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今、日本の女子テニス界に、大型のニューウェーブが生まれている──。
それは、数年前から徐々に顕在化していた予兆。
10月上旬の「全日本テニス選手権」では、19歳の石井さやかと18歳の齋藤咲良(さら)の「10代決勝戦」が実現。ワールドクラスの死闘の末に、石井が競り勝ち『秩父宮妃記念盾』を掴み取った。
その翌週に大阪市で開催されたWTAツアーの「ジャパンオープン」では、齋藤が2試合連続でトップ100選手に快勝してベスト8へと躍り出た。なおこの大会では20歳の伊藤あおいも、ベスト4に進出している。
すると、翌週には石井さやかが日本開催の女子ツアー最高グレード大会「東レ パンパシフィックオープン」で準々決勝へと大躍進。その過程では、予選決勝で世界64位のクララ・タウソン(デンマーク)を破り、本戦初戦で齋藤と再び対戦。この注目の再戦は、石井が6-1、6-1のスコアで圧倒した。
木下は齋藤と組み、2023年全豪オープンジュニアでダブルス準優勝。
【なぜ日本から次々と台頭しているのか】
これら日本ジュニア勢の躍進は、世界的にも注目を集めている。
とりわけ昨年の全米オープンジュニアでは、第3シードの石井を筆頭に、齋藤が第4、クロスリーが第5、小池が第6シード入り。この現象はITF(国際テニス連盟)の公式ウェブサイトでも、「New wave of Japanese talent make their presence felt at US Open(日本の新勢力が全米オープンで存在感を示す)」と題して報じられた。
記事内では、石井の父親が横浜ベイスターズで活躍した野球選手であることや、齋藤の「対戦したら勝ちたいけれど、オフコートでは友人」のコメントにも言及。「日本の若きスター選手たちの躍進は、注目に値するだろう」の一文で、この記事は結ばれている。
誰もが抱くだろうこの問いに、簡潔でわかりやすい答えはない。なぜなら前述した選手たちはみな、各々が異なる道を歩んで、今の地位まで来たからだ。
群馬県生まれの齋藤と、大阪府育ちの木下が初めて対戦したのは11歳の時。「富士薬品セイムスウィメンズカップ」の決勝が、その舞台だ。
この大会は、将来有望な若手を発掘し、サポートするためのいわば選考会。
それが契機となり、ふたりは11歳の頃から海外遠征の経験を積む。以降から現在に至るまで、齋藤は地元のMAT Tennis Academyを拠点とし、木下は今年の春に地元を離れ、元世界24位の神尾米の門を叩いた。
石井は、彼女を支援する人々の勧めや人脈を辿って渡米。小池は、父親の仕事の関係でIMGアカデミーの近くに移り住んだのが縁。園部は、盛田正明テニスファンドの支援を得たためで、錦織圭や西岡良仁らと同じ世界への順路を歩んでいる。
他方、クロスリー真優が拠点とするのは、米国フロリダ州のクリス・エバート・テニスアカデミーである。エバートは元世界1位にして、女子テニス界最大のスターのひとり。その薫陶を受けたクロスリーは、来年からカリフォルニア州立大学ロサンゼルス校(UCLA)に進学し、大学リーグで実戦経験を積む予定だ。
【黄金世代と呼ばれるプレッシャー】
かくも成長の足跡は異なるが、彼女ら全員に共通しているのは、高い目的意識と実行力かもしれない。
彼女たちが15歳前後だった2021年から2022年上旬あたりは、まだコロナ禍の渡航規制もあり、海外遠征するにしても協会等の組織的サポートを受けるのは難しい時分。ただ、その時期でも前述の選手たちは海を渡り、多くの国際大会で場数を踏んだ。
大会会場では自ら練習相手を探し、コートを確保し、現地スタッフや選手仲間と英語でコミュニケーションを取る。それが可能な環境や陣営あってのことだが、独立独歩の過程で獲得したたくましさは、テニスの世界では必要不可欠な資質だ。
「それらの声が重圧にはならないか」と、自戒も込めて齋藤に聞いたことがある。すると彼女は、こちらの目をまっすぐに見て、口の端に笑みを浮かべて、こう答えた。
「緊張することもありますが、それは自分で自分に期待するから。(小池)愛菜ちゃんや(石井)さやかちゃんのように仲のいいライバルがいるから、お互い高め合えるかなと思う。ひとりで行くより、みんなで競い合いながら行けたほうが、自分はうれしいんです。
プレッシャーみたいなのは......ないですね。逆にどんどん盛り上げていきたい、みんなで! みんなのことは12歳の頃から知っていて、そんなふうに小さい頃から競ってきた人たちがトップ100とかに入れたら、けっこうすごいことだと思うんです。
世界も注目するニューウェーブは、その勢力を増しながら、大海を渡っていく。
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