寺地拳四朗 単独インタビュー後編
(前編:ボートレーサーになりたくて始めたボクシングで世界王者になるまで>>)
元WBAスーパー、WBC世界ライトフライ級王者・寺地拳四朗(B.M.B)がフライ級に転向し、10月13日のWBC世界フライ級王座決定戦でクリストファー・ロサーレス(ニカラグア)と対戦する。
次戦が発表される前に実現した単独インタビューの後半では、最近のキャリアを振り返ってもらいながら、一番嬉しかった試合、唯一気負ったタイトル戦などを語ってもらった。
【激闘になった前戦の反省点は?】
――今年1月、大阪で行なわれたライトフライ級王座の防衛戦はすごい試合でした。ダウン応酬の末、カルロス・カニサレスに2―0の判定勝ちを収めましたが、激しい内容でしたね。
KT:あの試合はなかなか大変でした。攻めるペースは悪くはなかったですが、前に出過ぎた部分があります。バックステップが少なかったし、距離もちょっと近過ぎたのかもしれません。だから被弾が増えた感じがあります。今はそれを修正して横の動きを増やしたり、ガードがけっこう緩む時があったので、その意識を変えたりしています。あとはクリンチもできなければいけないと思うので、その練習も必要ですね。
――反省も出てきますが、ファンを喜ばせる試合をした喜びもあるのでは?
KT:やりがいはあったかなと思います。打ち合ったほうがファンは盛り上がりますし、その点ではいいでしょう。ただ、(身体のことを考えたら)よくはないっす(笑)。試合当日は頭が痛かったですね。最近は本当に被弾が多く、あのままの戦い方ではダメージが大きすぎるので、ディフェンスをしっかり直さないといけないと思います。
――最近そういう試合が多いのは、お客さんの反応を気にしているところがあるのでしょうか?
KT:無意識に「盛り上げたい」と思っているんですかね。ここ数戦はメインイベントでしたし、倒したい気持ちもあります。最近は試合が面白いと言われることもあるから、そういう気持ちが出ている部分はあるのかもしれません。
――もともと攻撃だけではなく、何でもできるオールラウンダーですが、一番自信を持っているのはどこですか?
KT:まずはスタミナと手数の多さですかね。そこは負けないんじゃないかなと思います。練習量も豊富だし、生まれ持ったものもあるのでしょう。長距離とかも得意だし、スタミナでは負けない自信があるから、あのペースで戦えるんですよ。
【唯一、気負った試合は?】
――『リングマガジン』のパウンド・フォー・パウンド・ランキングでは現在11~15位くらいで、トップ10に手が届くところにいます。また、ライトフライ級では"リングマガジン王者"になり、階級最強と認められていました。
KT:それは、まあ入ればいいなあというくらいで、そこまでのこだわりがあるわけではないです。(リングマガジン王者も)嬉しいですけど、実感はないですね(笑)。
――フライ級に上げた後、標的のひとりになりそうなWBA王者・ユーリ阿久井政悟選手の印象は?
KT:プレスが強いですし、プレッシャーをかけるのがうまいですね。右が強くて、前にガンガンいくけどガードもいい。
――同じ世代でボクシング界を牽引している井上尚弥選手は、寺地選手にとってどういう存在なのでしょう?
KT:別格かな、と思います。日本のボクシング界を盛り上げてくれているので、それはすごくいいですよね。階級が違いますし、ライバルとかそういう感じではないですが、マジで強いなと思います。彼を目指しているとかではないですけど、(自分とは)距離があるとは思いますよ。
――寺地選手はいつも淡々としているように見えますが、腹を立てたり、怒ることはあるんでしょうか?
KT:あまりないですね。怒るのって面倒くさいじゃないですか。腹立つことがあっても、それに関わらずに違うことをします。人に執着はしないです。
――試合中に焦ったり、我を忘れた経験は?
KT:焦りはありますよ。そういう状況になったら「もういくしかない」と割り切ることはできますね。
――試合中、気負ったような状態になったことは?
KT:普段は全然ないです。あえて言うなら、(2022年3月の)矢吹正道選手とのリマッチくらいじゃないですか。あの試合に関しては少し気負いがありました。(一度敗れてタイトルを失った後で、)「負けたら終わりやな」というプレッシャーがあったので、気持ちは入っていました。
――その再戦は3回KO勝ち。雪辱を果たしましたが、思い出深い勝利なんじゃないですか?
KT:そうですね。
【ボクシングは「長くてあと2年」】
――これまでで最強の相手を選ぶとしたら?
KT:前回の相手(カニサレス)は強かったですよ。「やばい」と思う時もありました。パンチもありましたし、いつもだったら相手のスタミナが先に落ちてくるんですけど、それもあまりなかったです。休むところは休んで、ラウンド終盤に攻めてくる。休みの取り方がうまかったなと思います。
――好きだった、もしくは現在好きなボクサーはいますか?
KT:昔からいないですね。他人に興味がないんかな(笑)。
――ボクサーは好きではなくとも、猫が好きと聞いています(笑)。
KT:2匹です。家のサイズが大きくなればもっと飼えるかなと思いますけど、今のサイズでは2匹が限界。ノルウェージャン・フォレストキャットとスコティッシュフォールドです。昔、実家では犬を飼っていたんですけど、猫カフェに行ってからハマっていった感じです。家が好きなんで、いつも猫と一緒にウダウダしていますね。
――ほかに趣味はあるんでしょうか?
KT:あまり趣味という趣味はないです。ご飯を食べるくらいで、ゲームもやらないし......趣味、欲しいですね(笑)。大人になったら、あまり趣味ってできなくないですか?
――ボクシングの試合もあまり見なさそうですね。
KT:見ないです。会場に行くのはジムメイトの試合くらい。あとは井上尚弥vsルイス・ネリ戦みたいなビッグイベントに顔を出すくらいで、自分でチケットを買ったりはしないです。ボクシングのチケットは高いですから(笑)。
――寺地選手は現在32歳。今後、どのくらいまでボクシングを続けたいですか?
KT:長くてあと2年くらいじゃないですか。あまり長くはやりたくないですね。ダメージのこともあるし、引退してからのほうが人生長いし、ここで身体を痛めるのも嫌だなと。いざ2年経ってみたら、まだやっているかもしれませんけどね(笑)。
ただ、やめ際はきれいに、とは思っています。ピーク過ぎてからもやってる人もいますが、そうはなりたくはない。パフォーマンスが落ちてきたら、周りに言ってほしいですね。筋力トレーニングのトレーナーにも「ピークを過ぎたら言ってください」と伝えてあるんです。そう考えたら、あと2年くらいかなと思います。
――逆に言えば、今はピークだということですね。
KT:今はまだそうですね。でも、自分のピークは自分ではわからないと思うんですよ。人から言ってもらわないとわからないから、言って下さいって感じです。
――引退後は何をするつもりですか?
KT:何をするでしょうね......。教えるのは下手だと思うので、トレーナーとかは無理でしょう。教えるより、自分でやるほうが簡単ですから。まあ1年くらいブラブラしようかなと。そのうちに、何かやりたいことが見つかるんかなと考えています。無理にやりたいことを見つけようとしないでもいいかな。そういう感じです(笑)。
【プロフィール】
●寺地拳四朗(てらじ・けんしろう)
1992年生まれ、京都府出身。B.M.Bボクシングジム所属。関西大学卒業後、2014年にプロデビュー。6戦目で日本王座、8戦目で東洋太平洋王座を獲得し、2017年、10戦目でWBC世界ライトフライ級王者になり8度防衛。2021年9月に矢吹正道に敗れ陥落するが、翌年3月の再戦を制し王座返り咲き。2022年11月には京口紘人を破ってWBA王座も獲得。今年7月、フライ級転向に伴い、WBAスーパー・WBC世界ライトフライ級王座を返上。10月13日クリストファー・ロサーレスとWBC世界同級王座決定戦を行なう。24戦23勝(14KO)1敗