福田正博 フットボール原論
■現在のサッカー日本代表のなかで、福田正博氏が「ますます価値を高めている」と語るのが長友佑都だ。W杯アジア最終予選では全体のチームメンバーに選ばれているが、試合のベンチ入りメンバー23人には一度も入っていない。
【長友ほど替えのきかない存在はいない】
W杯アジア最終予選で、4試合を終えて3勝1分けでグループCの首位に立つサッカー日本代表にあって、森保一監督のチームマネジメントで象徴的と言えるのが、長友佑都(FC東京)だ。
アジア最終予選各試合でベンチ入りできるのは23人。これに対し、森保監督は9月、10月と27選手を招集してきた。これは不測の事態に備える面と、活動期間が限られるなか代表チームのメンバーとして時間の共有を重視しているためだが、試合では4選手がベンチから外れることになる。9月の2試合と10月の2試合に招集された選手は31名いて、このうち23名はどちらも呼ばれているが、その23名のなかで長友だけが1試合もベンチ入りしていない。このため長友の日本代表不要論も出ているようだが、私の考えは真逆だ。
チームマネジメントの観点から見た時、現在の日本サッカー界に長友ほど替えのきかない存在はいない。なぜならサッカーというのはピッチ内で行なわれることだけではなく、ピッチに向かうまでの、表からは見えない時間の使い方も大切だからだ。活動時間が限られている代表チームにあっては、その重要度はなおさら強まっている。
【現役だからこそ言葉のパワーがある】
長友にはイタリアの強豪インテルで長くレギュラーを張った実績があり、W杯にも4度出場の経験がある。「チームスポーツにはベテランの経験値が必要だ」と言われるが、持ち前のポジティブシンキングで周りを巻き込みながら、練習やロッカールームで、ムードをつくったり変えたりする発信力もある。
もちろん、それだけでは長友を日本代表に招集する理由にはならない。もっとも大事なのは、長友がいまなおピッチで働ける選手という点だ。
Jリーグでのプレーを見れば、いまなお長友の動きは信頼に足るものだ。
今回のアジア最終予選では、長友に出場機会は訪れていないが、また長友に出番がまわってくる局面もあるのではないか。
なにより長友には、現役だからこそ威力の増す言葉のパワーがある。選手というのは、引退した人物の言葉にはなかなか共感しないものだ。もちろん、監督やコーチ陣の戦術的な言葉には耳を傾けるが、それは自分の役割をまっとうするために理解して受け入れているのであって、共感とは異なる。
一方、年齢差があっても、選手同士という関係性だと同じ目線、同じ立場での発言や行動なので、腑に落ちることが多いのである。
【大ベテランの全力プレーで若い選手は振る舞いを知る】
ここに長友と長谷部誠コーチとの役割の違いがある。長谷部コーチは昨季限りで現役引退し、9月から日本代表コーチ陣に加わった。限りなく現役選手に近い存在ではあるものの、彼の言葉に求められるのは、チームとしての役割を選手に理解させるためのもの。一方、長友の言葉は、監督・コーチ陣からの言葉を受けた選手をサポートするためにある。
こうした役割をピッチ外でも担える国際経験豊富な現役選手となると、日本サッカー界には長友しかいない。
練習でも38歳の大ベテランが全力でプレーし、ボールを運んだりする雑用も率先してやっている。こうした姿勢を見ることで、若い選手たちは日本代表チームでの振る舞いを肌で知る。ピッチ内でのパフォーマンスばかりに目が行きがちだが、活動期間の限られた日本代表においてはチームマネジメント面でこれほど頼りになる存在はいない。
代表のためにピッチ外でも労を厭わない長友の重要性を、森保監督も理解しているからこそ、日本代表に招集している。そして、その意図を長友自身もわかっているからこそ、日本代表のために全身全霊を捧げているのだろう。森保監督は長友がピッチ上で動ける限り、2026年のW杯本大会まで招集するのではないか。そう思わせるほど、いまの長友の存在は日本代表にとって貴重な存在になっている。
プライドが高く、ひと癖もふた癖もある選手たちが顔を揃えるのが日本代表でもある。そんなチームの歯車が狂いそうになった時にこそ、チームを鼓舞して前を向かせるメッセージを発することのできる、長友の存在感は増していくだろう。