今シーズンからドイツ人指揮官、ハンジ・フリックが率いるバルセロナの革新が止まらない。ロベルト・レバンドフスキ、ペドリ、ラフィーニャが真価を発揮し、直近のバジャドリード戦は7-0で大勝。

開幕から4連勝だ。

 スペイン大手スポーツ紙『アス』は、新生チームをこう評している。

「ラ・マシアが止まらない!」

 バルサの下部組織ラ・マシア出身選手たちが躍動している。17歳のラミン・ヤマル、パウ・クバルシ、20歳のフェルミン・ロペスは昨シーズンから定位置を獲得し、センセーションを巻き起こしていた。それぞれユーロ2024、パリ五輪優勝の立役者だ。

 それに加えて、フリック監督は17歳のマルク・ベルナル、20歳のマルク・カサドを先発に抜擢。19歳のセルジ・ドミンゲス、22歳のパウ・ビクトル、ジェラール・マルティンもピッチに送っている。

「ラ・マシアこそ、バルサだ」

 バルサの始祖とも言えるヨハン・クライフの遺訓を継承したのは、ラ・マシア出身のレジェンド監督だったシャビ・エルナンデスではなく、縁もゆかりもないフリックだった――。

バルサ開幕4連勝&バルサBで16歳のスター候補誕生 新指揮官...の画像はこちら >>
 フリックが作り出した気運が、バルサの勢いになっているのは間違いない。

 先日は、セカンドチームであるバルサBで、16歳のふたりが記録を作った。

 トニ・フェルナンデスは16歳1カ月23日の得点で、バルサB史上最年少記録を更新した。粗削りだがふてぶてしく、ジャンピングボレーで決めたゴールはスター性十分。

トニはリオネル・メッシやヤマルの系譜を継ぐ。バルサの左利き右アタッカーは「左利きでスピードとテクニックがあり、守備を崩せる」のが条件で、各カテゴリーで似た選手が集められているのだ(久保建英もそのひとりだ)。

 トニのいとこであるギジェ・フェルナンデスも、16歳2カ月21日で得点を決めた。バルサが多く生み出してきたテクニカルでビジョンに優れたMFの典型で、シャビ、アンドレス・イニエスタの系譜を継ぐ。新たにバルサに入団したダニ・オルモ(彼もユース年代まではラ・マシアで過ごした)もそうだが、最近のMFはガビやフェルミンのようにゴール感覚にも優れており、彼もそのひとりだ。

【ペドリが語るフリック体制での変化】

「バルサの新たな"脅威"」

 スペイン大手スポーツ紙『マルカ』は、ラ・マシア勢の台頭に期待感を込めて伝えている。トップチームでラ・マシア出身者が華々しい活躍を示すことによって、育成年代も含めて熱気を帯びつつあるのだ(ちなみにフリックはプレシーズンのアメリカ遠征にこのふたりを帯同させ、トニは背番号42でチャンピオンズリーグのメンバーにも登録)。

 フリックは、有力選手の獲得を熱望したシャビの轍(てつ)を踏んでいない。楽観的にラ・マシアを捉え、次々に若手を抜擢。主力と混ぜて先発起用することで、力を引き出した。控え組に混ぜる、あるいは終盤の起用で実験的に......というのではなく、実力を信じての起用と言える。

「オートマチズム」

 そもそも、それがバルサの強みだった。

目も眩むようなパス交換は、育成年代からの鍛錬の賜物。ほとんど自動的に動き出し、パスを出し、それを連続することができる。その技術を極めたことで、相手の裏を取れた。つまり、チームの土台をラ・マシアに戻す必要があったのだ。

 逆説的に言えば、外からバルサに入る難しさがあった。ゲオルゲ・ハジ、ロベルト・プロシネツキ、ファン・ロマン・リケルメ、アントワーヌ・グリーズマン、ジョアン・フェリックスのようなファンタジスタでさえ、不遇を囲っている。異分子を下手に混ぜ合わせると、オートマチズムが失われたのだ。

 フリックは、ラ・マシアのつなぐサッカーを土台にした。そこに、ロングボールやサイドチェンジも多用したスタイルをアレンジ。これに若い選手たちが反応した。もともと同じ絵を描ける選手同士だからこそ、違和感もないのだろう。攻守一体のプレーで、守備の出足も早くなって、波状攻撃を仕掛けられるようになった。

「フィジカルトレーナーの仕事の成果が試合に出ていて、70、80分以降、体力が落ちなくなった」

 ペドリは、フリック体制での変化をこう語っている。

「フリックの信頼のおかげで、気持ちが解放されてプレーできるようになっているよ。選手は何をすべきかわかっているから、不必要なプレッシャーがない。地に足をつけてプレーできるんだ」

 フリックは選手のスカウティング力も高い。現状、抜擢された選手は及第点以上の働きを示している。一時は放出リストに名前が挙がったラフィーニャを左サイドに置いて得点力を引き出し、同じくエリック・ガルシアは、センターバックとしては致命的な弱さがあるも、マルク・ベルナルの代役(前十字靭帯断裂で約1年の離脱)としてアンカーで起用した。

 そしてフリックの"隠し玉"とも言えるのが、メッシから背番号10を継承したアンス・ファティだろう。

 昨シーズン、ファティはプレミアリーグのブライトンにレンタル挑戦するも、三笘薫とのポジション争いに完敗した。トップ、トップ下でも定着できなかった。最後はたび重なるケガにも悩まされるなど「終わった」と囁かれ、一時は放出リストに入っていた。

 しかし、フリックは"ラ・マシアの最高傑作"に再び10番を与えた。足裏のケガでトップチーム帯同が遅れていたが、代表ウィークで合流。

練習ではアクロバティックなシュートも見せ、週末のジローナ戦のメンバー入りが有力視される。シュート技術は今も世界屈指と言われるだけに......。

 現時点でフリック体制は順風満帆だ。10月にはガビも靭帯断裂の大ケガから復帰が予定され、さらに戦力は整う。

 一方で、来週からは新形式のチャンピオンズリーグも開幕。試合が増え、ストレスも増し、若い選手が1シーズンを戦うのは簡単ではない。これからがフリック・バルサの本番だ。

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