Why JAPAN? 私が日本でプレーする理由
浦和レッズ マリウス・ホイブラーテン インタビュー 中編
浦和レッズのDFマリウス・ホイブラーテンをインタビュー。Jリーグのサッカーの印象やここまでのプレーで苦しめられた相手、また浦和のサポーターについても語った。
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後編「ホイブラーテンが語る日本での生活」>>
【常に完璧な状態でないと勝てない】
「ビザの問題があって、プレシーズンに最初から合流できなかったこともある。とはいえ、あれは本当にひどいスタートだった。2試合とも完敗だったね」
マリウス・ホイブラーテンは自身のJリーグでのデビュー戦とその次の試合を、そう振り返った。2023年2月に行なわれたFC東京戦と横浜F・マリノス戦だ(どちらも0-2の敗北)。
過去にノルウェーのアンダー世代の代表に名を連ね、チャンピオンズリーグの予選やヨーロッパリーグにも出場した守備者は、クラブのキャリアを母国だけで築いてきたとはいえ、それなりに国際経験も積んでいる。だが初めてプレーしたJ1リーグは、過去に経験したハイレベルな舞台と比べても、ほとんど遜色はなかったという。ホイブラーテンは続ける。
「キャスパー・ユンカー(名古屋グランパス)らから聞いていたとおり、ここのリーグのスタンダードは高い。それを思い知らされたよ。選手は総じてテクニックに優れ、アジリティーにも秀でるアタッカーが多い。あの頃は準備が足りず、自分はコンディションが万全ではなかった。常に完璧な状態でないと、勝てない。それがJリーグだ」
この2試合で、ホイブラーテンはアレクサンダー・ショルツと守備陣の中央でパートナーシップを組んでいる。
【Jリーグでもっとも苦しめられた相手は?】
加えて、より組織力を重んじる傾向にあるノルウェーのリーグと比べると、素早いアタッカーが積極的に勝負を挑んでくるJリーグでは、試合のリズムがかなり違うという。また彼の母国では気候条件により芝生がうまく育たないため、1部リーグも人工芝のピッチで行なわれている。その差もあるだろう。
「僕が思うに、J1リーグでは2%でもパフォーマンスを落としてしまえば、敗れてしまう。いや、1%でもいい。つまり、常に最高のプレーをしなければ、隙をつかれて結果を残せなくなる。チーム間の実力差が小さいから、どんな相手にも気は抜けない。例えば、僕らは少し前に、リーグ最下位の(北海道コンサドーレ)札幌とホームで対戦し、撃ち合いの末に3-4で敗れてしまった。前半の僕らはまったくダメだった」
世界でもっとも予想が難しい1部リーグのひとつ――Jリーグのこの評判は世界的にも認知されつつあり、このシリーズでインタビューした外国籍選手たちも口を揃える。事実、現在のJ1で首位に立っているのは、今季が1部リーグ初挑戦のFC町田ゼルビアだ。
「町田は称賛されるべきだよ。
「このような状況は、リーグ全体のレベルを底上げすると思うし、観ている人にとっても面白いはずだ」
そう話すホイブラーテンがこれまでにJリーグで対戦した相手で、もっとも苦しめられたのは誰か。
「いい質問だね。うーん、ここのリーグにはいいアタッカーが多いけど、ひとりだけ挙げるなら、鹿島アントラーズの鈴木優磨かな。(今年6月に行なわれた)ホームゲームでは、前半のうちに2ゴールも決められてしまった。パワーとテクニックを高次元に兼ね備え、ボックス内で巧みに仕留めたかと思えば、降りてきて組み立てを円滑にする。とてもいい選手だよ」
――チームではどこだろう?
「昨季王者のヴィッセル神戸はもちろんだけど、さっきも言ったように、どんな相手も厄介だよ。だからいくら調子がよくても、相手を侮ることなく、敬意を持って戦わなくてはならない」
【あの光景を思い出すだけで鳥肌が立つ】
浦和での1年目の2023年シーズン、チームはホイブラーテンが加入する前に、2022年シーズンのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)で決勝へ駒を進めていた。カタールW杯が2022年の11月から12月に開催されたことで、ACL決勝は2023年の4月下旬と5月上旬に持ち越されていた。それはちょうど、ホイブラーテンがチームにすっかり適応していた頃で、浦和はJ1リーグで開幕2連敗から立ち直り、7試合で5勝2分と負けなしを維持していた。
「サウジアラビアでの第1戦では、スタジアムに着いた僕らのバスを相手サポーターが止め、激しくヤジを飛ばしてきた。困難な試合になると思ったけど、本当にそのとおりになった。先制されて苦しくなったが、後半に追いつき、ホームで決着をつけられることになって自信が湧いてきたよ。なにしろうちの本拠地には、多くの熱狂的なサポーターがついているのだから」
そこまで語ると、ホイブラーテンは自らの腕をさすって、少しの間、遠くを見るような目をした。
「あの光景を思い出すだけで、鳥肌が立つんだ。満員の埼玉スタジアムに響く大声援と、描かれたコレオグラフィー。本当にファンタスティックなサポーターだよ。僕が知る限り、最高のファンだ。彼や彼女たちは、僕ら選手たちに大きなエネルギーを与えてくれる。あの決勝の第2戦も、ファンがいなければ勝てなかっただろう。試合終了の笛が鳴り、優勝が決まった時は感無量だったよ。自分のキャリアで最大のタイトルであり、最高の瞬間だった」
入団から半年も経たずにアジアタイトルを手にしたホイブラーテン。
後編「ホイブラーテンが語る日本での生活」へつづく>>
マリウス・ホイブラーテン
Marius Hoibraten/1995年1月23日生まれ。ノルウェー・オスロ出身。2011年、リールストロムで16歳でトップチームデビュー。ストレンメン、ストレームスゴトセト、サンデフィヨルド・フォトバルを経て、2020年からはボーデ/グリムトでプレー。国内リーグ2連覇に貢献した。U-17、U-19、U-21と年代別のノルウェー代表の経験がある。2023年より浦和レッズでプレー。2023シーズンはJリーグベストイレブンに選ばれた。