清水直行が語るロッテの現状 投手編

 9月5日の時点でパ・リーグ3位のロッテ。8月は12勝15敗と負け越し、主力に複数のケガ人が出るなど苦しい状態が続いている。

残り試合が少ないなかで巻き返しをはかるには、チーム防御率がリーグ5位(3.24)と低迷中の投手陣の復調が欠かせない。

 長らくロッテのエースとして活躍し、2018年、19年にはロッテの投手コーチも務めた清水直行氏に、投手陣に対しての見解を聞いた。

ロッテはCSへ正念場 清水直行が語る新加入のサイ・ヤング賞投...の画像はこちら >>

【サイ・ヤング賞投手、カイケルの印象は?】

――まず、先発投手陣の印象はいかがですか?

清水直行(以下、清水) チームの勝ち頭(9勝)である小島和哉は好不調に波がありながらも投げてくれていますし、種市篤暉はピッチングが大人になった。C.C.メルセデスは後半戦で疲れが出始めていますが、佐々木朗希が復帰後はローテーションを守っていて、ベテランの唐川侑己や石川歩が戦列に戻ってきてくれたのも大きいです。チーム2位の8勝を挙げている西野勇士の頑張りも光りますね。

 あとは、途中加入のダラス・カイケルが及第点のピッチングを見せてくれていますし、先発ピッチャーが揃ってきたなと思っていたのですが......その矢先に、種市が右足内転筋の筋損傷で離脱してしまいましたね(9月3日に登録抹消)。これはチーム全体でカバーしていくしかないです。

――7月に加入した、2015年サイ・ヤング賞投手のダラス・カイケル投手のピッチングはどうですか?

清水 ツーシームを軸にして、右バッターにはチェンジアップ、左バッターにはスライダーやカットボールという組み立てなのですが、ピッチングに"うまさ"を感じます。初登板のソフトバンク戦の初回こそ浮足立っていて打たれてしまいましたが、すぐに立て直して無失点に抑えたあたりは、「さすがサイ・ヤング賞投手だな」と思いました。ここまで先発で4試合に先発(9月5日時点、以下同)していますが、すでに感覚をつかんできていますよね。

 日本のストライクゾーンや、相手チームのバッターの特徴などをインプットしている段階だと思いますが、マウンドやボールには慣れてきている。もう少しバッターとの対戦が増えて、生活環境も落ち着いて、チーム内でのコミュニケーションがよくなっていくと、パフォーマンスはさらに向上していきそうです。何よりも"生きた教材"としての価値は、ロッテのピッチャー陣にとって大きいです。

――カイケル投手の加入はプラス材料ですが、やはり種市投手の離脱は痛いですね。

清水 そうですね。ベテランの唐川や石川に多くのイニングを投げさせることは難しいと思いますし、そう考えると若いピッチャーが2枚ぐらい出てきてほしいところです。今季、それぞれ3試合に先発した中森俊介と田中晴也にはまたチャンスが来ると思いますが、彼らはもっと投球術を覚えなければいけません。

 今は球速や球の強さ、変化量にこだわったり、荒々しく三振を取ろうとする傾向がある印象です。もちろん悪いことではないのですが、先発ピッチャーとしてはシーズンを通してどれぐらいの数字を残せるかが大事だと僕は思いますし、そのためにピッチングを覚えるべき。まずはローテーションの一角を任せられるようになって、そこからチームに頼られる柱になっていくことが理想です。ふたりはまだまだ粗削りですが、ある程度順調に成長してきていますし、いい成長曲線を描いていってほしいですね。

【リリーフ陣で期待の投手は?】

―― 一方で、リリーフ陣の現状はどう見ていますか?

清水 昨季に頑張ってくれていた西村天裕と澤田圭佑がブルペンにいないのは痛いです。坂本光士郎は打ち込まれて大量失点してしまう場面も見られますし、対左バッターの被打率(.355)と防御率(5.87)がセットアッパーとしては厳しいですね。

 43登板で防御率0.44の鈴木昭汰をはじめ、国吉佑樹や横山陸人が頑張ってくれています。ベテランの益田直也の存在も助かっている部分はあるのですが、ちょっと一軍と二軍との出入りが激しいなと感じます。

やはり3、4人は、シーズンを通して一軍のブルペンにいてほしい。なかでも、期待しているのは菊地吏玖です。

――2022年ドラフト1位の菊地投手は、一軍での登板数が増えていますね。昨季は1試合でしたが、今季はこれまでに14試合に登板(防御率1.69)。奪三振率(9.56)もいいです。

清水 菊地は低めの真っすぐがよくなりました。セットアッパーが一番多く投げるボールは真っすぐだと思いますが、菊地は特に真っすぐの割合が高い(約62%)。もちろん打たれる場面もありますが、思い切ってどんどん投げ込んでいますし、彼はこれから期待できると思いますよ。

――真っすぐの次に投球割合が高いフォークは、被打率.059、奪空振り率が26.2%といい数字です。

清水 やはり低めの真っすぐの伸びと制球がよくなりましたし、低めの真っすぐに球審の手が上がるとバッターは反応さぜるをえません。その真っすぐの軌道からフォークを落とせば振ってくれますしね。とにかく菊地に関しては真っすぐがよくなった印象があります。

――セットアッパーとしての適正を感じますか?

清水 どのポジションで開花するかはわかりません。もともと先発をしていたピッチャーがリリーフになると、自信がない球種は封印してほとんど使いませんが、逆にリリーフが先発になると球種を増やしたりしますよね。彼の場合は、適正を探っていかなければいけない段階だと思います。

 今後もセットアッパーを任されるのか、先発などほかのポジションで試されるのかはわかりません。でも、今のところはセットアッパーにハマっているので、このまま経験を積んでポジションをつかみ取っていくのも方向性として悪くないんじゃないかなと。

――ロッテは終盤に向けて、先発に最少失点でしのいでもらい、リードした状態で国吉投手、鈴木投手、益田投手らに回せるかどうかがカギになりそうですね。

清水 そうですね。特に鈴木は今季覚醒しました。現在の数字は驚異的ですし、「鈴木まで回せば」という雰囲気がチーム全体にあると思います。先頭バッターを出塁させてしまっても、スコアリングポジションにランナーがいても落ち着いていますし、自信がみなぎっていますよね。今後はこれまで以上にしびれるような場面での登板が増えると思いますが、やってくれると期待しています。

(野手編:「日替わり打線」を分析 成長曲線上向きの藤原恭大ら飛躍に期待の若手は?>>)

【プロフィール】
清水直行(しみず・なおゆき)

1975年11月24日に京都府京都市に生まれ、兵庫県西宮市で育つ。

社会人・東芝府中から、1999年のドラフトで逆指名によりロッテに入団。長く先発ローテーションの核として活躍した。日本代表としては2004年のアテネ五輪で銅メダルを獲得し、2006年の第1回WBC(ワールド・ベースボールクラシック)の優勝に貢献。2009年にトレードでDeNAに移籍し、2014年に現役を引退。通算成績は294試合登板105勝100敗。引退後はニュージーランドで野球連盟のGM補佐、ジュニア代表チームの監督を務めたほか、2019年には沖縄初のプロ球団「琉球ブルーオーシャンズ」の初代監督に就任した。

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