高木豊のドラフト通信簿 セ・リーグ編
10月24日に開催されたドラフト会議。セ・リーグでは、中日が4球団競合の抽選を引き当て、注目の左腕・金丸夢斗(関西大)の交渉権を獲得。
補強ポイントに見合う指名ができたのはどの球団か。かつて大洋(現DeNA)の主力選手として活躍し、現在は野球解説者やYouTuberとしても活動する高木豊氏が、各球団を【◎、〇、△】で評価した。
◆巨人【〇】
金丸を抽選で外した巨人は、上位で3人の内野手を指名。1位の石塚裕惺(内野手/花咲徳栄高)は将来性豊かなスラッガー候補。2位はスピードと守備力が魅力の浦田俊輔(内野手/九州産業大)、3位は強打の荒巻悠(内野手/上武大)を指名した。
「金丸は欲しかったのでしょうが、それ以外のピッチャーであれば今いるメンバーで賄える自信があったんじゃないですか。だから野手重視の指名に切り替えた。石塚は"ポスト坂本勇人"と言われるようにバッティングが魅力で、ヘッドの使い方がうまい。守備は磨かなければいけませんが、体格もいいですし大型ショートへの成長も期待できます。
2位の浦田は守備がよく、ミート力も高くて足があります。門脇誠や泉口友汰は平均的な選手ですが、浦田は俊足という特長があるので面白い存在になると思います。
1位 石塚裕惺(内野手/花咲徳栄高)
2位 浦田俊輔(内野手/九州産業大)
3位 荒巻悠(内野手/上武大)
4位 石田充冴(投手/北星大付高)
5位 宮原駿介(投手/東海大静岡キャンパス)
◆阪神【△】
1位は即戦力として期待の左腕・伊原陵人(投手/NTT西日本)。2位の今朝丸裕喜(投手/報徳学園高)は長身から投げ下ろす直球が武器で変化球の精度も高く、今春のセンバツでも活躍。また、4位の町田隼乙(捕手/武蔵ヒートベアーズ)をはじめ、育成枠を含めた全9選手のうち、5人の選手を独立リーグから指名したことも大きな特徴だ(支配下で2人、育成枠で3人)。
「シーズン中に岡田彰布元監督と神宮球場のベンチに座って話したのですが、『阪神は甲子園の風向きを考慮して右バッターが多い。だから左バッターが欲しい』ということを言っていました。もちろんピッチャーは何人いてもいいのですが、野手の補強に関する考え方は藤川球児監督になって少し方向転換したのかなと。
1位の伊原はボールのキレがよく、阪神でいえば伊藤将司みたいになってくれればいいですよね。伊原以外にも投手の指名が目立ちましたが、傾向としてはパワーピッチャーの指名が多い気がします。
4位で指名した町田は大型のキャッチャー。広角に長打が打てて肩も強いですし、キャッチャー陣にとっていい刺激になるんじゃないですか。ただ全体としては、もう少し将来を見据えて素材型のピッチャーの指名が欲しかったところです」
1位 伊原陵人(投手/NTT西日本)
2位 今朝丸裕喜(投手/報徳学園高)
3位 木下里都(投手/KMGホールディングス)
4位 町田隼乙(捕手/武蔵ヒートベアーズ)
5位 佐野太陽(内野手/富山GRNサンダーバーズ)
◆DeNA【〇】
26年ぶりに日本一に輝いたDeNAは、1位で制球力が高い即戦力右腕・竹田祐(投手/三菱重工West)を獲得。2位は、最速157キロの直球と多彩な変化球を投げ分ける本格派右腕・篠木健太郎(投手/法政大)を、3位は強肩強打の大型ショート・加藤響(内野手/徳島インディゴソックス)を指名した。
「補強ポイントは明らかにピッチャーでしたからね。金丸は外しましたが、即戦力で期待の投手を中心とした指名はよかったんじゃないですか。竹田はまとまっていて試合を作れそうですし、これまでの経験値や年齢を考えても1年目から先発ローテーションの一角を任せたいはずですが、どうなるか。
篠木はマウンドでの躍動感がありますし、強気なところがプロ向きだと思います。ただ、登板過多の影響もあってか球威が落ち気味ですし、コンディションが懸念材料です。全体としては、長期的な視点というより来季に勝つための補強を重視した印象です。先発ピッチャーが手薄なので、竹田や篠木らが食い込んでいけるかに注目です」
1位 竹田祐(投手/三菱重工West)
2位 篠木健太郎(投手/法政大)
3位 加藤響(内野手/徳島インディゴソックス)
4位 若松尚輝(投手/高知ファイティングドッグス)
5位 田内真翔(内野手/おかやま山陽)
6位 坂口翔颯(投手/国学院大)
◆広島【△】
1位指名を公言していた宗山塁(内野手/明治大)を外し、右のスラッガー候補・佐々木泰(内野手/青山学院大)を指名。2位は奪三振能力に優れた左腕・佐藤柳之介(投手/富士大)、3位は将来性が高く評価される右腕・岡本駿(投手/甲南大)を指名した。
「広島にはチャンスメーカーは多いのですが、ポイントゲッターが足りません。中軸を打てるようなバッターが欲しかったんでしょう。そういう意味での佐々木の指名だったと思いますが、現段階では確実性に欠けますし、特にインサイドに課題が見えます。伸びしろは十分だと思いますが、まずはそこを克服していくべきでしょうね。
2位の佐藤と4位の渡邉悠斗(内野手/富士大)には注目しています。佐藤はいい真っすぐを投げますし、三振を取れるのが魅力ですよね。渡邉は力のあるバッティングをしますし、広角に打ち分ける柔軟性も兼ね備えています。広島は左バッターが多いので、佐々木や渡邉といった右の強打者がオーダーに入ってくるようになるといいですね。
ただ、全体としてはポテンシャルを重視した指名だったような気がします。先ほどお話した佐々木の課題の克服も含め、広島の育成力に期待したいところです」
1位 佐々木泰(内野手/青山学院大)
2位 佐藤柳之介(投手/富士大)
3位 岡本駿(投手/甲南大)
4位 渡邉悠斗(内野手/富士大)
5位 菊池ハルン(投手/千葉学芸高)
◆ヤクルト【◎】
最速159キロの剛腕・中村優斗(愛知工業大)の単独指名に成功。2位で指名したモイセエフ・ニキータ(外野手/豊川高)は、バットコントロールにも長けたスラッガー候補。3位には、リリーフで期待できる即戦力左腕・荘司宏太(投手/セガサミー)を指名した。
「ヤクルトの補強ポイントはピッチャーでしたし、中村を単独指名できたのは大きいです。金丸や宗山を指名したかったんでしょうけど、ここ数年のくじ運の悪さも考慮してか、戦略が功を奏しましたよね。中村は馬力もあるしマウンド度胸もありますし、先発でも抑えでもいけると思います。1年目からどれぐらい活躍してくれるか楽しみなピッチャーです。
2位のモイセエフ・ニキータは、来季のオフにメジャー移籍が噂される村上宗隆が抜けることを想定し、その穴を埋める存在として白羽の矢が立った形ですね。ただ、パワーもコンタクトも悪くないのですが、今のままでは難しい。すごく伸びしろは感じるので、いかにプロのスピードに慣れて足りないものを吸収していけるかでしょう。
それと、ヤクルトは左ピッチャーが不足しているので、即戦力の荘司を指名できたのも大きい。全体としてチームの足りない部分を埋めるいいドラフトだったと思います」
1位 中村優斗(愛知工業大)
2位 モイセエフ・ニキータ(外野手/豊川高)
3位 荘司宏太(投手/セガサミー)
4位 田中陽翔(内野手/健大高崎)
5位 矢野泰二郎(捕手/愛媛マンダリンパイレーツ)
◆中日【◎】
1位で4球団競合の金丸夢斗(投手/関西大)を引き当て、2位で社会人屈指の左腕・吉田誠弥(投手/西濃運輸)を指名。3位は左のスラッガー候補・森駿太(内野手/桐光学園)を指名した。
「金丸を引けた時点で◎ですが、2位の吉田も投球フォームのバランスがいいですし、ブレーキが利いたチェンジアップがすばらしい。大学No.1左腕の金丸、社会人No.1左腕の吉田。小笠原慎之介がメジャー挑戦で抜けることを想定しても、この2人で補強は完ぺきですよね。
3位の森は体格がいいですし、あれだけ強く振れるのは魅力。どんなスラッガーに成長するのか楽しみな逸材です。4位で、社会人屈指のキャッチャーの石伊雄太(捕手/日本生命)が指名できたことも大きい。
1位 金丸夢斗(関西大)
2位 吉田誠弥(投手/西濃運輸)
3位 森駿太(内野手/桐光学園)
4位 石伊雄太(捕手/日本生命)
5位 高橋幸佑(投手/北照)
6位 有馬恵叶(投手/聖カタリナ)
(パ・リーグ編:宗山を引き当てた楽天、清原正吾が指名漏れの理由も分析>>)
【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)
1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。