まだ1回表。だから試合を決定づけたと言うには本来ならば早すぎるが、それでも多くの人がソフトバンクの勝利を信じたに違いない。
【セ・リーグの投手は苦手】
初回、二死一塁。カウント1ボール2ストライクからDeNA・大貫晋一のカーブにうまく反応してバットを一閃すると、打球は左翼フェンスをギリギリで越えていった。
「追い込まれていたけど、状況的に長打(がほしいところ)だったと思うので、しっかり押し込めたというか、そういうバッティングができました。外野の頭は越えるかなと思いました。でも、やり慣れている球場じゃないので(ホームランになる)確信はなかったですけどね」
レギュラーシーズンで34発を放ち、本塁打王のタイトルを獲得。日本ハムと争ったクライマックスシリーズ(CS)ファイナルの3試合でも12打数6安打3本塁打と大暴れしてMVPに輝いた。今季の数々の打棒を見てきたなかでは、決して会心のアーチというわけではなかった。しかし、この一発には山川の"らしさ"が存分に詰まっていた。
じつは山川は、日本シリーズ前「セ・リーグと対戦するのは、正直苦手なんですよね」と告白していた。
「対戦数が少ない。パ・リーグのピッチャーって何年もかけて対戦するじゃないですか。
ただ、弱音を吐いたと思われるのは癪(しゃく)だと感じたのか、「それだけの話です」と笑ってつけ加えた。
とはいえ、苦手のひと言で片づけるわけにはいかないのは重々承知。どんな対策をするのかと水を向けると、その質問にも丁寧に答えてくれた。
「1回1回の勝負でいいんじゃないですか。組み立てがないというか、たぶんそういう感じ。短期決戦だし、1打席1打席が勝負。つまり捨てる打席がない。シーズン中はけっこうあるんです。ここは真っすぐだけを張っていくとか、今日は1日かけてフォークしか待たないとか、そういうのをやったりする時はあります。だけど、短期決戦ではそれはしない。どの球種を待つとかってあんまりない。
第2戦の先制ホームランの場面。追い込まれるまでの3球はツーシーム、スプリット、ストレート。打ったカーブは初見だった。
「カーブは、ストレートを待って打つのが難しい球。ストレートを右中間ぐらいに打つというか、少し引きつけるぐらいの感じを持っていると対応しやすくはなります。打つのが難しい球のひとつだと思いますけど、あのカウントだったので、フォーク(スプリット)も頭に入れながら、対応できたかなと思います」
【日本シリーズ14連勝に貢献】
また、短期決戦ならではの1打席勝負のマインドセットは、気持ちの切り替えにも役立っている。
CSファイナルで大活躍した山川だったが、日本シリーズ第1戦は沈黙した。遊ゴロ、空三振、空三振。4打席目に四球を選んで出塁したものの、3打数無安打に終わっていた。
取材のなかで、期するものがあって第2戦に臨んだではないかという質問が飛んだ。
「何も変えてないっす。頭の整理だけですよ。映像で振り返ったり、自分のフィーリング的にも、スイングの鋭さとか全然悪くなかったように感じた。最後のフォアボールも、自分のなかでは感触が悪くなかった。このままでいいなって感じで、今日もできました」
なにより、自身が打てなくともチームが第1戦も勝利したことが、大きな心の拠りどころになったという。
「レギュラーシーズンもチームの勝利はもちろん大事で、それが一番なんですけど、やっぱり個人成績のことも大いに頭に入れています。だけどクライマックスとか日本シリーズでは、頭に入れてないですね」
第1戦の打席を見る限りでは、もしかしたら"逆シリーズ男"になってしまうのではないかと妙な胸騒ぎがしたが、まったくの杞憂だった。第2戦は先制2ランホームランの後も左前打、左前適時打を放って4打数3安打3打点と好結果を残してみせた。
レフト前ヒット2本はいずれもゴロの当たりだった。本来ならば、全打席打球を上げてやろうと思ってスイングをしている。
「そこまで欲はないですね。
とにかく勝てばいい。
小久保裕紀監督も第1戦からの連勝に加え、2018年の第3戦から続く日本シリーズ14連勝を問われても「あと2つ勝つのみ」と前だけを向いた。
よくても悪くても、新たな気持ちで次に臨む。第3戦からは地元・福岡が舞台だ。鷹はさらに追い風をつかみそうだ。