【一喜一憂する暇はない】
積極的なプレーはリスクを伴うものだが、舞台が大きければ大きいほど、デリケートなものになる。
「反省すべきところはしっかりと反省し、次につなげるしかない。正直、短期決戦ですから一喜一憂する暇はないのかなって。
横浜DeNAベイスターズの梶原昂希は日本シリーズ第1戦を終え、真摯な面持ちでそう言った。
クライマックスシリーズ(CS)を勝ち抜き、DeNAとして7年ぶりに出場する日本シリーズ。もちろん、プロ3年目の梶原にとっては初の大舞台となる。レギュラーシーズンよりもはるかに多い関係者やメディアが横浜スタジアムに出入りし、独特な雰囲気が漂う試合前、梶原は終始リラックスした様子だった。
「特別な舞台ではありますが、いい緊張感のなか、気負うことなくゲームに挑むことができましたね」
【"師匠"に見せたい成長】
リーグ3位、ケガ人も相次ぎ、不利との下馬評のなかCSを戦い抜き、ここにたどり着くことができた。そんな自信が梶原からにじみ出ていた。
大一番の相手は、大分県出身の梶原にとっては地元九州の福岡ソフトバンクホークス。最強のパ・リーグ覇者を迎えることで、これもまた気分を高揚させた。
「思い入れじゃないけど、単純にわくわくするというか、これは楽しんでプレーできるなって」
落ち着きと無邪気さが交錯する。今季ブレイクを果たし、野球の奥深さや面白さを体感している梶原にとって日本シリーズは、未知の世界へのチャレンジでもある。
練習前には自主トレをともにし、憧れから勝手に"師匠"としている柳田悠岐と歓談している様子も見られた。「挨拶と雑談をしたぐらいで、特別面白い話はないですよ」と笑ったが、今年の交流戦は柳田の負傷離脱によりマッチアップできなかったので、梶原にとっては成長を見せるチャンスでもあった。
【ライトゴロを狙って果敢に挑むも......】
しかし2回表、2アウト満塁の場面で事は起こる。打席に入った投手の有原航平は、アンドレ・ジャクソンが投じた153キロのストレートを逆方向に弾き返すと、飛びついたファーストのオースティンの脇を抜けライトの梶原の前へ。
前進守備を敷いていた梶原はライトゴロに仕留めるため、ダッシュをして捕球。10月2日の巨人戦でもライトゴロを成立させており、また決めるのかと思いきや、オースティンはグラウンドに伏したままであり、またジャクソンがファーストのカバーに走っていたが、そこで梶原はボールをファンブルしてしまい、ソフトバンクに2点を与えてしまう。
短期決戦における先制点の重要性。積極的にチャージした梶原だったが、手痛い結果となってしまった。
ただ、以前ならばこの状況を引きずってしまったかもしれないが、今の梶原は違う。この回裏の初打席でセンター前へヒットを放ち、しっかりと切り替えて結果を出している。
とはいえ、この2点が重たくのしかかりDeNAは打線がつながらず、得点できないままだった。さらに9回表にソフトバンクに3点を奪われ0−5とされると、多くのファンが詰めかけたハマスタに敗戦ムードが漂った。
【高めの速球にニュースタイルで対応】
だが、そこで起死回生の一打を放ったのが梶原だった。
9回裏2死二塁の場面、相手はソフトバンクが誇るクローザーのロベルト・オスナ。梶原はインローに来た初球を見送ると、2球目の高めぎりぎりに来た149キロのカットボールをセンター前に弾き返してチーム初のタイムリーヒット。淀んでいたハマスタの空気が一掃された。
「パ・リーグ優勝チームのクローザーなので、1球でも逃したら次はない。
もともとはローボールヒッターであり、以前の梶原であれば打ち損じていた可能性が高い。高めの速球にも適応するため、夏場から石井琢朗チーフ打撃コーチと鈴木尚典打撃コーチと取り組んできた"ニュースタイル"により対応することができたと実感している。
「今季の成長が見えた打席でしたね」
梶原は自信を漂わせ頷いた。
【マインド的にはこっちに分がある】
その後、続く森敬斗の打席で、梶原が投球間に隙を見てセカンドに進塁。森がレフト前へヒットを放ち、梶原が生還し2点目を入れ、さらに代打の筒香嘉智がライト前へヒットを放ち、相手のミスもあって、二死から3−5まで追い上げた。しかし、怒涛の反撃もここまで。DeNAは初戦を落としてしまった。
だが、試合後のハマスタやベンチのムードは、追い上げもあってか敗戦によってネガティブな空気が垂れ込めている様子はなかった。誰もが「明日につながる」と感じていたに違いない。
この試合でよくも悪くも起点になった梶原は顔を上げて言うのだ。
「初戦を落としてしまいましたが、CSファイナルステージでも(相手に)アドバンテージ1があるなかの戦いでした。そこを勝ち抜いてきているので、マインド的にはこっちに分があるんじゃないかと思っているんです。
打撃力が自慢のDeNAではあるが、ポストシーズンはタイトな戦いが続くこともあり破壊力あるクリーンナップが機能することが少ない。そういう意味でやはりカギになるのは梶原などの脇を固める若い打撃陣だ。
はたして前日の勢いそのままに第2戦を戦うことができるのか、DeNAの奮起に期待したい。