2年連続最下位だった日本ハムだが、今季ここまで(9月9日現在/以下同)124試合を戦い65勝51敗8分(勝率.560)の2位。首位ソフトバンクとは8ゲーム差をつけられているが、3位のロッテには4.5ゲーム差。
【好調な選手をうまくマネジメント】
── 2年連続最下位だったチームがウソのように、ここまで貯金14と快進撃を続けています。
鶴岡 すべてのポジションにおいて選手層が厚くなりましたが、なかでも先発投手陣の充実ぶりには目を見張るものがあります。開幕投手を務めた伊藤大海(11勝4敗)、FA加入した山﨑福也(9勝4敗)が貯金をつくり、加藤貴之(9勝7敗)は今年も安定感抜群のピッチングを見せています。
── この先発三本柱につづく投手たちはいかがですか。
鶴岡 今季のキーマンと予想していたプロ2年目の金村尚真が、中継ぎから先発に回って安定感を披露。3年目の北山亘基も順調に育っています。さらに21年育成ドラフト1位から今季支配下登録された福島蓮が加わって、現状「先発6人衆」です。それぞれの実力もさることながら、ベテラン、中堅、若手とバランスも絶妙です。
── リリーフ陣も質量ともに豊富です。
鶴岡 昨年50試合登板20ホールドをマークした左腕の河野竜生が、ストレートと同じ軌道から曲がるカットボールを軸に30ホールドを超えました。同じく左腕の宮西尚生は、新たにチェンジアップをマスターして再ブレイクし、通算400ホールドを達成です。
── 右投手も駒が揃っています。
鶴岡 中堅どころの杉浦稔大、池田隆英、移籍2年目のストッパー・田中正義らがブルペンを支えています。さらに、新庄剛志監督や武田久コーチにシュートとカットボールを絶賛されて自信をつけた生田目翼、育成ドラフト出身の速球派・柳川大晟が8セーブと売り出し中です。
── なぜこんなに次から次へと投手が出現するのでしょうか?
鶴岡 誰かの状態が落ちたら、別の投手が上がってきて結果を出す。ものすごくいいサイクルで回っています。チームの合計ホールド数は、パ・リーグ1位です。つまり、かつての"勝利の方程式"のように決まった投手が登板するのではなく、状態のいい投手を使っていく。ベンチが選手のコンディションをしっかり把握し、うまくマネジメントできているからだと思います。
【若手野手が次々とブレイク】
── 捕手は田宮裕涼選手が大ブレイクしました。
鶴岡 今季の日本ハムを象徴する活躍ぶりでした。ここにきて疲れが出ていますが、代わりにベテランの伏見寅威が安定感抜群のリードで投手陣を牽引し、チームの勝利に貢献しています。伏見がマスクを被った試合の防御率、勝率はいいです。
── 野手陣はいかがですか。
鶴岡 オールスターにアリエル・マルティネス、上川畑大悟、郡司裕也、水野達稀、万波中正がファン投票で選ばれたように、今季は多くの選手がブレイクを果たしました。また、現役ドラフトでソフトバンクから移籍してきた水谷瞬が交流戦でMVPを獲得。さらに清宮幸太郎も大谷翔平が通ったという「ドライブライン」で動作解析を学び、トレーニングに反映させました。打球の角度のつけ方が進境著しい。清宮の長打力はチームにとって大きな武器になっています。
── ほかにも新外国人のフランミル・レイエス選手、淺間大基選手の活躍も光ります。
鶴岡 メジャー通算108本塁打のレイエスですが、春先は不振で新庄監督はファームで1カ月調整させました。そこで日本の投手のボール、配球を学んだのかもしれないですね。現在18本塁打はチームトップで、球団タイの25試合連続安打も記録しました。彼は日本の野球に適応しようという意欲の持ち主で、彼が打つとチームが盛り上がります。日本ハムに欠かせない戦力となっています。
── 今季の日本ハムを見ていると、思いきりのいい打撃、積極的な走塁が目立ちます。
鶴岡 チーム本塁打93本、チーム盗塁数77個は、ともにソフトバンクに次いでリーグ2位です。これは新庄監督就任時から意識させてきたことで、ようやく形となった感じです。
【新庄監督が目指す守り勝つ野球】
── その一方で、チーム失策数は124試合で68個とリーグワーストです。
鶴岡 失策数は多いですが、全体的に球際に強くなっています。また新庄監督は郡司に「(サードの)守備はすぐにうまくならないから、少しずつやっていこう」と激励し、郡司は気分的にラクになったそうです。そのあたり新庄監督の人心掌握術というか、選手にしっかり寄り添って采配しているのがわかります。
── 新庄監督はスクイズやダブルスチールなど、積極的に動かしてくるイメージがあります。
鶴岡 8月の試合で2者連続スクイズというのがありましたが、得点する確率の高い策を選択しています。決して奇策ではなく、選手たちもしっかり理解したうえで野球をやっている。逆に相手チームのほうが警戒しすぎて、カウントを悪くしてしまう......というのはあるかもしれないですね。
── 新庄監督の選手へのアプローチはいかがですか?
鶴岡 マスコミには厳しいことを言いますが、先述の生田目や郡司にしてもフォローが巧みです。就任してから2年間は、選手たちの好不調の波が同時期に来た失敗体験を鑑みて、状態が落ちた選手はファームで調整させ、うまくリフレッシュさせている。
── そういえば、新庄監督は"野村(克也)チルドレン"のひとりですね。
鶴岡 かつて野村監督はヤクルト時代に「1年目に種をまき、2年目に水をやり、3年目に花を咲かせる」と言って、優勝に導いたと聞きました。まさに新庄監督も同じように、選手たちをじっくり育て、3年目に勝負をかけて結果を残している。また日本ハムは攻撃陣がクローズアップされますが、やはり「投手陣を中心とした守り勝つ野球」が実践できるようになり、安定感が出てきたと思います。今シーズンの日本ハムは「負けないチーム」に変貌しました。
── 今後はクライマックスシリーズ進出に向けての戦い、そして短期決戦を見据えた戦いとなります。
鶴岡 ソフトバンクには独走を許しましたが、3位のロッテには17勝6敗1分と大きく勝ち越しています。若手を中心とした勢いとポテンシャルを考えれば、"下剋上"も十分に考えられるのではないでしょうか。とにかく新庄監督3年目の日本ハムは、何かを起こしてくれそうで魅力満載です。
鶴岡慎也(つるおか・しんや)/1981年4月11日、鹿児島県生まれ。樟南高校時代に2度甲子園出場。