【井上温大は「不利なカウントからでも試合を作る」】

 終盤まで大混戦が続いたセ・リーグは、9月28日に巨人が4年ぶり39度目の優勝を決め、球団創立90周年の節目のシーズンをまたとない形で締め括った。今シーズンから巨人の新指揮官に就任した阿部慎之助監督は、開幕から積極的に若手選手を起用。彼らの活躍に刺激されるかのように丸佳浩菅野智之らのベテラン選手も全盛期を彷彿とさせる活躍を見せ、戦力の厚みが増したチームは粘り強い戦いぶりで優勝を勝ち取った。

 チームの復権を支えた若手選手のひとりが、6月に先発ローテーション入りしてから7勝2敗、シーズン通算で8勝を挙げた井上温大(いのうえ・はると)だろう。昨季は2軍で7勝0敗、防御率0.75と圧倒的な数字を残しながら一軍の高い壁に跳ね返されていた左腕は、プロ入り5年目に大きな飛躍を遂げた。

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「試合前に相手打者の情報を見て準備したり、ボール球から入ったとしてもカウントを取り戻す球種が増えたので、不利なカウントからでも(勝負して)試合を作ることができるようになったことが大きいと思う。最初は『防御率3点台でもOKだ』と思って試合に臨んでいましたが、登板を重ねるにつれて0点で抑えられる場面がだんだん増えてきて、それが自信につながっています」

 そうシーズンを振り返った井上は、巨人がマジック3で迎えた中日戦(9月27日・東京ドーム)でも先発。ボールが先行する不安定な立ち上がりで、初回に2死満塁のピンチを背負ったものの、宇佐見真吾から三振を奪って無得点に抑えると、2回以降は投球を修正した。

 杉内俊哉投手チーフコーチの「低めを狙いすぎている。高めにいっても構わないから、"低く強く"を意識して投げていこう」という助言も大きかったようだ。勝ち星はつかなかったものの、5回94球を投げて無失点、9奪三振の力投で勝利に貢献した。

「そこまで三振を狙っているわけではありませんでした。球数が多くなってしまいましたが、見せ球をうまく使えたと思っています」と自身の投球を振り返った井上に対して、阿部監督も「序盤はコントロールに苦しみましたし、球数数が多かったけど、試合を作ってくれたので100点です」とご満悦だった。

 試合中、阿部監督からは「『ただキャッチャーのサインに頷くだけではなく、たまにはわざと首を振るとか、いろいろと工夫をしながら投げたほうがいい』とアドバイスされた」という。そんな指揮官の起用に、見事な投球で応えた。

 菅野智之がメジャーリーグへの挑戦を発表したが、杉内コーチが「今季、一番成長した」と語る井上は、ここからエースへの階段を駆け上がることができるだろうか。

【浅野翔吾は「ミスを恐れず積極的に」】

 野手陣も、若き才能たちが花を咲かせつつある。その筆頭が、高松商業高校から2022年のドラフト1位で巨人に入団し、2年目のシーズンを過ごす浅野翔吾だ。

 9月27日の中日戦では「普段からお世話になっていて、互いに刺激を受け合う存在」だと話す門脇誠、中山礼都とともに7番ライトで先発出場。4番・岡本和真の通算1000本目安打となるタイムリーヒットで先制した6回、1死満塁の場面でこの日3度目の打席を迎えた。

 阿部監督に胸を叩くジェスチャーを見せられて送り出された浅野は、梅津晃大から9球粘った末に押し出しの四球を選んで追加点をもぎ取りガッツポーズを見せた。その場面については「たぶん『気持ちで負けるなよ』という仕草だったと思いますが、その気持ちをしっかり受けとめて打席に立った」と振り返った。

「四球でもヒットでもいいので、どうにかして追加点がほしかった。ここ最近は守備のミスでチームに迷惑をかけているので、何とか点を取れて嬉しかったです」

 確かに守備面ではミスが出ていた。9月21日の広島戦では、浅野の後逸を機に逆転負けを喫し、試合後は涙に暮れた。さらに雨天のなかで行なわれた25日の横浜DeNA戦では、4番オースティンの右飛の目測を誤り、足を滑らせて転倒し、三塁まで進塁されている。

「試合に出られない時は、悔しさを感じつつも、先輩方のプレーを見ながら自分が直さないといけない部分を探しています」

 2試合ぶりに先発で起用された27日の試合前には「全員の前で『ビビらずにやれ!もう一度コケてこい!』と阿部監督に発破をかけられ、気持ちが楽になった」と話す。浅野はそれに応え、3打数1安打、1四球、1打点の活躍。

「ミスをしましたが、これからもミスを恐れず積極的にプレーしたい」という言葉どおり躍動した。

【守護神・大勢「ひとつひとつの積み重ねが優勝につながる」】

 シーズン終盤の安定した戦いぶりは、入団3年目の守護神・大勢の復活なくして語ることはできないだろう。昨年はWBCで世界一を経験した大勢だが、その後のシーズンは右上肢のコンディション不良に苦しんだ。今季も開幕には間に合わせたものの、5月3日の阪神戦で右肩の違和感を訴えて途中降板。約2カ月の戦線離脱を余儀なくされた。

 だが、6月30日の広島戦で戦線復帰を果たすと、大勢はそこから守護神に返り咲き、29のセーブを積み重ねて優勝に貢献した。

 9月27日の中日戦では、通常よりも早い8回2死1、3塁の場面でマウンドに上がると、中日の4番・石川昂弥にタイムリーヒットを許したものの、続く細川成也をフォークで三振に打ち取り、ピンチを脱した。

「ブルペンからマウンドに向かう時に、みんなが声をかけて盛り上げてくれて、気持ちよくマウンドに上がれました。フォークボールがボール(ゾーン)からボール(ゾーン)に外れてしまい、有利なカウントを作れずに甘い真っ直ぐを打たれてしまった。(調子は)いつも通りでしたが、ランナーを返してしまった点は次回以降の反省点にしたい」

 そう反省の弁を述べた守護神は、9回のマウンドにも登場。2安打を許したものの無失点に抑え、今季2度目の回跨ぎの起用にも応えた。

「(アウト)ひとつひとつの積み重ねが優勝につながると思っているので、前のめりにならないようにしていました。

優勝を決める展開になったら、しっかりと投げたい」

 そしてマジック1で迎えた翌日の広島戦では、8対1で迎えた最終回、9回2死からマウンドへ。1安打を許したものの、失点は許さずに3年目で初の胴上げ投手となった。

 4年ぶりのリーグ優勝を果たしたチームは、クライマックスシリーズでの勝利、2012年以来12年ぶりの日本一を目指す。復活した守護神は、また歓喜の瞬間を迎えることができるか。

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