知念慶(鹿島アントラーズ)インタビュー後編
◆知念慶・前編>>FWからボランチへ「ガチのコンバート」でデュエル王を独走中
デュエル勝利数で1位を誇るなど、ボランチに転向したばかりの知念慶が存在感を放っているのは、今季より鹿島アントラーズの指揮官に就任したランコ・ポポヴィッチ監督の影響が大きい。
FWからボランチに抜擢しただけでなく、一つひとつ課題を提示し、それをクリアしていくことで、知念はボランチとして確かな成長を刻んでいる。
30歳を前に、新たなポジションに挑戦している彼の変化と、目指す未来とは──。
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── 新たなポジションに挑戦している今季も、試合を重ねるたびにボランチとして成長していることがうかがえます。デュエルでの勝利数だけでなく、攻撃では遠くにもパスを出せるようになってきているように感じています。「監督から、攻撃時は『前に速く』というだけでなく、『遠くも見るように』と言われているのが大きいと思います。監督は、前線の選手たちにはDFの背後を突くことを求めているように、パスの出し手でもある自分たちには、そこを狙ってパスを出すことを求めていますから」
── ボランチとしての成長を感じたのは、3-2で勝利したJ1第17節の横浜F・マリノス戦でした。1-1で迎えた74分、鈴木優磨選手からのパスを受けて前を向くと、自らドリブルで持ち運び、得点した濃野公人選手にラストパスを出しました。
「そこも監督から『パスの出しどころがないのであれば、自分で持ち運ぶように』と言われていたので、それが出たシーンでした。前線にいる(鈴木)優磨には『早く出せ』と言われているので、なるべく早く優磨にボールを預けるように心がけているんですけどね(笑)。
あの場面は逆に、優磨から自分がパスを受けて、自ら運びました。アシストもできたので、自分のなかでも印象に残っているプレーのひとつです」
【柴崎岳や三竿健斗から学んだボランチらしさ】
── ポポヴィッチ監督は、何かができるようになると、また新たな課題を提示してくれているように思います。
「それはありますね。監督は常に俺を満足させないよう、厳しく指導してくれています。
ボールを奪いきれるようになったら、攻撃では対角を見ろ、早く前につけろと。その節々で言われること、求められることも変わってきています」
── その積み重ねが、ボランチらしくなってきたと?
「まだまだ、ですけどね。それでも、監督から口を酸っぱくして言われてきたことが、少しずつクリアできるようになってきました。今ではふだんの練習でやっているプレーが試合でもできるようになってきています」
── 佐野選手がマインツに移籍して、柴崎岳選手と組む機会が増えています。組む選手が変わると、プレーも変わりますか?
「変わりますね。今はよりボランチらしいプレーを覚えていかなければいけないと思っています。自分と(佐野)海舟のような組み合わせは、正直、Jリーグ全体を見てもあまりないコンビでした。
でも、海舟が移籍したからといって、海舟の代わりを探すのではなく、コンビを組む相手の特徴によってプレーを変えていかなければいけないと思っています。新たな形、新たなプレーを取り入れて、いい方向に進んでいかなければならない。
そういう意味では、岳くんと(三竿)健斗から学ぶことは多いですね。自分が出場停止だったサガン鳥栖戦(第25節)は、上からふたりのプレーを見て、ボランチっぽいなって思いましたから。
【あえて動きすぎないように立つ】
── 柴崎選手のとなりでプレーして感じることは?
「やっぱり岳くんがボールを持つと、攻撃のリズムに変化が出ます。今季のアントラーズは速いリズムで攻撃し続けることが多かったのですが、そこに変化を加えられる。相手にとっても、その緩急は嫌だと思います。
また、岳くんは前線の選手たちの動きを見逃さない。自分もFWだったからわかりますけど、パスが出てくると信じられると、FWは走れますからね」
── 柴崎選手からアドバイスをもらうこともあるのでしょうか?
「俺と海舟のふたりは動くことでボールを奪おうとしていましたが、岳くんからは立ち位置によって守ることを教わりました。あえて動きすぎないようにすることで、相手が攻撃を仕掛けられない状況を作り出す。スペースを空けない守備も意識するようになりました」
── またひとつ、新しい引き出しができたのでは?
「一方で、自分の持ち味はハードワークでもあるので、いけると思った時にはいく。それもひとつの状況判断だと思うので、何でもかんでもいくのではなく、前から奪いにいく時とポジションで守る時をうまく使い分けられるように、見極めようとしています」
── その両方にトライしようとしているところが、まさに成長なのでは?
「たしかに(笑)。言われてみたら、そうですね。試合の状況を考えながらプレーできるようになってきていました」
── 三竿選手の存在はいかがですか?
「健斗の加入は、チームにとって、かなり大きな戦力アップだと思っています。選手としての存在も大きいですし、あれだけしゃべれる選手はいなかったですからね。初めて一緒にプレーしたFC東京戦(第24節)で、『しゃべれる選手がいると、こんなにも違うのか』と感じましたから。いいライバルであり、心強いチームメイトです」
── あらためてボランチというポジションにやり甲斐を感じていますか?
「出場時間が多いので、目に見える結果だけでなく、ボールに絡んでいないところのプレーにおいても責任を感じています。
【ゴール前に入っていけたら面白い】
── 長い時間ピッチに立ち続けるというのは、自身が追い求めてきたところでもあるのでは?
「大なり小なり課題はありますが、自分が試合に出続けてチームが勝つことの充実感を、今季は実感しています。だからこそ、自分の欲を出すのではなく、今の自分にできるベストを尽くさなければいけないと思っています。
あれもしたい、これもできるようになりたいという欲はありますけど、それによってチームに貢献できている部分が失われる可能性もある。だったら今は、チームのことに集中したいですね」
── FWとしてプレーしてきた時期には、いろいろなボランチからのパスも受けてきたと思います。ヒントになっているところもありますか?
「川崎フロンターレでは(中村)憲剛さんや(大島)僚太くん、守田(英正)といった選手とプレーして、スペースというか空間を使ったパスを、自分もボランチになった時には出してみたいなと思いました。
だけど、いざプレーしてみたら、めちゃくちゃ高い技術だなと思って。岳くんも含めて、あんなアイデアを試合で出せるのは、相当難しいことだなと思い知らされました。自分はどちらかというと、技術を生かすタイプではないので、参考にはできないですけどね(笑)」
── 自分のプレースタイルを加味したうえで、参考になる選手はいるのでしょうか?
「名古屋グランパスの稲垣祥選手です。これは褒め言葉ですけど、稲垣選手もどちらかというと技術を生かすというよりも、相手に強く当たりにいってボールを奪い、攻撃に転じたら自らゴール前に入っていく迫力がある。押し込めるし、ミドルからもシュートを狙えて、展開もできる選手。タイプ的には親近感を感じるので、自分が目指すならば、そこだなと」
── 知念選手がさらに進化していくとしたら、そのゴール前に入っていく迫力でしょうか?
「そこを出していきたいと思っています。今のチームでは、優磨が中盤に落ちてくる機会も多い。そのタイミングで、サイドの選手たちがゴール前に入っていくことでチャンスを作り出しています。
【優勝するために必要なアレンジ力】
── それはある種、現代サッカーに求められているボランチの理想像でもあるように思います。
「今のサッカーにおける中盤は、特にバトルの多い戦場みたいになっています。その分、創造性あるプレーは1列前か、それこそサイドバックが担っています。
ゲームメイクにしても、センターバックがやることが主流になっているので、中盤はプレーする時間や余裕がどんどんなくなってきています。トランジションが激しい分、中盤の選手はよりフィジカルを求められ、より戦えることが条件になっています。そういう意味でボランチは、自分に合っていると思います」
── 今シーズンも残すところ、10試合を切りました。第29節を終えて4位と、まだまだ優勝の可能性を残しています。
「今季は相手に合わせるのではなく、自分たちが積み重ねてきたことを前面に押し出して戦っています。それがハマった時は強い一方で、噛み合わない時には苦戦する傾向があります。監督は、そこで僕らに自己解決力を求めているというか、むしろ自分たちがやってきたことを上回る力を見せてほしいと、期待をかけてくれています。
だからこそ、ピッチのなかにいる自分たちがどれだけこのサッカーをアレンジできるか。優勝するためには、やってきたことだけでは上回れない相手もいるので、そこで勝ちきるためにも、アレンジ力が求められていると思っています」
── そこでチームに方向性を示し、力を発揮するのが、やはりボランチなのではないでしょうか?
「試合の展開にもよりますけど、そこで自分がゴール前に入っていきたい。
<了>
【profile】
知念慶(ちねん・けい)
1995年3月17日生まれ、沖縄県島尻郡出身。兄の影響で小学1年生からサッカーを始める。地元の知念高校を卒業後、沖縄を離れて愛知学院大学に進学。東海学生リーグで得点王になる活躍もあり、2017年に川崎フロンターレに加入する。川崎在籍5シーズンで(2020年は大分トリニータに期限付き移籍)3度のJ1優勝に貢献。2023年、鹿島アントラーズに完全移籍。ポジション=FW。身長177cm、体重73kg。