「スコアに表れているとおりです。結果がすべてだと思っています」
12−52。
※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)
ポジティブな点はあったか、との問いにも、「特になかったですね。前半の最後と後半の入りの、ボールを持ったときのパックは相手にプレッシャーを与えられたと思いますが、結果としてスコアできなかったので」と、力なく返答するのみだった。
それはそのまま、現在のラグビー日本代表の苦しい状況を物語っているように感じられた。
世界ランキング4位(2024年11月4日現在)の強豪・フランス。パリ郊外にあるその本拠地で、昨年のラグビーワールドカップはもちろん、パリ五輪でもオリンピックスタジアムとして使用されたスタッド・ド・フランスは、レ・ブルー(フランス代表の愛称)が世界の強豪国を迎えて激突をしてきた「聖地」だ。世界ランキング14位の日本代表にとっては、今回の14回目の対戦(過去12敗1分)で初めてこのスタジアムで試合を行なうというメモリアルな一戦となったが、前述のスコアで大敗。歴史的初勝利はならなかった。
齋藤はそんな日本代表のなかでも現地でひときわ耳目を集め、たびたび報道されていた選手のひとりだ。
桐蔭学園高校、早稲田大学を経て、2020年からサントリーサンゴリアス(現・東京サンゴリアス)で活躍してきたが、今年7月に伝統あるフランス国内リーグ「TOP14」の名門トゥールーズ(スタッド・トゥールーザン)と契約。世界最高のSHであり、パリ五輪ではセブンズ代表として金メダルを獲得、15人制代表に復帰したばかりのフランス代表キャプテン、アントワーヌ・デュポンとともに研鑽しながらTOP14での出場機会を増やしている。
【エディー・ジョーンズの齋藤評は?】
世界的なトップチームにおいてもその実力を遺憾なく発揮し、常に世界を意識しながら成長を続けている齋藤が、約4カ月ぶりに日本代表に復帰。それもフランスの地で行なわれるフランス戦に出場するとなれば、注目度が増すのは当然と言えよう。
9番で先発した齋藤の"トイメン"は、そのデュポンだった。日頃から多くのことを学び、吸収しでいるトゥールーズのチームメイトと対戦した齋藤は、彼のプレーにこのように感じたという。
「ふだんも一緒にプレーしているので、常にスペースを探しているのはわかっていましたが、実際に相手にしてみると、そういったところのうまさや、視線ひとつで自分たちにプレッシャーを与えてくるところは、対戦相手としてやりづらかったです」
試合そのものは苦い結果に終わったが、世界一のSHとの初対戦で学んだことは、齋藤にとって大きな糧になっただろう。
しかし、今回のフランス戦は「デュポンとの対戦」以前に「フィジカルバトル」で劣勢に回り、FWやチーム全体がフィジカル面で常に後塵を拝していた。東京サンゴリアスやトゥールーズのようにフィジカルの強いチームではさほど感じていなかったプレッシャーを、日本代表ではフランスから受けたことで、齋藤も本領発揮とは言いがたいパフォーマンスに終わった。
試合後、エディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)に齋藤の評価を尋ねると、「FWが勝てていない状況だったので、そういう厳しい状況での試合で(SHの齋藤の)パフォーマンスを評価するのは難しいです」と回答するにとどまった。
齋藤自身も、「特に前半は接点、フィジカルの面で受けてしまい、効果的に前に出ることができませんでした。シンプルにコンタクト、ブレイクダウンといったところで圧力を受けていました」と答え、FWも含めたチーム全体のフィジカルの改善が必要との見解を示した。
相手のフィジカルの圧に負けない──。
日本代表が掲げる「超速ラグビー」では、それが大前提となる。それができてこそ、齋藤らを起点とするBKのアタックにも勢いが出る。フィジカルで負ければ、モメンタム(勢い)は作れない。
【一番海外に移籍したいと思った時期】
2024年、これまで日本を含む世界各国で数々の輝かしい結果を残してきたジョーンズHCが9年ぶりの再任を果たし、夏から並み居る強豪国と対戦してきた。
だが、イングランド(●17−52)、ジョージア(●23−25)、イタリア(●14−42)、フィジー(●17−41)、そしてニュージーランド(●19−64)に敗れ、今回フランスにも大敗。勝利を収めた相手はカナダ(○55−28)、アメリカ(○41−24)、サモア(○49−27)の3カ国にとどまっている。
特に強豪国との対戦の敗因のひとつであり、フランス戦でも浮き彫りにされたフィジカル面の課題が解消されないかぎり、齋藤の素早いパスと判断が不可欠な「超速ラグビー」の開花は難しい。
だからこそ、齋藤は自身ができることに全力で取り組み、飽くなき挑戦を続けている。欧州遠征中の日本代表は11月にテストマッチ2試合(ウルグアイ戦、イングランド戦)を残しているが、それが終われば齋藤は再びトゥールーズに戻り、引き続き強度の高いコンペティションで鍛錬し続ける。
齋藤が見据えているのは、3年後の2027年に開催される、出場すれば自身2度目となるラグビーワールドカップだ。
昨年、フランスで開催されたラグビーワールドカップに初出場し、日本代表の全4試合に出場。そのうち2試合で先発の重責を担った齋藤にとって、プール戦敗退に終わったこの大会は悔しさしか残らなかったという。
トゥールーズ移籍発表時の会見で齋藤は、もともと海外挑戦に強い意欲を示していたが、「(昨年の)ワールドカップ後が一番、海外に移籍したいと思った」時期だったという。
2027年のワールドカップに出場するのはもちろんのこと、日本代表が2019年の日本大会でこじ開けたベスト8の上を行くベスト4の高みを目指すには、人並みのエフォート(努力)では足りない。自身のために、日本代表のために、齋藤は挑戦し続ける。
最後に、「ポジティブだったところはない」と語った齋藤から、インタビューで明かしたデュポンとの試合後の会話を記して結びにしたい。
「彼は『今日の試合は(体が)きつかった』と言っていました」
百戦錬磨の名SHにそう言わしめた齋藤直人──、日本代表の未来は明るいと信じたい。