9月10日、2026年W杯アジア最終予選のバーレーン戦に、久保建英は65分から途中出場している。ピッチに入った時点で、すでに0-4とリード。

5日前の中国戦でフルタイム出場をしていたし、"流して"もよかったはずだが、久保は才能の一端を、惜しみなく披露している。

 80分、久保はドリブルで相手のラインの前を左へ横切る。それによって、相手の位置をずらしていた。そして左サイドでフリーになった中村敬斗にパス。中村が放ったシュートをキーパーがはじき、そのこぼれ球を小川航基が押し込んだ。

 久保は起点になっただけではない。82分、左サイドで中村がドリブルで仕掛ける動きにすかさず反応。ファーサイドにクロスを呼び込み、決定機を得た。シュートは外れたが、左サイドに入った中村とは通じ合うところがあるのだろう。

 そして84分、久保は圧巻のプレーを見せる。自陣まで下がり、谷口彰悟からのパスをセンターサークルで受け、ワントラップ。ほとんどノールックで、振り向きざまに左足で左前方にボールを送る。

これが見事にバックラインの裏へ通り、中村が決定機を得た。結局、シュートは決まらなかったが、1本のパスだけでも並外れていた。

 勝負にはあまり関係なかったが、この日、最もスペクタクルなプレーヤーだったかもしれない。

 もちろん、それはヨーロッパのトップレベルでプレーする日本代表選手たちとコンビネーションを形成できているからだろう。中国戦では堂安律、三笘薫、南野拓実、伊東純也との連係がすばらしかったし、バーレーン戦では中村との連係が際立っていた。一種の阿吽の呼吸と言うのか。

久保建英がレアル・マドリード戦の「ゲームチェンジャー」になる...の画像はこちら >>
 では、所属するレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)に戻って、久保はどのようなプレーを見せてくれるのか?

 代表戦明けの9月14日、ラ・レアルは本拠地レアレ・アレーナに、スペイン王者、欧州王者の"白い巨人"レアル・マドリードを迎え撃つ。

 ラ・レアルは、厳しい戦いを強いられる公算が高い。まず、戦力で大きく下回る。さらに補強選手の失敗続きで、ミケル・メリーノ、ロビン・ル・ノルマン放出など戦力ダウンも否めない。レアル・マドリード陣営も新たにキリアン・エムバペが入団する一方、ベテランのトニ・クロースが引退するなど、まだまだ試運転の状況と言えるが。

【ゲームチェンジャーになる可能性】

 たとえば、ラ・レアルの選手で、久保以外に日本代表に食い込める選手が何人いるか? GKアレックス・レミーロ、MFマルティン・スビメンディ、FWミケル・オヤルサバルの3人プラスMFブライス・メンデスといったところだろう。

一方、レアル・マドリードの選手はスターティングイレブンがほぼ全員入るだろうし、ほかにも5、6人は食い込むはずだ。

 それほどの戦力差がある相手に、久保は孤軍奮闘で挑まないといけない。

 一方で、必ず勝機があるのが、サッカーというスポーツでもある。

 久保は右サイドアタッカーを任されることになるだろうが、ゲームチェンジャーになる可能性があるのだ。

 久保が対峙するレアル・マドリードの左サイドバックは、フランス代表フェルラン・メンディになりそうだが、最近は不安定なプレーが多い。昨シーズンは、本来ボランチのフランス代表エドゥアルド・カマヴィンガが代役を務めていたほど。今シーズンも、メンディは開幕戦のマジョルカ戦で浅野拓磨のスピードに苛ついたのか、最後は退場処分だった。ベティス戦ではコンディションの問題か、交代を余儀なくされている。

 久保がメンディを翻弄できれば、先手を打てるだろう。若いフラン・ガルシアが抜擢される可能性もあるが、どのみち久保の敵ではない。また、センターバックでカバーに入るアントニオ・リュディガーも、しばしばアジア人選手をバカにしたようなプレーを見せるだけに、今回も侮っているようなら波乱を起こすのに"もってこい"だ。

 久保のゴール、もしくはアシストが見られる希望は十分にあるだろう。

ただし......。

 レアル・マドリードのカルロ・アンチェロッティ監督は、勝負の天才である。人を使う手腕は卓抜。大局を見極めて、勝利に結びつく流れを作ってくるだろう。

 そもそも、たとえ久保に一発を放り込まれても、エムバペ、ヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴ、ジュード・ベリンガムの攻撃力が沈黙するとは思えない。フェデリコ・バルベルデのキック一発で勝負を決められるし、勝負どころではルカ・モドリッチ、ブライム・ディアス、エンドリッキという新旧のスターが投じられるだろう。そして左利きアルダ・ギュレルは破格のファンタジスタだ。

 ラ・レアルの勝利の可能性は20%弱で、引き分けに持ち込めたら御の字だろう。その確率をひっくり返すとすれば、やはり久保になるに違いない。今の彼にはそれだけの予感がある。

「世界に冠たるレアル・マドリードにふさわしい選手」

 その称号を勝ち取る舞台だ。

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