【覚醒したベイスターズ打線】

 勢いに乗ったベイスターズは恐いーー。第3戦の原稿の締めに書いたこの言葉を、福岡3連戦が終わった今、あらためて噛み締めている。

 10月31日、横浜DeNAベイスターズと福岡ソフトバンクホークスの日本シリーズ第5戦、13安打7得点。

8回以外三者凡退はなしの先発全員安打と、ついにベイスターズ打線が完全に目を覚ました。

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「なんでこのチームが3位なの?」「こんなチームだったっけ?」。後ろの席にいたホークスファンからそんな声が聞こえてくるほど、第1、2戦目とは別人格となったかのように投打がかみ合い、今季最高ともいえるパフォーマンスを見せている。

 とくに打線はこの日も福岡初戦で掴んだ勢いを、意地でも離そうとしなかった。初回から2死1、2塁、2回は2死満塁とチャンスを作る。あと一本が出なかったが、それでも攻撃の手はひるまない。

 第3戦のあとに石井琢朗コーチが言った、チャンスをつぶしてもつぶしても、ひるまずに何度でもチャンスを作り続ける「"チャンスのあとにチャンスあり"の精神」を体現していた。あらためて、石井コーチが語る。

「残塁がいくつだ、タイムリーが出ないとかって、シーズン中にはよくある話で、反省することはもちろん大事なんですけど、短期決戦ではそれを気にしていたってしょうがない。とにかく今は得点をするためにチャンスを数多く作っていくしかない。

 何でもいいからとくかく塁に出てチャンスを作る! 点を取れなかったらもう一回チャンスを作って得点圏を作る! っていうその繰り返しでやっていくしかないんですよ」

【後ろへつなげ、後ろへつなげ】

 チャンスが実を結んだのは3回だ。2死1、2塁から筒香嘉智がセンター前へのタイムリーヒットで3戦連続の先取点。大きく吠えて気合いを見せた筒香は2017年の日本シリーズ経験者として試合前にこんな話をしたという。

「(第3、4戦を勝利したことで)今日はソフトバンクさんも、今まで以上に勝ちにくる。僕たちも『相手の1個上、2個上の思いを持っていないと勝てない』とミーティングをして、それが今の雰囲気というか、全員で勝つために、ひとつのボールを最後まで追いかけることができていると思います」

 この3回は筒香に続いて戸柱恭孝もヒットで2死満塁とチャンスを広げたが1点止まり。それでもアンデッドなチャンスメイクは次の4回も桑原将志、梶原昂希がボテボテの内野安打でチャンスを作ると、前日まで打率1割台前半と苦戦していたキャプテン牧秀悟がレフトスタンドへシリーズ第1号のスリーランを放ち、完全に主導権を握った。

「調子は決していいとは言えないですけど、一本出てチームに貢献できてよかったです」と試合後に答えた牧は、「みんな勢いというか、初回から最後まで自分たちの野球で攻め続けられています」と、この勢いの要因を語る。

 潰されても潰されても、マシンガンのように繰り出されていくチャンスの連鎖。26年前の日本シリーズで.480と打ちに打ちまくりシリーズMVPを獲った鈴木尚典打撃コーチは、この打線の勢いに目を細める。

「みんなここに来て、究極とも言えるような集中力を発揮してくれていますよね。とにかく全員が後ろへつなげ、後ろへつなげという意識を強く持っているのが大きいです。もちろん、ヒットが出ていることもですが、この3連戦で合計18個の四死球を取れてるでしょ。そうやって、自分が打てなくても何とかして次の人へとつないでいることが形になってきていますよね」

 ダメな時はごめんなさい。それでも勢いに乗った時には"もののけがついている"と喩えられるほど、手がつけられない結束力を見せるのが、ベイスターズの伝統芸。ペナントレースでセ・リーグ3位のチームがここまでチャンピオンチームと互角以上に渡り合えているのも、投手陣の驚異的な踏ん張りと、この打線の勢いが重なったゆえである。

【マシンガン打線に似ている】

 比べるものではないことは承知しているが、日本一となった1998年のマシンガン打線に今の打線の勢いは近いものがあるのではないかーー。

 そんな愚問に鈴木尚典コーチは「似ていますね。乗ったらどこまでも行く、打ち始めたら勢いがどんどん増していく感じがすごくよく似ています」と即答し、同じくマシンガン打線の1番打者、石井琢朗コーチは「客観的に見て、破壊力は今のチームのほうがありますね。ただ、粘り強さだとか、しつこさは僕らの時代のほうが強い気がするけど、打線の厚みや、迫力というのは今のほうが上でしょう」と分析する。

 福岡での3試合。ベイスターズは3連勝を成し遂げ、3勝2敗で本拠地横浜スタジアムへと帰る。星取りの順番こそ違うが、第5戦を大勝して王手をかけ、勢いに乗ってハマスタの第6戦を迎えられるのは、日本一になった1998年に似た吉兆にも思えてくる。

【本拠地横浜で最終決戦へ】

 ただ、シリーズはここからが難しい。1998年の第6戦は勢いに乗ったマシンガン打線を持ってしても、ライオンズのエース西口文也(現監督)に完璧に近い形で封じ込まれ、終盤に駒田徳広の長打一本で苦しい接戦を勝ちきっている。王手をかけてからの難しさを、身をもって経験したという鈴木コーチは、今後の戦いに思いを寄せる。

「やっぱり、僕らもそうだったけどね。イケイケでやれていても、あとひとつという意識は絶対にあるし、いつもと違う緊張感も絶対に生まれてくる。それはあるものとして、そのなかでどれだけ自分たちが平常心で、いつもの自分たちのプレーをできるかどうか。

今の選手のみんなにはそれができますよ。明るいしね。ウチらしくやってほしいですよ。あとは選手たちが思いきりプレーできるように、僕らが背中を押してやれたらと思っています」

 2024年のベイスターズ選手には、桑原や筒香など2017年の日本シリーズを経験し、今のチームを引っ張る存在があるだけでなく、三浦大輔監督をはじめとする1998年の優勝メンバーがその背中を支えてくれている。

 ペナントレースの悔しさから、クライマックスシリーズの快進撃、そして日本シリーズもベイスターズらしい痛快な野球でここまできたのだ。

 泣いても笑ってもあとひとつ。最終章のレポートは、本拠地・横浜スタジアム担当のライター石塚隆さんへとバトンを託し、福岡編はここらで筆を置くこととする。

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