ワールドカップ・アジア最終予選の初戦・中国戦(結果は7-0)。開始12分に久保建英のCKに合わせた遠藤航の強烈なヘッドで、幸先よく先制した日本だったが、その後は中国の守備にやや手を焼いた。
この日の中国のパフォーマンスを見れば、1点あれば勝利することは可能だっただろう。一発のカウンターでやられる気配もほとんど感じなかったからだ。
とはいえ、1点で終わってしまえば、消化不良感は否めなかっただろう。得失点差に関わる問題もあるが、アジア最終予選は守りを固める相手をいかに崩していくかも、日本のテーマであるはずだからだ。そんな閉塞感を打ち破ったのは、帰ってきた背番号7だった。右サイドから送り込まれた堂安律のクロスにファーサイドから飛び込み、角度のない位置から見事なヘディングシュートを叩きこんだ。
「ウイングバックからウイングバックっていうのは狙いでもありましたし、練習でも言われていたこと。クロスの質次第ではフリーになれていたので、あそこは毎回狙っていました」
三笘薫はクールな表情を崩さず、淡々とゴールシーンを回顧した。
三笘にとっては故障明けで参戦し、苦杯を舐めたアジアカップのイラン戦以来、7カ月ぶりの代表戦だった。コンディションが整わず、代表はおろか、所属するブライトンでも輝きを放てず、昨季は屈辱のシーズンを過ごしている。
巻き返しを期す今季は、プレミアの開幕戦(対エヴァートン)でいきなりゴールを奪い、続くマンチェスタ--・ユナイテッド戦ではチームに勝利をもたらすアシストもマークした。
ふだんから一列下がった左ウイングバックとして出場した三笘だったが、開始早々にサイド深くに切れ込むと、上田綺世にラストパスを供給。6分にはロングフィードに抜け出して、鋭いクロスをエリア内へと送り込んだ。
【三笘の攻撃を後方から支えた町田浩樹】
堂安律と久保建英がつかず離れずの距離感で、ポジションを入れ替えながら連動して崩していく右サイドに対し、左の三笘は対峙する相手がひとりでもふたりでも意に介さず、単騎突破で直線的にボールを前に運んでいった。ウイングよりも守備の度合いが高くなるウイングバックであっても、三笘は攻撃性を保ち続けた。
「ボール持った時はウイングの立ち位置をとって、高い位置で仕掛けることは求められていました。でも、ロングボールに対してはしっかりと後ろで構えることも考えていました。ウイングバックでも、ウイングでも、やるべきことはチームの勝利に貢献すること。そこは意識しながらプレーしていました」
三笘のドリブルは、中国のディフェンダーではとうてい太刀打ちできない代物だった。何度もサイドを崩された中国が後半から5バックに変更したのも、三笘の存在が厄介だったからだろう。
守備意識を持ちながらも、三笘がストレスなく攻撃を繰り出せたのは、3バックの左に位置した町田浩樹の存在も大きかった。町田はロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズでともにプレーした、かつてのチームメイトである。
「彼の左足は素早いボールで足もとに届けてくれるので、より早く仕掛けられることは武器になると思っています。
頼れる元同僚の後方支援を受けながら躍動した三笘は、52分には南野拓実に斜めのスルーパスを通し、アシストも記録した。
「南野選手は間で受けることもできれば、得点シーンのように後ろから入ってきて前で仕掛けることもできる。距離感が埋まれば自分が仕掛けるっていうことも含め、レパートリーを考えながらうまくやれたと思います」
その後に再び南野が決め、4点差がついた63分に三笘はお役御免となった。1得点・1アシストという目に見える結果だけはなくプレーの印象度も高く、あらためて三笘の存在感の大きさが浮かび上がった。
【最強攻撃陣の中でも毛色が異なる特性】
三笘がピッチを去ったあとも日本は攻撃の手を緩めず、3点を追加した。
「いろんな選手がいろんな形で得点を取れるのはすごく層が厚いってことですし、より競争も激しくなってきている。でも、やっぱり最終予選はワールドカップを決める大会なので、いろんな人が結果を出すという気持ちでやれているとはすごくいいことだと思います」
三笘、南野、久保がゴールを奪い、堂安もアシストを記録。さらに三笘と同じくアジアカップ以来の復帰となった途中出場の伊東純也に加え、前田大然にもゴールが生まれている。また、三笘のポジションには台頭著しい中村敬斗の存在もある。
豪華なタレントが揃う日本の攻撃陣は、歴代最強といっても過言ではないだろう。そのなかでも、守りを固められてもひとりで打開できる三笘の特性は、他選手とは毛色が異なる。
もはやワールドクラスに達した三笘薫が、ワールドカップ悲願のベスト8入りを目指す日本代表の命運を握っている。