2024年のバロンドールがマンチェスター・シティに所属するスペイン代表MFロドリ(28歳)に決まった。
ロドリはユーロ2024でスペインを優勝に導いた司令塔ぶりが高く評価された。
「君たちがいなかったら、この受賞はなかっただろう」
ロドリはひとしきり、家族や友人や代理人やマンチェスター・シティ関係者など、さまざまな人たちへの感謝を述べたあと、こう続けている。
「ダニ(レアル・マドリード所属で、スペイン代表ではチームメイトのダニエル・カルバハル)のことを、この場で思い出したい。彼も私と同じく大きなケガを負い(膝の前十字靭帯断裂でシーズン中の復帰は絶望的)、私と同じくこの場に立つのに値する選手だ。これは私だけのタイトルではない。スペインフットボールの勝利だと思う。これまで、この賞を(とるべきと言われて)とらなかったシャビ(・エルナンデス)、(アンドレス・)イニエスタ、イケル(・カシージャス)、ブシ(セルヒオ・ブスケツ)も含めて、自分に与えられた賞だと思っている」これほど歴史に敬意を払った、美しいスピーチはあまりないだろう。彼は自分と自分の周りではなく、世代を超えたスペインフットボールの躍進に思いを馳せ、感謝の気持ちを口にしている。自分だけでとった賞ではない、ということだろう。
そうした人柄も含め、ロドリは世界最高のフットボーラーの称号である"バロンドールに値する選手"だったと言える。
それだけに、ブラジル人選手の言動が物議を醸している。
今回のバロンドールで2位だったヴィニシウス・ジュニオール(24歳/レアル・マドリード)は、「自分が受賞しない」とわかると、授賞式へ行く飛行機をキャンセルしたという。
【レアル・マドリードはボイコット】
ヴィニシウスは受賞への強迫観念が強かった。今シーズンもアトレティコ・マドリード戦では自身がチャンピオンズリーグ(CL)王者であることを誇り、執拗に相手を挑発した。バルサとのクラシコでも、すでにバロンドールの受賞が決まっているかのような尊大な振る舞いがあった。それだけに、この結果を受け入れられなかったのか。
ヴィニシウス本人と周囲の人々にとっては、「CLとラ・リーガでMVPに近い活躍をして、バロンドールになれないなんてあり得ない」ということだったのだろう。地元マドリード系のメディアも、「ヴィニシウスは受賞して当然」と煽りまくった。先日のCLドルトムント戦で活躍したあとは、そのムードがさらに加速していた。
しかし例年、W杯とユーロの年は、そこで際立った活躍をした選手が優位になる。識者のなかではロドリは絶対的本命だった。
驚くべきは、レアル・マドリードがヴィニシウスへの連帯を示した点だろう。ほかにもノミネートされた選手がいたにもかかわらず(カルロ・アンチェロッティ監督は、レバークーゼンのシャビ・アロンソ監督を抑えて最優秀監督賞を受賞している)、「全員で授賞式に行かない」という決定をしたのだ。レアル・マドリードのようなメガクラブが授賞式をボイコットすることは、仲間との絆を重んじた美談というより、「自分たちを手厚く扱わなかったことを後悔させる」という"脅し"にも受け取れてしまう。
ヴィニシウスは今回のバロンドールに対して、今もSNSを使って憤懣やるかたない心情を発信している。かつてのリオネル・メッシのように、ユーロに出場していなくてもバロンドールに輝いたケースはあっただけに、忸怩たる思いがあるのだろう。しかし、数字を見れば明らかなのだが、当時のメッシと比べると、ヴィニシウスの得点数やアシスト数は半分程度なのだ。
今回の一件でも露呈したように、ヴィニシウスはその人間性が必ずしも尊敬されていないところがある。試合中、派手に倒れて審判にアピールしたり、相手選手に高圧的な態度で接したり、汚い言葉で挑発したり(スタジアムで人種差別的言葉を浴びせかけられた件は大問題だが、そのストレスを対戦相手に向けるべきではない。彼のそうした言動がブーイングの増幅につながっている)......。一部の関係者やファンには神格化されているが、対戦チームからリスペクトされていないのだ。
誰がバロンドールにふさわしかったか。その答えは歴然としている。ロドリ、そしてカルバハルの復帰を楽しみに待ちたい。