今季は、ノーヒットノーランや完全試合ペースの快投をしていたピッチャーが、急に大量失点を喫してしまうシーンが目立つ。

 記憶に新しいところでは、7月17日の西武戦で、オリックスの宮城大弥が5回まで1四球のみの無安打投球を続けていたところから、6回に6安打を許して5失点。

7月28日の楽天戦では、ロッテの種市篤暉が5回まで完全試合ペースだったが、6回に打者一巡の猛攻を食らい7失点した。

 なぜ、完ぺきな投球を見せていたピッチャーが急に崩れることがあるのか。長らくオリックスのエースとして活躍し、引退後はオリックスの投手コーチも務めた星野伸之氏に分析してもらった。

「快投→急に炎上」が目立つのは山本由伸の影響? 星野伸之が理...の画像はこちら >>

【山本由伸の影響も?】

――今季は、好投していたピッチャーが急に打ち込まれるシーンが多い印象があります。その理由は何だと思われますか?

星野伸之(以下:星野) イニングを重ねていくと、球威は当然落ちていきますよね。それに加え、山本由伸(ロサンゼルス・ドジャース)の影響を受けているのか、ストライクゾーンでどんどん勝負していくピッチャーが以前よりも増えました。「無駄な球はいらない。3球勝負もアリだ」みたいな感じになってきていると思うんです。

 確かに、ストライク先行はピッチャーが有利になる投球パターンなのですが、6、7回とイニングが進み、球威が落ちてもそのパターンを続けていると、当然バッターも目が慣れてきますし、最初の打席では空振りしていた球でもとらえやすくなりますよね。ゾーンに来る球であればなおさらです。

――ストライクゾーンに投げすぎていることが、急に打たれてしまう要因のひとつ?

星野 その可能性があるんじゃないのかなと。なので、もう少しボールを散らしてみたり、工夫したほうがいいと思います。ただ、どんどんゾーンで勝負して球数を減らそうとするのは、「自分ひとりで投げきろう」という気持ちの表われなのかもしれません。

フォアボールが増えれば、ベンチはリリーフを準備させますしね。

――ストライク先行の投球は、山本投手だからこそ成り立っていた部分はありそうですね。

星野 そうですね。由伸のピッチングスタイルは球数も少なくて理想的なのですが、球種が豊富なうえ、どの球種も勝負球に使うことができ、カウントが取れるからこそ有効なピッチングスタイルなんだと思います。彼はスタミナもあって、イニングが進んでも球威が衰えませんしね。

 それと、無安打無得点で試合が進んでいると、ブルペン陣に「肩を作ってくれ」とはならないはず。なので、それまで抑えていたピッチャーが打たれ始めても、リリーフのピッチャーが肩を作るまでは踏ん張ってもらわないといけません。そこで連打をくらって、大量失点をしてしまうことも往々にしてありますよね。

【急に炎上しないための策は?】

――ストライクゾーンにボールを集めるのではなく、散らしていくことも必要?

星野 僕らが現役の頃は「揃えすぎるな!」と言われたりしましたね。たとえば、バッターの目が慣れてくる3巡目は、ベンチとしても「継投をどうしようか」と考えるタイミングですし、心配するところなので。ましてやノーヒットノーランや完全試合を意識するような試合は通常とは違う緊張感があったり、余計な力が入ってしまいます。逆に1安打打たれているほうが気楽に投げられて、トータルで見ればいいピッチングだった、ということもあります。

――出塁を許さない状況だったのが、試合の終盤に初めてランナーを出してセットポジションになり、バランスを崩すこともある?

星野 確かに、そのタイミングでリズムやバランスが多少変わるので、打たれてしまうケースもあるかもしれません。ただ、普段からセットポジションでも投げているわけですし、ひとり目のバッターの時は違和感があるかもしれませんが、そこまでの影響はないと思います。ただ、先ほどもお話したように通常とは違う緊張感があるので、1本打たれた時に張り詰めていたものがフッとなって、バランスを崩すことにつながる、ということは言えるかもしれません。

――宮城投手は7月17日の西武戦で5失点したあと、次に先発した7月26日のソフトバンク戦では初回に4失点を喫してしまいました。

星野 1、2番を抑えたあと、栗原陵矢に内野安打を打たれて山川穂高に本塁打を打たれましたよね。宮城はかなり飛ばしていてガンガン投げ込んでいたのですが、山川がうまく打ったなという印象です。その次の8月2日のロッテ戦でも、2回に3失点している。本来は一気に何失点もするようなピッチャーではないのですが、西武戦で悪いイメージがついてしまったのかもしれません。

――解決する方法は?

星野 宮城にはすばらしいクロスファイヤー(利き腕と対角線上のコースに投げ込む真っすぐ)があるのですが、基本的に右バッターに対しても左バッターに対しても全部それなんです。山川に打たれたのもクロスファイヤーでしたが、右バッターに対しては外に逃げる球があるとピッチングの幅が広がるかなと。

 ちょっと外寄りの甘いところから際どいところへ逃げるチェンジアップなんかがあれば、バッターも追いかけてくれるはず。そういった球があるとクロスファイヤーも生きると思います。

今は、右バッターに対しては全部入っていく球というイメージが強いので、バッターも来る球を予想しやすいんですよね。

――そうすると、配球のバリエーションも増えますし、急に打ち込まれてしまうことも回避できそうですね。

星野 そうですね。これはほかの投手にも共通することですけど、相手があまりイメージしていない球を織り交ぜながら、狙い球を絞らせないことが大事です。僕は現役時代にインコースはあまり使わなかったのですが、点差がついて余裕のあるときにはあえてインコースを使ったりもしていましたしね。

 急に打ち込まれる理由として、先ほど「ストライクゾーンに球を集めすぎでは?」という話をしましたが、完ぺきに抑えている時はテンポが単調になっていることも多いです。その場合はしっかりと間を取るべきですし、相手に慣れさせないことが重要ですね。

【プロフィール】

星野伸之(ほしの・のぶゆき)

1983年、旭川工業高校からドラフト5位で阪急ブレーブスに入団。1987年にリーグ1位の6完封を記録して11勝を挙げる活躍。以降1997年まで11年連続で2桁勝利を挙げ、1995年、96年のリーグ制覇にエースとして大きく貢献。2000年にFA権を行使して阪神タイガースに移籍。通算勝利数は176勝、2000三振を奪っている。

2002年に現役を引退し、2006年から09年まで阪神の二軍投手コーチを務め、2010年から17年までオリックスで投手コーチを務めた。2018年からは野球解説者などで活躍している。

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