日本シリーズ第1戦は、有原航平の投打にわたる活躍でソフトバンクが5対3で勝利を収めた。

 2回表、二死満塁から有原がライトへタイムリーを放ち、ソフトバンクが2点を先制。

その後、両チームとも得点を奪えずにいたが、9回表、ソフトバンクは今宮健太、栗原陵矢のタイムリーで3点を奪いリードを広げた。

 それでも5点ビハインドのDeNAは最終回、ソフトバンクの守護神、ロベルト・オスナを攻めて梶原昂希、森敬斗のタイムリーなどで3点を奪い、なおも一発出れば逆転サヨナラの場面を演出したが、牧秀吾がセンターフライに打ちとられゲームセット。この試合、勝負の分かれ目はどこにあったのか。解説者で日本シリーズ経験者でもある攝津正氏に解説してもらった。

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【有原航平への不用意な1球】

── 日本シリーズ第1戦、攝津さんはどこに注目していましたか。

攝津 お互い打撃がいいチームですので、どういった形で得点できるか。逆に、バッテリーはどういう攻めをして抑えていくのか。そこに注目していました。

── 先制したのはソフトバンクでした。2回に二死二、三塁から甲斐拓也選手を申告敬遠で満塁策をとり、ピッチャー・有原航平投手との勝負に出ました。しかし結果は、タイムリーヒットでソフトバンクが2点を先制。DeNAバッテリーの攻め方はどうでしたか。

攝津 この場面で一番避けなければならないのは、フォアボールの押し出しです。

DeNAバッテリーとしては、とにかく早く追い込んで、最後は変化球を振らせたかったと思うんです。ストレートを3球続けたわけですが、おそらくふだん打席に入らないパ・リーグの投手ですから、押し込んでファウルをとりたかったのかなと。ただ打たれた3球目に関しては、甘く入ってしまいました。DeNAバッテリーにとっては、悔いの残る1球になりました。

── ジャクソン投手のデキはどうでしたか。

攝津 適度に荒れていた分、ソフトバンク打線は的を絞りきれず、ボール球にも手を出していました。たしかに、ジャクソン投手はストレートが速く、チェンジアップ、カーブを使ってうまく緩急をつけていました。ただ、ソフトバンクの攻撃で気になったのは初回の攻撃です。柳田悠岐選手が四球で出て、つづく周東佑京選手が2球目を打つも外野フライに倒れました。ここは、ベンチからすれば内野ゴロでランナーを進めてほしい場面。最低でも、柳田選手と周東選手が入れ替わる形にしたかった。結局、つづく今宮健太選手の打席で、柳田選手が盗塁を試みるも失敗。

チャンスは潰えました。

── 立ち上がり不安定だったジャクソン投手を助けてしまったと?

攝津 もっとうまく攻めていたら、違う展開になっていたのかなと。2回にああいう形で先制できましたが、ソフトバンクとしては上位でチャンスをつくり、中軸に回すシチュエーションをつくりたかった。ジャクソン投手の立ち上がりがよくなかっただけに、もったいない攻撃でした。

── 一方、ソフトバンク先発の有原投手は、7回を投げて4安打無失点と好投しました。

攝津 どの球種もしっかり投げることができていましたし、投げミスが少なかったですよね。なかでも感心したのは、DeNA打線に低めのボール球を見極められる場面があったのですが、それでも徹底して低めに集めていたことです。ピッチャーとしては、低めの球を見られると、どうしてもゾーンを上げてストライクを取りにいこうとしてしまう。でも有原投手はゾーンを上げることなく、低めにボールを集めた。調子自体もよかったと思うのですが、冷静なピッチングでしたね。

── DeNA打線は、最後まで有原投手を攻略できなかった?

攝津 打ってもファウルにしかならないコースを突いてカウントを稼ぎ、ストライクからボールになる変化球で仕留める。とくにチェンジアップとフォークはよかったですね。

DeNAからすれば、投球パターンはわかっていたと思うのですが、コントロールミスがないから捉えられない。緩急の使い方もうまく、DeNA打線は微妙にタイミングをずらされていました。

【DeNAに希望を与えた守護神からの3得点】

── 2回以降はお互い点が入らないまま進みますが、9回表にソフトバンクが今宮健太選手、栗原陵矢選手のタイムリーで3点を奪いました。

攝津 DeNAの小刻みな継投の前に抑えられていましたので、しっかり打って得点できたことは大きかったですね。とくに二死三塁から、栗原選手はよく打ったと思います。結果的に、ものすごく大きな1点になりました。

── DeNAは5点差をつけられましたが、最終回の攻撃でソフトバンクの守護神、ロベルト・オスナ投手から3点を奪い、一発出ればサヨナラ逆転のところまで攻め立てました。

攝津 得点したことはもちろんですが、クローザーのオスナ投手から3点奪ったことが明日以降の戦いに大きく影響してくると思います。

── オスナ投手ですが、まだ本調子ではない印象を受けました。2点差の状態でブルペンで調整していましたが、追加点が入り5点差になったことで、気を抜いたわけじゃないでしょうが、気持ちに余裕が生まれ、それがピッチングに影響したことはないですか。

攝津 気持ちに余裕が生まれたことは多少あったかもしれませんが、それでも全体的にボールが高く、キレもなかった。DeNAからすれば、オスナは怖くない、少ない点差ならチャンスはあると思ったかもしれないですね。

ソフトバンクとすれば、最後はオスナで締めるというのがひとつの形ですから、よほどのことがない限りクローザーを変えるわけにはいかない。そのためには1点でも多く得点する必要があります。

── ソフトバンクにしてみれば、最後は追い上げられましたが、シリーズ初戦を取れたことは大きかったと思います。

攝津 あの展開で逆転負けすれば、一気にやられてしまう可能性もあるわけですから、ものすごく大きいですね。ソフトバンクとすれば、DH制のないセ・リーグ本拠地の試合で2連敗は避けたかった。そういう意味で、内容はともかく会心の勝利だったと思います。ただ、あえて注文をつけるとすれば、中軸の前に得点圏にランナーを進めたい。そうなれば、バッテリーにプレッシャーをかけることができますし、より攻撃のパターンも広がってくると思います。

── 第2戦はどこに注目したいですか?

攝津 DeNAは敗れましたが、最後ああいう形で追うことができたことは自信になったはずです。短期決戦は、とにかく主導権を握ることが大事になってきますので、どちらが先制点を奪うか。そこに注目したいですね。


攝津正(せっつ・ただし)/1982年6月1日、秋田県出身。

秋田経法大付高(現ノースアジア大明桜高)3年時に春のセンバツに出場。卒業後に入社したJR東日本東北では、7度(補強選手含む)の都市対抗野球大会に出場した。2008年にソフトバンクからドラフト5位指名を受け入団。抜群の制球力を武器に先発・中継ぎとして活躍し、沢村賞をはじめ、多数のタイトルを受賞した。2018年に現役引退後、解説者や子どもたちへ野球教室をするなどして活動。通算282試合に登板し、79勝49敗1セーブ73ホールド、防御率2.98

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