里崎智也×五十嵐亮太スペシャル対談 後編
今シーズンの西武について
(中編:佐々木朗希の5年目をふたりがズバリ評価 メジャーに移籍しても通用するのか?>>)
里崎智也氏と五十嵐亮太氏による対談の後編。最後は今シーズン、苦しみに苦しんだ西武について語り合ってもらった。
■下馬評はそこまで低くなかったけれど......
――ペナントレース序盤の5月26日に松井稼頭央監督が休養を発表。同日から渡辺久信GMが監督代行となるなど、迷走が続いた今年の西武について伺います。今シーズン開幕前、チームの下馬評は低くなかったように思います。
里崎 僕は「投手陣がいい」という評価をしていました。それでもBクラスの4位予想でしたけど。
五十嵐 僕も決して評価は低くはなかったので、Aクラスの3位予想でした。髙橋光成、平良海馬、今井達也など2ケタ勝利が期待できる先発陣がいたこと、ソフトバンクから加入した甲斐野央、新外国人のジェフリー・ヤン、アルバート・アブレイユが加わって中継ぎ陣が厚みを増したことがその理由でした。ただ、とにかく投手陣に誤算が続いたのが今の結果につながったと思っています。
里崎 亮太の言うとおりで、西武の強みである投手陣がまったく機能しなかったのが痛い。髙橋は勝てない、平良はケガでほぼ一軍にいなかった。ルーキーの武内夏暉が頑張っていますけど、リリーフもバタバタしてるし、強みを生かしきれていないですよね。
野手陣も開幕当初はヘスス・アギラー、フランチー・コルデロがけっこう打っていたので、スタートはめっちゃよかった。「やっぱり今年の西武はいいぞ」という感じだったのが、アギラー、コルデロの低迷とともに順位がどんどん下がっていって、ふたりが一軍からいなくなったところで浮上の芽がなくなりましたね。
五十嵐 開幕前から「打つほうはそこまで見込めないけど、ピッチャーがいいから接戦を制することができる」「先発ピッチャーがいいから接戦に持ち込めるし、後ろもしっかりしているから逃げ切れる」という勝ち方がイメージできました。誤算は外国人でしたね。ここ数年の西武は「外国人頼み」という傾向が強くて、そこがうまくハマれば上位にも食い込める。でも、そこが機能しなければ下位に低迷するというチームでしたからね。
里崎 相手チームに研究されると、途端に結果が残せなくなって、途中からはアンソニー・ガルシアが出ていましたね。ヒゲの感じが似てたから「えっ、コルデロがまた出るようになったのか?」と思ったよ(笑)。
五十嵐 その分、若い選手の飛躍を期待したけど、日本ハムのようないい新陳代謝は見られないまま、ズルズルとシーズン終盤まできてしまった。そんな印象が強いですね。
■FAで主力選手が流出したあとの、補強や育成が追いついていない
里崎 西武の場合、単に「流出のスピードに育成が追いついていない」ということだけ。仮にFA制度がなかったら、西武は最強だったでしょうね。でも、昨年は首位打者の正捕手・森友哉が抜けて、今年はホームラン王・山川穂高が抜けてと、2年連続で主軸がいなくなったわけです。「主力レベル」ではなく「日本代表クラス」が抜けたわけだから、かなり痛いですよ。
五十嵐 ここ数年だけでも、2018年に浅村栄斗と炭谷銀仁朗、2019年に秋山翔吾がFA移籍していますから。
里崎 細川亨、炭谷、森と、正捕手が3代続けてFAしているのは西武だけ。野手陣だけじゃなくて、投手陣でも岸孝之が楽天に移籍して、菊池雄星はメジャーに行った。投打の主軸がバンバン移籍して抜けていくわけですから、補強、育成で補おうとしても、さすがに追いつかないです。
五十嵐 もちろん他球団も、FA制度によって選手の流出はあるけど、確かに西武の場合は多すぎますよね。
里崎 ただ他球団の場合は、近藤健介がソフトバンクに移籍した時、日本ハムには松本剛と万波中正がいた。あと、山﨑福也が日本ハムに移籍したオリックスにも田嶋大樹がいて、若い曽谷龍平も台頭してきていた。次の用意ができつつある状態で抜けているけど、西武の場合はそうじゃない。ある意味"自転車操業"で、「ベッケン」こと渡部健人、蛭間拓哉をドラフト1位で獲得したけど、その成長が追いついていないよね。
五十嵐 辻発彦監督の時にV2を達成したけど、あの頃の"山賊打線"は見る影もない。これだけ流出が多いと、資金力勝負になってきますね。資金力不足が、そのまま勝敗に影響している。
里崎 でも、あそこに球場があって、みんなが西武線を使って移動しているから、年間10億円ぐらいが西武グループに資金として入っているよね。ベルーナドームに行くためには、電車、バスといった公共交通機関は西武グループを使うことになるでしょ。車で行った場合もだいたい1試合1500万円ぐらいの駐車場代が西武球団に入って、単純計算だけど年間70試合近くで10億円。このお金はでかいですよ。それが選手たちの給料になっているんだから、文句を言っている場合じゃないと思うけどね。
■「ライオンズ再建計画」はあるのか?
五十嵐 シーズン途中で監督が代わって代行監督が就任したり、チームが浮足立っているというか、バタバタしている感じも否めないですよね。
里崎 特に微妙な立場の選手は影響があるよね。不動のレギュラー、一流選手の場合は、誰が監督になってもずっと起用されるわけだから動揺もない。だけど、若手選手やレギュラー未満の選手の場合は、監督が代われば使われる選手も変わるから。
五十嵐 監督が代わると、監督が目指す野球も変わりますよね。
里崎 まずは外国人だよ。ヤクルトのホセ・オスナ、ドミンゴ・サンタナみたいに外国人がうまく回れば浮上の芽が出てくる。今年だってアギラー、コルデロで序盤は回っていたわけだから。結局、今年のロッテだってチーム状態がいい時期はグレゴリー・ポランコ、ネフタリ・ソトが好調だった。ちょっと前だったらブレンダン・レアードとレオネス・マーティンだったけど、今の日本の野球はいい外国人野手をふたり獲得するのがマストです。
五十嵐 そんなにうまくいかないから、どこのチームも苦労しているんですけどね(苦笑)。
里崎 ならば、まずは(昨年、西武でプレーしていた)デビッド・マキノンを戻すことを考えないといけない。あと、つらい日々を過ごしているファンには、こういう時こそファームで「次はこの選手が大成するんじゃないかな?」と注目してほしい。
五十嵐 短期的には外国人獲得でしのいで、あとは先ほど名前が挙がった"ベッケン"や蛭間の台頭、新人の獲得、スカウティングに期待するしかないのかな。
里崎 ここ20年間のドラフト状況を分析したことがあるけど、西武のドラフト戦略は12球団で一番いい。過去の実績を見ると、12球団のなかで圧倒的に活躍する選手のパーセンテージが高いんです。そこは引き続き期待したいところ。時間はかかるけど、まずは土台作りからしっかりやらないと。できることから一歩ずつだと思いますね。