プレミアリーグ第9節。三笘薫所属のブライトン(5位)は、ホームで最下位ウルヴァーハンプトン・ワンダラーズ(ウルヴズ)と対戦した。

代表戦ウィーク明けの前節、ニューカッスル戦で今季初めてスタメンから外れた三笘は、4-2-3-1の左ウイングで先発。例によってアタッカー4人のなかで最も長い89分間プレーした。

 ガリー・オニール監督率いるウルヴズは本来、攻撃的な4-2-3-1または4-3-3で戦うチームだ。しかし負けが込んだからか、前節のマンチェスター・シティ戦では今季初めて5バックスタイル(3-4-2-1)を採用。このブライトン戦は従来型なのか、守備的なのか。注目された。

 答えは後者だった。つまり、三笘は相手のウイングバック(WB)と対峙することになった。相手はネルソン・セメド(ポルトガル代表)。本来であれば右サイドバック(SB)を務める選手である。三笘、堂安律というウイング系の選手がWBを務める日本代表とは、異なる考え方であることは言うまでもない。

サッカー日本代表にも参考になるブライトンの布陣変更失敗 三笘...の画像はこちら >>
 仮に、対峙するウルヴズのWBがセメドでなく日本代表の三笘だったとしたら、ブライトンの三笘と、どちらが高い位置を保つことができるだろうか。

 ブライトンの三笘であることはハッキリしている。ブライトンの三笘には、背後に左SBペルビス・エストゥピニャン(エクアドル代表)が控えているのに対し、日本代表は三笘ひとり。サイドは数的有利不利が現れやすい領域なので、日本代表の三笘がいくら優秀なアタッカーでも、ブライトンの三笘よりポジション取りは低くなる。高い位置を張れず、攻撃的な選手ではいられなくなる。三笘が相手のWBと対峙する姿を見ていると、「超攻撃的3バック」と讃えられる森保式3バックに「看板に偽りあり」と、あらためて言いたくなるのだった。

 ウルヴズのWBセメドは実際、あるときまでベッタリと最終ラインで5バックの一角として構えた。引いた相手にはサイドを突け。この鉄則に従うと、三笘対セメドは、この試合の行方を占うマッチアップとなるかに見えた。

【優勢だった前半の三笘】

 開始7分の1対1では三笘が内を突いたところを引っかけられるが、続く20分のシーンでは、エストゥピニャンとのコンビネーションで打開を図った。そのラストパスを三笘はシュートに持ち込んだが、最後の瞬間、セメドに足を出されCKに逃れられた。

 直後の前半22分には正面から。三笘はヤシン・アヤリ(スウェーデン代表)からボールを引き取るとドリブルで前進して持ち込み、際どいシュートを放っている。前半32分のシーンは、セメドがこの日、初めて高い位置に進出、シュートに持ち込んだ直後だった。

その状況を把握したジョルジニオ・ルター(U-21フランス代表)は、その背後を突くパスを三笘に送った。

 三笘が狙ったのは縦抜けで、抜ききらないうちに角度のないところからシュートを狙ったが、帰陣したセメドはこれを辛うじてブロック。CKに逃れた。

 前半43分には、この日2度目の攻め上がりを見せたセメドの背後を突いた。カルロス・バレバ(カメルーン代表)のミドルパスを受けた三笘はサイドを疾走。今度ばかりはセメドは戻りきれなかった。だが、切れ込みながら放った三笘のシュートはまたしても際どくコースを消され、CKに逃れられた。

 前半の終盤にかけて、三笘対セメドの構図は鮮明になった。

 試合が動いたのは前半45分。ルターのパスを受けたダニー・ウェルベック(元イングランド代表)が、今季通算6点目となるゴールを右足で鮮やかに叩き込み、ブライトンは試合をリードした。

 すると後半、ウルヴズは布陣を本来の4-3-3に変更。攻撃的なスタイルで反撃に出た。

三笘が対峙する相手は、右WBから右SBに変わったセメドとなった。

 すると三笘の活躍する機会は前半に比べて減少。ウルヴズが押し返すような感じで、試合は終盤に差し掛かった。

 そこで魅せたのがウェルベックに代わって入ったエヴァン・ファーガソン(アイルランド代表)だった。後半40分、タリク・ランプティ(ガーナ代表)の右からのパスを中央で受けると、逆サイドに三笘がフリーで待ち構えていたにもかかわらず、強引に右足を振り抜いた。シュートは美しく強烈な弾道となってウルヴズゴールの左隅に飛び込んだ。三笘はファーガソンと両手でハイタッチ。笑顔で喜びを分かち合っていた。

【同点に追いつかれた原因は?】

 2-0で残り時間は5分+アディショナルタイム。ブライトンの勝利は動かぬモノに見えた。だが試合の流れは最終盤に一変する。ブライトンはウルヴズに同点とされてしまったのだ。

 原因は後半35分、ブライトンのファビアン・ハーツラー監督が布陣を5バックに変更したことと深い関係がある。

 守備固めに出たにもかかわらず同点に追いつかれた。典型的な采配ミスで、ブライトンは土壇場で勝ち点3が目の前から消えていった。

 もっとも、三笘のポジションは同じ5バックでも森保式(3-4-2-1)とは違っていた。5-4-1(5-2-3)の左ウイング。ウイングバックではないところがポイントで、攻撃度で勝るのはハーツラー式3バックだ。とはいえ、それまでの4-2-3-1より数段、守備的である。前節のニューカッスル戦でも残り数分、ハーツラー監督は5バックに切り替えている。この時は無事に逃げきったが、2節連続とはいかなかった。

 守りを固めたにもかかわらず2点を奪われた。ロベルト・デ・ゼルビ前監督時代にはなかったことが起きてしまった。サッカーでは思いのほか多く発生する"あるある"とはいえ、チームとしてショックは大きいハズだ。

監督のカリスマ性が急降下しかねない事件である。

 三笘の話に戻れば、前半の採点を10点満点で7点とするならば後半は6。トータルでは6.5だ。ドリブルでセメドを縦にかわし、マイナスの折り返しを決める"ザ・ミトマ"というプレーは、前後半を通じて披露されなかった。そうした意味では物足りなさを覚えるが、存在感は十分発揮した。エストゥピニャンとのコンビプレー、シュートシーンに絡む動きなど、多彩にプレーできた。幅は広がっていると見る。

 いずれにせよ、攻撃的サッカーと守備的サッカーの特徴が交互に現れた、まさしく学習になるブライトン対ウルヴズの一戦だったと言える。

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