サントリーサンバーズ大阪の髙橋藍(23歳)には、大志がある。パリ五輪前のインタビューで、彼は野心的に語っていた。

「バレーボールを夢のあるスポーツにしていきたいって思っています。今までになかったオンリーワンの選手。バレーボールを知らない人にもバレーを伝えられるように」

 これだけのことを言い放てる人間は限られている。失敗を恐れない。成功者になる胆力だ。

 パリ五輪後、SVリーグ開幕から2カ月、髙橋はどんな景色を見せてくれているのか?

髙橋藍はSVリーグ序盤戦をどう戦ってきたか 「チームのなかで...の画像はこちら >>
 今年10月、開幕に向けて調整を続けていた髙橋は、まだ試行錯誤を繰り返している様子だった。無理もない。パリ五輪後、新たに入団したチームでは、プレシーズンで連係をアジャストさせる時間も十分になかった。また、昨シーズンまでプレーしたセリエAで足首をケガした影響も少なからず残るなか、調整を余儀なくされていた。

「コンディションはだいぶ上がってきました。足首のことなどもあるので(セーブしていたが)、もっと上げていけると思います。ただ、今日(10月4日)は試合をやったあとに"疲れたな"という実感がありました。

これから戦い方を学んでいかないと......」

 開幕直前、ウルフドッグス名古屋とのテストマッチのあと、髙橋はそう明かしていた。勝負強さで白星を挙げたが、完調には程遠かった。ジャンプは制限しているように見えた。コンビも連係を高めている過程で、1、2セットを戦った後は消耗も激しかった。

「(髙橋は)間違いなく、チームの軸となる選手だと思います」

 サントリーのセッターで、昨シーズンのMVPに輝いている大宅真樹は、新たに組むことになった髙橋について、そう証言していた。

「(髙橋と)コンビネーションを深めるためにコミュケーションを取りながら、(プレシーズンは)藍の好きなトスを探りながらやっていました。対応力のある選手なので、"ある程度のところに上げたら決めてくれる"っていう安心感はあるんですけど、(タイミングなど)そのあたりの精度は上げていかないといけないと思っています」

 あくまで挑戦段階であり、開幕のブルテオン大阪戦の、セットカウント0-3での完敗は致し方なかったかもしれない。

【試合を重ねるなかでコンディションは上がり...】

 開幕戦で髙橋は真価を見せることができていない。人一倍の負けず嫌いだけに、苛立ちも見えた。自らが「苦し紛れのスパイクが多かった」と悔しさを滲ませたように、代表の盟友である西田有志の後塵を拝した。

「常に髙橋藍選手を狙っていました」

 試合後に西田は語り、こう続けていた。

「髙橋選手をどう崩すか、を考えていました。

(アウト)サイド(ヒッター)が重なった時のローテの時とか......意図としては、パイプ(攻撃)をなくすことで。常に(髙橋が)いい状態で入れないようにして、ディフェンス対応させることで(攻撃オプションを)ひとつずつ削っていく。(3セット目)最後の1点で決着がついた時も、ゾーン1の髙橋選手をサーブで狙い、最後は決まりました」

 髙橋は、ライバルから一番警戒されていた。それは大望を抱くスター選手には避けられない宿命かもしれない。しかしコンディションの悪さは如何ともし難く、巨大なストレスだったはずだ。

 王者サントリーの調子も思ったように上がらなかった。

 11月、東京グレートベアーズとの初戦に敗れた後、髙橋は3試合を欠場している。足首の状態のケアも報じられたが、立て直す猶予が必要だった。それが広島サンダーズ戦で復帰し、ジェイテクトSTINGS愛知、日本製鉄堺ブレイザーズと戦いを重ねるなか、少しずつコンディションを上げてきた。

「(復調の理由の)一番は、足首の状態がよくなってきたことにあると思います。今は体のキレも出て、ジャンプで足も踏み込めるようになって、(スパイクの)入りのよさにもつながって、威力も増している感じです。これまで、かなりストレスだったので」

 ブレイザーズ戦で縦横無尽の活躍だった髙橋は、表情が気力に満ちていた。

心身が充実し、セッターの大宅とのコンビも深まりつつある。

「(スパイクで)大事なのは(ジャンプとトスの)スピードが合うか、合わないか。空中でボールを待っていることもあったので、早く入りすぎなのか、トスが遅いのか。そこは本数を重ねながら、お互いが要求し合い、テンポを調整してきました。(セッターの大宅選手と)ふたりでプレー動画を見返し、"もう少し早く""もう少し(球足)を延ばして"、と詰めながら」

 ブレイザーズ戦は、スパイクをストレート、クロスと打ち分け、老獪にブロックアウトも取った。高い跳躍からのバックアタックも輝き出した。また、コースを打ち抜くサーブで崩し、勝負どころではエースを連発。連続ブレイクで、チームの戦いを旋回させていた。

「(新入団だけに)コミュニケーションをたくさん取る必要はあるんですが......チームのなかで信頼してもらうには、やはり試合で結果を出すのが一番ですね。難しい体勢でスパイクを決める、決めてほしいところで点を取る、それを繰り返す。そこは意識しているというか、常に何が必要か、考えています」

 オールラウンドプレーヤーの真骨頂で、得意とするディグの精度も上がっている。ミドルブロッカーとの連係のなか、「無理には(ブロックに)いかず、きれいに残してもらっている」と髙橋本人が言うように、関係性のなかでレシーブの成功率がアップ。

戦いの土台となる防御システムが構築されつつある。

 リーグは44試合の長丁場、まだ3分の2もある。髙橋は志高く、「新たなバレーボールの風景」の扉を開ける。

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