今回のW杯アジア3次予選で最も難易度が高いと見られていたのが、アウェーでのサウジアラビア戦だった。

 しかし、いざ蓋を開けてみれば、日本は2ゴールを奪い、クリーンシートも達成。

これまで鬼門とされたW杯予選におけるサウジアラビアとのアウェー戦に初めて勝利した事実も含め、難しい試合で申し分のない結果を手にしたことは称賛に値する。

サッカー日本代表は攻撃的3バックなのにボール保持できない? ...の画像はこちら >>
 ただ、忘れてはいけないのは、日本がW杯本大会でベスト8以上を目指していること。とりわけ予選と本大会とのレベルに大きなギャップが存在するアジアの戦いにおいては、1試合1試合の結果や成果だけに着目していると、知らぬ間に目標達成までのプロセスを見失ってしまう可能性があるからだ。

 その視点で言えば、今回のサウジアラビア戦は、日本が現時点における自らの力量を測るには、予選唯一と言ってもいい絶好の機会だった。この試合で垣間見えた課題こそが、本番で目標を達成するためのヒントになるはず。ある意味、敢えて収穫よりも課題のほうに焦点を当てるべき試合と言っていい。

 チーム戦術は機能していたのか。選手個々のパフォーマンスはどうだったのか。あるいは、監督采配に問題はなかったのか。勝ったことで見逃しがちな部分を含め、改めてピッチ上で起きていた現象から試合を掘り下げてみる。

【攻撃的3バックでボールを支配するのではないのか】

 まずチーム戦術に着目すると、森保一監督はこの試合でも両ウイングバック(WB)にアタッカーを配置する3-4-2-1を採用した。しかし、70%台のボール支配率を記録して相手を圧倒した9月の中国戦とバーレーン戦と違い、この試合ではポゼッションで大苦戦。前半は49.6%(サウジアラビア)対50.4%(日本)とほぼ五分五分の状態で終え、最終的には56.7%対43.3%と、サウジアラビアに上回られている。

 もちろん、その背景には日本が開始14分でリードしたのが影響したと見ることもできるし、勝ち点3を確実に手にするために慎重に戦ったとも言える。とはいえ、それが試合当初から日本が描いていたプランだったかと言えば、そんなはずはない。

 そもそも攻撃的3バックを採用する最大の目的は、敵陣に相手を押し込んでボールを支配し、試合の主導権を握り続けるためであり、仮に勝ち点1でもよしとするような戦いを望むなら、両WBにアタッカーを配置する選択はあり得ないだろう。

 つまり、この試合では日本が意図したのとは異なる現象が、試合を通して続いていたことになる。サッカーはポゼッションで勝敗が決まるわけではないので結果には必ずしも反映されないが、意図しない展開が続いた点は課題として捉える必要がある。

 では、なぜ日本は9月の予選2試合のように、ボールを支配できなかったのか。

 サウジアラビアのロベルト・マンチーニ監督は、3-4-2-1の日本に対して4-3-3で対抗。同じ4バックシステムでも、中国やバーレーンは守備重視の戦いをして日本に大敗したが、サウジアラビアはそれと同じ轍を踏まないよう、攻撃的な戦術で日本に挑んだ。その証左が、開始早々から見せた前からのプレッシングだった。

 日本の3バックに対してサウジアラビアの3トップが、ダブルボランチには両インサイドハーフが数的同数の状態で圧力をかけ、堂安律と三笘薫の両WBにはサウジアラビアの両SB(14番と12番)がマーク。これにより、日本は過去2試合のようなスムーズなビルドアップができず、前進もままならない状況に陥った。ボールを握るための糸口がなかった。

【新プレス回避は精度向上が課題】

 3-4-2-1の布陣では、自陣に押し込まれた場合、両WBが下がって5バックを形成しがちだ。これまでの日本も、3バックを採用した時の課題とされていた点だが、この試合では「対策の対策」を披露。ダブルボランチの一角、主に遠藤航、時に守田英正が3バックの間に落ちて4バックを形成することで、ビルドアップ時の数的優位に転じ、後ろが重たくなる5バック状態を回避した。

 その際、左シャドーの鎌田大地が2トップのように上田と並び、2列目には堂安、南野拓実、守田、三笘が並んで4-4-2、局面によっては4-3-3に可変。かつて森保監督の下で4-2-3-1から3-4-2-1に可変した「つるべ式3バック」の逆パターンとも言える「つるべ式4バック」で、サウジアラビアの前からのプレスを回避してみせた。

 これを前半8分頃から見せたことは、今後に向けた好材料と見ていいだろう。これまで日本が抱えていたプレス回避の課題における進化の兆しとも言える。

 ただし、その練度はまだ高くなかった。前からはめられなくなったサウジアラビアが、一転してミドルゾーンで4-5-1のブロックを形成すると、前からのプレスこそ回避できたものの、相手が日本の両WBやシャドー2枚へのパスコースを切ったこともあり、日本が前進するための明確なルートはふさがれたまま。結局、最終ラインで横パスを回すか、ラフなボールを相手DFラインの間や背後に蹴るしかなかった。

 その点で、「つるべ式4バック」の精度を上げることも、課題として残された。

【中盤のデュエルで負けているデータ】

 もうひとつ、日本がボールを支配できなかった要因として、サウジアラビアが巧なパス交換とドリブルに加え、球際の強さによって日本のボール奪取を回避し、日本陣内に進入することができた点も挙げられる。

 選手のクオリティと言ってしまえばそれまでだが、とりわけ中盤での五分五分のデュエルで日本の選手を上回っていたことが形勢を有利にし、逆に日本は最終ライン以外でボールを落ち着いてキープできなかった。

 たとえば日本の場合、ボールキープの肝となるのはチームのへそに位置する遠藤と守田になるが、この試合では遠藤がデュエルで負けた回数がチーム最多の8回を記録。

続いて多かったのが、堂安の7回、守田と三笘の5回。サウジアラビアの中盤3人がいずれも3回だったことと比べても、中盤での劣勢ぶりがうかがえる。

 移動や気候といったコンディション、あるいは相手の守備の狙いといった影響もあるだろうが、ボランチがボールを奪えず、ロストした回数も多かったという事実は、ボールを支配できなかった要因のひとつとして見るべきだろう。

 相手のプレス回避をはじめ、先制点につながった守田の攻撃参加など、日本のダブルボランチには称賛すべきプレーが目立っていたのは間違いない。しかしその一方で、試合の構図に大きく影響する肝心のデュエルで苦しんでいたことも、見逃せない部分だった。

 いずれにしても、こういった現象が起きてしまうと、当然ながらチーム戦術は機能しなくなる。世界のトップチームには個の力でやすやすとチーム戦術を破壊する選手が多く存在するだけに、サウジアラビア相手に個で勝てないようだと、W杯でベスト8以上を望むのは難しい。

 技術やデュエルで日本の選手が劣っているとは思えないので、そこはコンディション次第でクリアできるかもしれないが、少なくとも、この試合で苦戦したことは事実。今後も、チーム戦術が機能したかどうかを見るうえで、確認すべきポイントと言える。

【効果的な攻撃ができない状況が続いた】

 結局、攻撃的な戦いを狙いとしていたはずの日本だったが、この試合で見せた敵陣でのくさびの縦パスは皆無に等しかった。クロスボールは前半が3本で後半が4本のみ。パス本数もサウジアラビアの596本(成功率86.7%)に対し、日本は452本(成功率83%)だった。

 そもそも敵陣でボールを保持できたのは、1分以上にわたってボールをつなぎながら最後に鎌田がフィニッシュした先制点のシーンくらいで、後半になると、自陣で守る際はほぼ5バック状態が続いていたというのが、この試合の日本だった。

 それでも、森保監督の選手交代が当たって、81分にコーナーキックから途中出場の小川航基のゴールで勝負を決めたのだから、日本のほうが試合巧者だったのは間違いない。ただし、5バックで守る時間が続いたことも含め、効果的な攻撃ができない劣勢が続いたなか、4バックにシフトチェンジするなど試合の流れを変える一手が打てなかったベンチワークも、今後に向けた課題として挙げておくべきだろう。

 次のホームでのオーストラリア戦は、サウジアラビア戦とはまったく異なる展開になるかもしれないが、W杯ベスト8以上を目指すためにも、予選で結果を残しながら課題を解決していく作業は、今後も並行して続けていく必要がありそうだ。

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