐに代えられてしまいますよね。その場しのぎで使って、その場しのぎで終わってしまうというか......それで、その後はなかなか出てこない。昔とは起用法が違っていて、「レギュラーにしよう」とか「一人前になるまで我慢しよう」と思う選手がいないのかなと。昔は"この選手"と目をつけたら、ある程度は代えずに使い続けましたけどね。
今季でいうと巨人の門脇誠が、ずっとショートのスタメンで使い続けるのかなと思っていたら、途中で泉口友汰にコロっと代えた。その時点で、門脇のモチベーションは下がるわけじゃないですか。その後もちょこちょこは使われてますし、「最低限の仕事をしていない」という理由もあると思うのですが、それだと選手は育ちません。
――ほかに、うまく育てられていないと感じる選手はいますか?
高木 DeNAの3年目、梶原昂希もそうです。ものすごく期待されているし、それだけの素質もあると思います。でも、6番・センターで開幕スタメンを飾るも、4月下旬に登録抹消。再度一軍に登録された5月下旬からは1番などで起用されて結果を残していますが、調子が悪くなったらまたすぐに代えられてしまうんじゃないかと。
ルーキーの場合は使いすぎると故障につながりかねないので、少し休みを入れながら、というのもわかるのですが、3年目や4年目の選手がすぐに代えられてしまうと「今後はどういう使われ方をするんだろう」と不安になりますよね。ソフトバンクでは、3年目の外野手の正木智也は出場が続いていて結果も出していますが、柳田悠岐が帰ってきたらポジションはなくなるのかな、とか。そうなってしまったら、いつまでも正木は柳田を抜けないですよね。
――首脳陣はなぜ、若手の選手たちをすぐに代えてしまうと思われますか?
高木 我慢ができないんじゃないですか。今は監督やコーチが選手との距離が近すぎるとよくないとか、「ひいきしている」などと言われるので、あまり近づけないと思うんです。そうなってくると、愛情をかけにくいですよね。感情だけでスタメンを選ぶなんてことはないでしょうが、"この選手"と思うような選手がいなければ、育てるよりも、その時に状態のいい選手を使っていくことになります。ドライにならざるを得ないというか......。
近年で例外だったのは、DeNAの牧秀悟や阪神の佐藤輝明。ポテンシャルがあって、ルーキーイヤーからいい数字を残してホームランも打てて、ポジションを与えられている。ただ、そんな選手はごくわずかですよ。
【求められる、監督やコーチ陣の精神力】
――ある程度続けて起用されないと、育つ選手も育たなくなる?
高木 昔、川相昌弘(元巨人、中日)が犠打の世界記録(通算533犠打)を作りましたよね。
調子が落ちて打てなくなって、チームに貢献できない選手は使い続ける必要がなく、代えられることは当然という考えが普通になってきている気がします。それと、将来のビジョンを描きながら選手を使う、"先見の明"がある指揮官が減ったということです。中途半端に競争はさせるけど、結局は育てていくべき選手、レギュラーを決められないという事態に陥っていますよね。
――先見の明がある指揮官が減ったと思われる理由は、どこにあると考えていますか?
高木 SNSなどで批判を浴びることの影響は大きいでしょうね。「なぜ、あんなに打てないのに代えないんだ?」「なぜ、あの場面で続投させたんだ?」とか、世間の声が届きやすいじゃないですか。それをどこかで見たり聞いたりすれば、気になることもあるでしょうし、選手を代えることも日常茶飯事になっていく。
結果が出ない選手を代えておけば、"何かを考えている風"になるんですよね。逆に代えなければ、「あの指揮官は何も考えていない」と言われてしまう。そういったことを気にして選手を起用していては、選手は育たないということです。
――改善していくための手段は?
高木 監督やコーチに精神的な強さが必要です。DeNAのルーキー、度会隆輝は開幕から起用され、新たなレギュラーがひとりできたような空気がありましたが、打てなくなったりエラーなどをするたびに「なぜ代えないんだ?」「なぜ、ファームに落とさないんだ?」という批判が大きくなっていった。
それでファームに落とし、調子が上がってきたら一軍に上げて使う。でも、またエラーをして度会の精神的にガタガタになり、また使われなくなる。厳しい時期があっても使い切らないと、強くならないんですよ。周りの環境がそうさせないというか、踊らされてしまっているというか......。そんなことを繰り返していたら、選手は「スランプの脱出方法」がわからないままで終わってしまいます。
――チームによっては、あらかじめひとつのポジションを複数の選手で回していく想定で起用していることもあるのでは?
高木 そういうケースもありそうですね。シーズン中に筋肉量が落ちた選手は試合に出さない、練習させない、という方針で選手起用をしているチームもあると聞きますし。どの選手が出ても同じようなレベルを保てるのであればいいのかもしれませんが、なかなかそうはいきません。特に若い選手は、試合に出続けることによって、レギュラーとしての責任感を含めて育っていく。繰り返しになりますが、やはり監督やコーチに精神的な強さが求められると思います。
【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)
1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。
■元プロ野球選手のYouTuberのパイオニア
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