今年のGI日本ダービー(5月26日/東京・芝2400m)は、9番人気の伏兵ダノンデサイル(牡3歳)が勝った。単勝の配当は4660円。

1984年のグレード制導入以降では、2019年のロジャーバローズ(9310円)に次ぐ高額配当だった。

 あまりの番狂わせゆえ、レース後にはファンや関係者の間から「恵まれた」「フロック」といった声が聞かれた。

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 だが一方で、こうした評価もある。関西の競馬専門紙記者が言う。

「ダノンデサイルの一番のストロングポイントは、ポテンシャルの高さです。馬体にも気性面にも課題はありますが、そもそもの能力は相当なもの。それが存分に発揮されれば、『ダービーを勝っても不思議ではない』と言われていました。もともとそういう素質を秘めていた馬だった、ということです」

 そのポテンシャルを最初に見せた一例となるのが、GIII京都2歳S(2023年11月25日/京都・芝2000m)だった。専門紙記者が続ける。

「(京都2歳Sでは)出遅れて、後ろからの競馬になったんですよ。最後の直線でも窮屈になって、スムーズな競馬ができませんでした。それでも、メンバー最速タイの末脚を駆使して勝ち馬からコンマ1秒差の4着に入線しました。

 そして、この時に勝ったのがその後、GIホープフルS(2023年12月28日/中山・芝2000m)、GII弥生賞(3月3日/中山・芝2000m)で2着となったシンエンペラー。この秋には、凱旋門賞にも出走した実力馬です。

 そんな世代トップレベルの馬と、いろんな不利が重なったなかで僅差の競馬を演じている。今にして思えば、あの時から(素質の)片鱗をのぞかせていたと思います」

 そうして、ダービーでそのポテンシャルを存分に示したダノンデサイル。それがどれほど高いものかは、ダービーで記録された、ある数字からも見て取れる。

 世代のトップレベルが一堂に会するダービーは例年、ゴール前は激戦となる。今年以前の過去10年の結果を見ても、1着と2着馬の着差はほとんどが1馬身以内。2馬身以上の差をつけたのは、2020年に3馬身差をつけて勝利し、のちに三冠馬となったコントレイルだけだ。

 後続にそれに次ぐ着差をつけたのが今年、2馬身差をつけて勝ったダノンデサイル。相手関係もあるため、一概には言えないが、その着差がダノンデサイルのポテンシャルの高さを示す数字のひとつであることは間違いない。

 しかしながら、完成度という点においては、当時も決して高いとは言えなかった。それは、デビュー戦で4着に敗れたあと、勝ち負けを繰り返してきた成績にも表われている。

先述の専門紙記者によれば、今年の春先には厩舎でこんなシーンがよく目撃されたという。

「ほぼ毎日、ずっと鳴いていました。それだけ(競走馬として)完成されていない、馬が幼かった、ということです」

 また、体調が安定していなかったのも、その要因のひとつ。現にGI皐月賞(4月14日/中山・芝2000m)では発走直前に除外となっている。

 ダービーでの勝利は、それほどの課題を抱えるなかでのものだった。

 そのダノンデサイルが、3歳「牡馬三冠」の最終戦となるGI菊花賞(10月20日/京都・芝3000m)に挑む。ダービーに続いて、ここも勝って二冠奪取となるのか。

 先の専門紙記者は「その確率は、かなり高い」と見ている。

 何より、相手関係である。ダービーでダノンデサイルに次いで掲示板(5着以内)に入った馬たちが1頭も出走しないのだ。

 さらに、トライアルを勝ってきた馬にしても、過去にダノンデサイルに敗れた面々である。GIIセントライト記念(9月16日/中山・芝2200m)を完勝したアーバンシック(牡3歳)はダービー(11着)で、それ以前にもGII京成杯(2着。

1月14日/中山・芝2000m)で、ダノンデサイルの後塵を拝している。

 GII神戸新聞杯(9月22日/中京・芝2200m)を逃げきったメイショウタバル(牡3歳)も、ダノンデサイルが勝った未勝利戦で5着と完敗を喫している。加えて、皐月賞2着馬で上位人気が予想されるコスモキュランダ(牡3歳)も、ダービー(6着)と京都2歳S(8着)でダノンデサイルからは大きく遅れを取っている。

 しかも、今年の菊花賞は「新興勢力は期待薄。春の上位馬の争い」と言われている。ダノンデサイルは、いかにも"相手に恵まれた"という印象だ。

 もちろん、ダノンデサイルにも懸念材料はある。まずは、ダービー以来のぶっつけローテで、およそ5カ月ぶりの出走であること。過去10年の勝ち馬を見ても、前走との間隔がそれほど長く空いていた馬はいない。

 とはいえ、ダノンデサイルがダービーを勝った時も、京成杯から約4カ月半ぶりとなる、実質"ぶっつけ"本番だった。それを思えば、直行ローテは苦にしないはず。陣営の選択もそれを見越してのものだったという。

 次に、出走各馬にとっても未知の距離となる、3000mという長丁場の戦いである。しかしそれについても、専門紙記者は「(ダノンデサイルにとっても)初めての距離ですからやってみないとわかりませんが、血統やレースぶりから判断すると、向いているほうだと思います」と分析する。

 そのダノンデサイルだが、夏の休養を経て、馬体が大きくなって一段とパワーアップしているという。それを裏づけるように、調教でも好時計を叩き出しているようだ。しかも、「帰厩後は、春のようには鳴かなくなりましたね。少し大人になった、という印象です」と専門紙記者。二冠達成への現実味はいよいよ増している。

 ただ、過去20年を振り返ってみても、ダービーに続いて菊花賞も勝ったという馬は、わずか3頭しかいない。ディープインパクト、オルフェーヴル、コントレイルの三冠馬だけだ。

 そういう意味では、菊花賞はダノンデサイルの、競走馬としての真の"器"が問われる一戦と言えるかもしれない。はたして、彼のポテンシャルは本物なのか。その走りに注目である。

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