斉藤光毅インタビュー(後編)
◆斉藤光毅・前編>>「現状をどう打開するか、全力でもがいている」
パリオリンピックで背番号10を背負った斉藤光毅が、2024-25シーズンからイングランド・チャンピオンシップ(2部)のクイーンズ・パーク・レンジャーズ(QPR)の一員としてプレーしている。
相手守備陣に脅威をもたらすこのドリブラーは、2021年冬に横浜FCからベルギー2部のロンメルへ移籍し、2022-23シーズンからはオランダ・エールディビジのスパルタ・ロッテルダムで2シーズンを過ごした。
オランダからイングランドへ戦いの舞台を移した斉藤は、チーム合流後すぐに試合に絡んでいる。同時に、ピッチの内外で環境の変化に適応する毎日だ。
「オランダに比べると、こっちはロングボールを使うチームが多い印象です。自分たちもロングボールが多くなったりもするので、自然と局面でのバトルがバチバチになったりとか。前に強いっていうのもすごく感じますね。うしろ向きでボール受けると、ものすごいプレッシャーを受ける。球際のところとかも、かなり突っ込んでくる。そういうところにオランダとの違いを感じます。わかりやすく言うと、ピッチが狭く感じるというか。そのなかでも技術を発揮できる選手はいるので、自分もそういうところで違いを見せたいと思います」
スパルタ・ロッテルダムは、エールディビジのひとケタ順位を争うチームだった。それに対してQPRは、過去2シーズン連続で際どく2部残留を果たしてきた。
「環境が変わってチームのスタイルも違うとなると、やっぱりそこに適応していかなきゃいけない。でも、どこのチームへ行っても、自分の特徴を出さないと評価されない。
ロングボールばかりだと難しい部分はありますけれど、なかなかボールが来なくてもセカンドボールの競り合いとかで自分の価値を示すことはできる。自分が得意とする形でボールを受ける機会が少なくても、そこでどれだけ仕事ができるのかで自分の価値が変わってくる。競り合いならすべてに勝つ、という気持ちでやっています」
【ロンドンの街並みは東京に似ている】
スペイン人指揮官のマルティ・シフエンテスが指揮するQPRは、リーグ戦の3位から6位までが出場するプレーオフ圏内をターゲットとしている。チームは10月28日時点で、1勝6分5敗で24チーム中23位に位置する。
「苦しい状況です。ここからどう立て直していくのかが、ホントにカギになります」
10月シリーズの日本代表には、パリオリンピック代表の僚友・藤田譲瑠チマ(シント・トロイデン)が森保一監督から招集を受けた。関根大輝(柏レイソル)も追加招集された。
斉藤がプレーするチャンピオンシップからも、ふたりの選手が日本に合流した。常連の田中碧(リーズ)に加えて、今夏にブラックバーンに加入した大橋祐紀がリストアップされた。
「パリ五輪で一緒に戦った選手とか、同じリーグから代表に選ばれていることは、ホントに刺激になりますし、危機感も芽生えます。
でも、焦りすぎるのもよくないので、自分は自分のペースというか、自分のプレーに集中して活躍できれば、日本代表にも招集されるかもしれない。自分のプレーに集中して、結果を残すだけですね」
19歳で日本を離れてから、危機感と向上心を競争に挑む原動力としてきた。「これまでも常に持ってきたし、今も増している」と話す。
ただ、危機感が悲壮感へ変質しないように心がけている。苦しい局面でも笑顔でいることを心がけ、サッカーを楽しむ気持ちを忘れないのだ。
オンラインの取材が行なわれたのは、10月初旬だった。QPRが本拠地を置くロンドンへ移り住んで、すでに2カ月ほどが経っている。ところが、オランダに置いていた荷物が届いたのは、ほんの数日前だった。
斉藤は23歳の青年らしい笑みをこぼす。
「荷物の整理も全然できてなくて、まだホントにバタバタです。ロンドンの街も全然わからないし、日常生活に早く慣れないと。
【平河悠や三戸舜介とロンドンで再会】
食事は調理師や栄養士のサポートを得て、用意してもらっている。オランダでもそうやってコントロールしてきた。
「チームでも食事は出るので、そこは全然問題ないですね」
コミュニケーションはどうだろう。斉藤は少し困ったように笑う。
「英語は問題ありです。何となくは理解できるんですけど、話すほうはまだまだで」
ベルギーでもオランダでも、通訳はいなかった。QPRでもひとりである。「しんどいですけど、もう慣れました」と、さきほどよりも明るく笑う。シフエンテス監督からは戦術的な指示が多くあり、ミーティングも毎日行なわれる。それでも、コミュニケーションが大きなストレスになっている、ということはないようだ。
QPRと同じくロンドンに本拠地を置くクラブは多い。
9月の代表ウィークでは、パリオリンピック代表のチームメイトとオフを過ごした。ブリストル・シティ所属の平河悠、スパルタ・ロッテルダムでも同僚だった三戸舜介と、ロンドンで再会を果たしたのだった。
「ふだんは観光とかしないんですけど、3人でビッグベンへ行きました。時間がある時にそうやって会えるのは、リフレッシュにもなるし、話をしていて刺激にもなります」
自らを奮い立たせてくれるトピックは尽きない。古巣の横浜FCの動向も、そのひとつだろう。J2リーグからの復帰を決めたのだ。
「ずっとお世話になったクラブなので、結果は気にしていました。自分がステップアップすることは恩返しにもなるので、自分もがんばらなきゃって思います」
イングランド2部で地力を蓄えながら、最高峰の舞台を見据える。2026年の北中米ワールドカップも、はっきりと視野にとらえている。
「上へ行きたいっていう気持ちは、本当に常にあります。そのためには今、結果を残さなきゃいけないし、結果を残して代表に選ばれないとワールドカップには出られない。
上を目指してやっていくなかで、QPRにホントにフィットして、自分のプレーを出す。それが、今の自分が求めるもの。目標を見ながら、今のプレーに集中していきます」
自分に厳しく、けれど、悲壮感はなく。一瞬の輝きを放つために、準備は絶え間なく。真っ直ぐでしなやかな向上心が、斉藤を衝き動かしている。
<了>
【profile】
斉藤光毅(さいとう・こうき)
2001年8月10日生まれ、神奈川県出身。横浜FCの下部組織で育ち、高校2年の2018年7月にクラブ史上最年少でJリーグデビューを果たす。2021年にベルギーのロンメルSKに完全移籍し、2022年にレンタル移籍でオランダのスパルタ・ロッテルダム、2024年からはイングランド2部チャンピオンシップのクイーンズ・パーク・レンジャーズでプレーしている。代表歴はU-16から各アンダーカテゴリーで活躍し、U-17ワールドカップやU-20ワールドカップのメンバーにも選ばれている。ポジション=FW。身長170cm、体重61kg。