【両WBが高い位置をキープした攻撃的3バックが奏功】
2026年W杯アジア3次予選の初戦となった埼玉スタジアムでの中国戦は、まるで2次予選のようなスコアで日本が大勝した。
前半12分のCKから遠藤航がヘッドで決めた先制点を皮切りに、三笘薫(前半45+2分)、南野拓実(52、58分)、伊東純也(77分)、前田大然(87分)、久保建英(90+5分)がゴールを重ね、終わってみれば7-0。日本にとっては、申し分のない船出となった。ただ、アジア枠が4.5から8.5に拡大した今回のW杯では、3次予選は各グループ6チームのなかで下位2チームしか敗退しない(1、2位は本大会ストレートイン、3、4位はアジア4次予選へ)。当然、圧倒的な戦力を誇る日本はグループCの首位通過最有力候補だ。それだけに、勝敗だけに目を奪われてしまうと、本大会を見据えた大事なポイントを見逃すだけでなく、予選の興味も半減してしまう。
現在の日本代表の目標は、W杯本大会でベスト8以上の成績を収めること。つまり、日本が今回の予選を通してどのように戦いながらチーム力を高めて本大会出場を決めるのか、それぞれの試合内容に重点を置いて見ていくことが重要になる。とくに今回の中国戦のような、一方的な試合となった場合はなおさらだ。
果たして、チームとしての狙いはどこにあったのか。なぜ日本はここまで中国を圧倒できたのか。対戦相手の戦いぶりも含めて、あらためて振り返ってみる。
結果でも内容でも日本が圧倒できた要因はいくつかあるが、そのなかでまずおさえておきたいのが、この試合における森保一監督の布陣とメンバーのチョイスだ。採用布陣は、6月のミャンマー戦、シリア戦と同じ3-4-2-1。とりわけ両ウイングバック(WB)に堂安律と三笘というふたりのアタッカーを同時起用した点では、堂安と中村敬斗を先発させた6月のシリア戦と同類。
3-4-2-1を攻撃的に運用するためには、両WBが高い位置をキープできるかがカギになる。逆に言えば、WBの位置が低くDFラインが5人になって自陣で守る時間が長くなると、ふたりのアタッカーを配置しても守備的な3バックシステムになってしまう。カタールW杯で見せたカウンター主体の守備的3バック(5バック)がまさにそれだったが、その戦い方では自分たちが主導権を握れず、結局ベスト16で涙を呑むことになった過去がある。
本大会ベスト8以上を目標に掲げる森保監督が、どこまでそれを意識して今回の中国戦でこの布陣を採用したのかは近いうちに判明すると思われるが、少なくともホームに格下のチームを迎えるにあたっては攻撃的3バックが最適と判断したことが、7-0の勝利を呼び込んだと言っていいだろう。
【中国の守備重視の戦いも幸いした】
もっとも、守備的にならなかった要因は中国の戦い方にもあった。中国代表を率いるブランコ・イバンコビッチ監督が6月の日本対シリアをどこまで分析したのかは定かではないが、日本が苦戦する傾向にあるハイプレスを仕掛けず、3バックシステムとは布陣的かみ合わせがよくない4-4-2を採用したうえ、シリア同様、守備重視の戦いを選択したことが日本にとって幸いした。
これにより、相手の2トップに対して3枚のDFを配置する日本がビルドアップに苦労せずに、難なく前進可能に。さらに中国が予想以上に低い位置でブロックを作ったため、日本はほぼ敵陣内でプレーすることができた。そんななか、前半に顕著だったのが3-2-5でボールを保持する日本に対し、DF4枚の中国が終始劣勢に立たされたことだった。
左サイドを三笘が、右サイドは堂安と久保が入れ替わりながら幅をとる日本のポゼッションに対し、中国はDFライン4人が横へのスライドを繰り返して対応しようとしたが、どうしてもオープンサイド(逆サイド)のWBをフリーにさせてしまう。とくに日本は堂安と久保が入れ替わる右サイドを中心にパス回しを展開したため、左の三笘がフリーになるシーンが多く、その結果、前半の中国は三笘に苦しめられる格好となった。
それを象徴するのが、前半アディショナルタイムに堂安の右サイドからのピンポイントクロスに三笘が頭で合わせたゴールシーンだった。
いずれにしても、前半開始から三笘が左サイドでフリーになるシーンが多かったため、三笘が得意とする仕掛けのシーンが増加。前半の日本が記録したクロスは15本あったが、三笘はその約半数の7本のクロスを供給している。
【後半は縦パスが一気に増加】
さらに日本優勢に拍車をかけたポイントが、中国が後半から布陣を3バックにシフトチェンジしたことだった。
試合後、イバンコビッチ監督はその理由について「前半の終わりの時間帯から守備が機能していないことがわかったので、後半は中盤に人数を増やしてインテンシティを上げたかった」と語ったが、ピッチ上ではその狙いとは裏腹な現象が起きていた。それは、指揮官が狙いとした3-5-2ではなく、後ろに重たい5-3-2になってしまった点だ。
これにより、5-3-2の「3」の両脇に大きなスペースが生まれ、そこを板倉滉と町田浩樹のふたりのストッパーが前に出て中国の3人のMFを動かしたり、久保や南野がそのスペースでボールを受けたりと、前半と比べて日本の中央攻撃が活性化した。
前半はサイドからのクロスを中心にゴールに襲い掛かったが、後半は積極的に中央への縦パスを供給した結果、前半6本だった縦パスが後半は16本に増加し、そのうち町田の縦パスを起点に南野が2ゴールを決めることに成功した。
一方、前半の15本から12本に微減したクロスについても、サイドの深いエリアからのマイナス方向のクロスより、スペースの空いている手前のエリアからのプラス方向のクロスが増加。伊東のクロスから前田がヘッドで決めたゴールは、まさにそれだった。
結局、ボール支配率で72.7%対27.3%、シュート数も15本対1本と、ほとんどのスタッツで日本が中国を大きく上回る試合となった。それも含めて、今回は中国の失策に加え、それを逃さなかった日本が攻撃的3バックを機能させた試合と総括していいだろう。仮に大量ゴールにならなかったとしても、内容的には問題のない試合だったと言える。
【バーレーン戦はどのシステムで戦うのか】
注目すべきは、10日(日本時間11日1時)に予定される次節アウェーでのバーレーン戦だ。
「今日は3バックで戦ったなかで攻撃的な選手をサイドに配置しているところを、守備的な選手に代えて、よりいい守備から攻撃を、とも考えながらチーム編成することを考えています」
大勝した中国戦後の記者会見の壇上で、森保監督はそう語った。つまりそのコメントからは、必ずしも今回の中国戦で採用した攻撃的3バックシステムを貫く構えではないことがうかがえる。
現状、日本がこれまで採用してきた布陣は、アジアカップや3月の北朝鮮戦でも採用した従来のメイン布陣の4-2-3-1と、その変形の4-3-3。加えて、攻撃的3-4-2-1と守備的3-4-2-1の計4パターン。
ただし、3-4-2-1の2パターンは、両WBにアタッカーふたりを配置するか、ひとりもしくはふたりのDF(サイドバック)を配置するかで、攻撃重視で戦うのか、守備重視で戦うのかを使い分けようとしているように解釈できる。
果たして、運用方法ではなく、人選によって同じ3バックシステムを使い分けようとするその手法が、問題を生じさせることにはならないのか。
アウェーでのバーレーン戦は、まずそこに興味がそそられる。