7-0と大勝しても喜べない場合もある。W杯アジア3次予選の初戦、中国戦である。

中国が想像を絶する、度を超えた弱さだったことと、それは大きな関係にある。鑑賞に堪えがたいとはこのことで、最終予選で行なわれる試合としてはミスマッチに値した。

 敗れた相手の側を一方的に責めるのは道義的にいかがなものか、弱者への配慮はないのかと突っ込まれそうだが、中国は人口14億人を誇る大国である。サッカーは卓球やバドミントンを凌ぐ人気ナンバーワンのスポーツとして知られる。にもかかわらず弱い。中国人は自国のサッカー代表チームの弱さについて指摘されるのが大の苦手だと聞かされたことがあるが、日本に7点差で敗れたいまの心境は推して知るべし。同情したくなるほどだ。

 森保一監督が、今回のメンバー発表会見の席上でとうとうと語った中国脅威論は何だったのか。見る目はあるのか。相手を本当にきちんと分析しているのか。ブランコ・イバンコビッチ新監督率いるそのサッカーを最大限持ち上げ、警戒してみせた森保監督にも懐疑的な目を向けたくなるのだ。

 一緒になって脅威論を唱えることで前景気を煽ろうとしたメディアも同罪だ。

7-0で敗れた中国を強敵だ、大変だと大騒ぎし、世間をミスリードした罪は重い。サッカーの枠を超えた大問題だと、むしろその報道姿勢を憂いたくなる。

サッカー日本代表が救われた中国のあまりの不出来 大勝でも浮か...の画像はこちら >>
 後半32分、伊東純也のゴールで5点目が決まると、何千人というファンが席を立ち、出口に向かった。後半42分、前田大然の6点目が決まると、その数はさらに増え、アディショナルタイムの久保建英が決めた7点目のゴールまでしっかり見届けたファンは来場者の7割程度に留まった。皮肉にも、日本がゴールを重ねるほど、展開的には面白みが薄れていった。

「我々を応援する人に勝利を届けることができて嬉しい」とは勝利監督インタビューで、森保監督が毎度口にするお決まりの台詞だ。しかし、ファンがアジアの最終予選に期待していることは楽勝ではない。適度な接戦。ちょっとしたハラハラ感でありヒリヒリ感だろう。ひとつやふたつ敗れても、予選を突破すれば問題なし。かつてのジョホールバルの戦いではないが、プレーオフまで行くことを望んでいるファンだって少なくない。大げさに言えば、予選は通ってくれれば問題なしだ。

【「7対0」というより「2対-5」】

 期待していたその"予選らしさ"を、この中国戦からまるで味わうことができなかった。もちろん勝利の喜びに浸るファンのほうが多数派ではあるが、失望感を覚えるファンも少なからずいた。ハラハラ感、ヒリヒリ感は後半の途中から完全に失われた。帰路を急いだファンの姿は、在り方として正しいものに見えた。

 集まった観衆は5万2398人。埼玉スタジアムの定員が6万3700人なので、収容率はおよそ82%だった。メディアが中国の脅威で危機感を煽っても、スタンドには空席が目立った。日本代表のW杯アジア最終予選といえば、かつてはプラチナペーパーだった。1時間足らずで完売したこともあった過去が懐かしい。この日来場した5万2398人のなかで、次回も絶対に足を運ぼうと考えているファンはどれほどいるだろうか。そうした視点でこの試合を振り返っても、喜べない試合になる。

 日本のよさが目立ったというより、中国の不出来に救われた試合。「7対0」というより、印象的には「2対-5」という感じの一戦だった。

 前半12分、遠藤航がCKをヘディングで決めた先制点シーンから拍子抜けだった。久保がCKを蹴った瞬間、遠藤についていた中国のマークは何を思ったか、その場を離れ、どフリーにした。ゴール前であれだけフリーでヘディングを打てるケースを見たことがないと言いたくなるほど、その先制ヘッドはイージーゴールだった。

 試合はハーフコートゲームならぬ、3分の1コートゲームとなった。攻める日本、守る中国の構図は鮮明になった。だが三笘薫がヘディングで2点目を決めたのは前半のアディショナルタイム(45+2分)だった。日本の問題を探すとすれば、この間のプレーに見て取ることができた。攻めあぐんではいないが、攻めきれていない。惜しいチャンスは作った。しかし、決定機を再三にわたって外していたというわけではなかった。

 そこでまず浮かび上がった問題は、1トップ上田綺世の迫力不足。存在感の希薄さにある。

その原因は風格を感じさせない上田自身の問題に加え、彼が攻撃の軸になっていない攻めの在り方にあった。ヴィッセル神戸大迫勇也鹿島アントラーズの鈴木優磨になり得ていないのだ。周りを囲む選手のほうが主役に見えてしまう。

【相手ボール時のリスクは露わにならず】

 ボールに触る回数が、たとえば3-4-2-1の2シャドーの一角としてプレーした久保建英に比べると圧倒的に少ないのだ。中心選手が久保に見えてしまう。それが上田に見えてこない限り、ゴールへのルートは鮮明にならない。

 濃いプレーをする久保が中央に入ると、その傾向は強まった。相手のレベルが高ければ、攻めあぐむことになったはずだ。

 久保は左利きが強いので、内に入ると進行方向が偏る。巧そうに見えるが、相手に読まれやすい。真ん中よりやや右が定位置になるが、右に出ると今度はウイングバックの堂安律とポジションが重なった。堂安もまた左利きが強い選手だ。

縦に出るプレーより内に入るプレーのほうが断然多い点でも共通する。ともに、三笘のように縦に出るフェイントがないので、右サイドでは推進力が生まれにくい。最深部からのマイナスの折り返しはほぼ期待できない状況にある。

 その点では三笘と南野拓実で構成する左のほうが数段スッキリしている。1トップ上田との関係も右サイドより良好だと言えるが、前線の人数が多すぎることも、上田の存在感が希薄になる理由のひとつだと言える。

 この日の布陣である森保式の3-4-2-1は、5バックになりやすい、本来は守備的な布陣だ。勘違いをしている人もいるが、攻撃的な布陣ではまったくない。だがこの日、その布陣上に配された選手は攻撃的な選手が多かった。ウイングバックを務めた選手が、サイドバック系ではなく、ウイング系の選手(三笘、堂安)だったからだが、相手が弱すぎたため、相手ボール時のリスクは露わにならなかった。

 相手との力関係がもう少し接近していたら、バランスを欠く危なっかしい並びである。それを恐れれば、5バックの時間が長くなる。サッカーは必要以上に守備的になる。

中国脅威論の言い出しっぺである森保監督は何を考えてこの作戦を考えたのか。中国が森保監督の想像を超えた弱さだったために露呈しなかった問題であると、筆者は考える。

 あるいは、この予選を通じて露呈することがない問題かもしれない。だが、出るところに出れば確実に狙われる。W杯本大会では使えない作戦だと言いきれる。日本代表のいちばんの心配の種は森保采配にあり。守備的布陣上に可能な限り攻撃的な選手を当てはめた選手起用との整合性に疑問を覚える。

 はたしてバーレーン戦はハラハラ、ヒリヒリした展開になるだろうか。目を凝らしたい。

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