福田正博 フットボール原論

サッカー日本代表がW杯アジア最終予選のアウェー・サウジアラビア戦、ホーム・オーストラリア戦の2試合を1勝1分で終え、グループ首位を保った。三笘薫のシャドーでの起用や、遠藤航の欠場により田中碧が先発するなど、9月の2試合からいくつかの変化が見られた。

福田正博氏に今回の2試合の評価を聞いた。

【三笘薫のシャドーでの起用は新たなチャレンジ】

 日本代表はW杯アジア最終予選の10月シリーズで、鬼門としてきたアウェーでのサウジアラビア戦に2-0で勝利。ホームでのオーストラリア戦は試合の流れとしては負けていてもおかしくないなか、追いついて1-1で引き分けた。

 9月シリーズが圧倒的な戦いぶりだっただけに、物足りなく感じた人もいたかもしれない。だが、グループ最大のライバル2チームとの対戦だったことを思えば、見事と言うしかないし、日本代表の成長をあらためて感じた。

サッカー日本代表、三笘薫の課題と鎌田大地をボランチ起用しなか...の画像はこちら >>
 その10月シリーズで目を引いたのが、三笘薫を試合途中から2シャドーの一角に置いたことだ。サウジアラビア戦、オーストラリア戦ともウイングバック(WB)で先発し、試合途中からシャドーにポジションを変えている。

 森保一監督が新たなチャレンジに踏みきったこの起用は、この2試合に限れば試合展開によっては使える可能性があるという印象だった。現時点で三笘の持ち味を生かせるポジションは、やはりアウトサイドにあると思わされた。

 サウジアラビア戦はリードした展開から鎌田大地に代わって投入された前田大然が左WBに入り、三笘は鎌田のつとめていたシャドーに入った。オーストラリア戦では1点を追う状況でシャドーの久保建英と交代した中村敬斗が左WBに入り、三笘がシャドーに回った。

【三笘と中村敬斗の共存を攻撃のオプションに】

 リードした状況だったサウジアラビア戦での三笘のシャドーは、有効な一手だった。相手のプレッシャーが強くなかったこともあって、無難に役目を果たしていた。

 一方、オーストラリア戦では、ボールを受ける際の視野の確保で課題があったようだ。

サイドであればタッチラインを背にするため180度の視野でプレーできるところ、ピッチ中央でプレーするシャドーは360度に気を配らなければならない。この試合では背後から迫る相手に気づかずに、ボールをロストするシーンも見られた。

 また、ポジショニングでも課題があるように感じた。オーストラリア戦では、中村がドリブルで左サイドを深くえぐってからのクロスが相手のオウンゴールにつながったが、この時三笘も同じ左サイドの外側にいたし、全体的に左サイドに流れる傾向が強かった。

 主戦場がウインガーなのでその気持ちは理解できるが、シャドーのポジションはウイングバックの選手が仕掛けていくためのサポートの動きも求められる。その点で言えば、南野のようにひとつ内側のエリアでサイドの味方を生かす動きを身につければ、三笘のプレーはさらに幅が広がるのではないだろうか。

 森保監督には、個で相手DFを剥がせる能力を持つ三笘と中村を共存させることで、相手DFの守備を分散させる狙いがあるのだろう。WBとして三笘が仕掛ける時に相手DFはふたりで対応してくるが、シャドーに三笘、WBに中村がいれば、相手DFはどちらか一方だけをマークするわけにはいかなくなる。

 オーストラリア戦ではWBの中村のドリブル突破は見られたが、シャドーとしての三笘のドリブルは見られなかった。三笘がWBで見せているドリブル突破を、もっとゴールに迫れるシャドーのポジションで発揮できるようになれば、「WB中村&シャドー三笘」の形は日本代表の攻撃のオプションになっていくのは間違いない。

【なぜ鎌田大地のボランチ起用はなかったのか】

 オーストラリア戦では遠藤航が体調不良でベンチ外になり、遠藤の代わりは田中碧が起用され、守田英正とコンビを組んだ。両選手はもともと川崎フロンターレで一緒にプレーしていたこともあって、コンビネーションに不安はない。実際、試合でも田中は及第点のプレーを見せていた。

 一部では、田中ではなく鎌田をボランチで起用すべきだったとの声もあったようだが、その意見には同意できない。なぜなら、そうした選手起用のマネジメントをすると、ほかの選手のモチベーションを低下させてしまうからだ。

 もしオーストラリア戦で鎌田をボランチで先発起用した場合、田中の気持ちはどうなるかを考えることも必要だろう。遠藤と守田がいて、ふたりに何かあれば自分の出番だと準備してきたのに、違う選手が起用される。当然ながら田中にとっては面白くはないはずだ。

 これがワールドカップ本大会の重要な一戦なら、なりふり構う必要はない。だが、まだアジア最終予選で、日本代表は勝ち点でグループ内のアドバンテージを握っている。今後も続いていく最終予選やワールドカップに向けて、選手たちには成長を続けてもらわなければならない。その状況下では、各ポジションの選手のモチベーションは重要なマネジメント要素なのだ。

 代表チームを率いる監督の仕事でもっとも難しいのは、ベンチに置く選手たちのモチベーションをコントロールすること。代表選手というのは自チームで結果を出しているから代表まで上り詰めているわけで、当然ながら自尊心が強く、誰もがベンチに座りたくないと思っている。それでもベンチを温めることになれば、代表チームの目標達成のために献身的に振る舞う。

 そうした選手たちの気持ちも考慮しながら指揮するのが、代表監督なのだ。そうした背景を理解していれば、オーストラリア戦においては鎌田のボランチ起用は現実的ではなかったとわかるのではと思う。

【チーム内の優先順位はもちろん変化する】

 無論、選手の代表チーム内におけるプライオリティーは、選手の成長によって変化していく。現状では日本代表のボランチは遠藤、守田に次いで田中が位置しているが、鎌田が自チームでもボランチで存在感を高めたり、藤田譲瑠チマが急成長を遂げたりすれば、優先順位は大きく変わる可能性はある。そのためにはまずクラブで安定して活躍し、所属クラブの格がヨーロッパで高いクラブへと移籍し、存在価値を高めていかなければならない。

 これで日本代表は、W杯アジア最終予選の全10試合のうち4戦を終えて3勝1分け。順調に勝ち点を積み上げてグループ首位を走るが、まだ出場権を獲得したわけではない。次は11月15日のインドネシア戦、11月19日の中国戦というアウェーでの2連戦。ここで勝ち点6を取ることができれば、出場権獲得にさらに近づく。

 アジアカップでの敗戦から始まった2024年を、しっかりと勝利で締めくくってくれることを期待している。

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