村竹ラシッドインタビュー(3)

 初出場したパリ五輪の男子110メートルハードルで日本人初のファイナリストとなり、5位入賞を果たした村竹ラシッド(JAL)。今年は34年ぶりに東京開催となる世界陸上(9月13日~21日)でもメダル候補のひとりとして期待されている。

現在23歳。今後、アスリートとしてどんな道を目指すのかも気になるところだ。

――パリ五輪のあとは、9月8日にクロアチアのザグレブで行なわれたコンチネンタルツアー・ゴールドで、パリ五輪銀メダルのダニエル・ロバーツ(アメリカ)、東京五輪王者のハンスル・パーチメント(ジャマイカ)らに競り勝ち、13秒14で優勝。この結果については、どう捉えていますか?

「めちゃくちゃ大きな成果だと思っています。彼らにはこれまで負けることが多く、勝てないというイメージもできつつあったので、勝てたことが大きい。すごく自信になりました」

――パリ五輪の結果で、出場できる大会も変わってきたようですね。

「ザグレブのレースも五輪の結果があったことで出場できたレースですが、五輪の決勝に残ったことで、今後は海外の大きな大会にも出場しやすくなったことは大きいと思っています。今年は9月の東京での世界陸上が大きなターゲットになりますが、(陸上トラックの世界最高峰シリーズの)ダイヤモンドリーグの(年間成績上位者で争う)ファイナル(8月27、28日、チューリッヒ)にも出場したいと思っていて、そのためのポイントもしっかり重ねていけたらと考えています。

「世界から一番遠い種目」で見えてきた頂点 東京2025世界陸...の画像はこちら >>
――趣味はドライブで、ラーメンやプリンが好物だそうですね。

「オフは、時間ができると車で出かけることが多いですね。ラーメンは海外遠征に行ったりすると食べたくなって、帰国時に好きな店まで車を走らせます。家系ラーメンが好きで、海外帰りの時は『なんてうまいだって』、特に"沁みます"(笑)。

 プリンも好きで、よく食べます。食事制限? もちろん暴飲暴食はしませんし、もともと脂っぽいのが好きかと言われたら、そういうタイプでもないので、それほど制限はしていません。そもそも僕らアスリートは、一般の方に比べ、よく動きエネルギーを使うので、脂質をあまり取らないのもよくないと思いますし。それに何より、好きなものを我慢してストレスになるのが一番よくないと思っていて、無理のない範囲で好きなものを食べるようにしています」

【「北口さんに勝手に刺激をもらっています」】

――社会人になり学生時代と生活のリズムはだいぶ変わったのでは。

「授業はなくなりましたし、変わりましたね。シーズン中は競技に専念させてもらい、オフは『JALアスリートアカデミー』というイベントを通して子どもたちに向けた陸上教室などをやっています。別に負担ではなく、楽しくやっています」

――JALには、パリ五輪の女子やり投げで金メダルを獲得した北口榛花選手もいます。村竹選手にとってはどんな存在ですか。

「どんな存在かはあまり考えたことがないですが(笑)、オフになってイベントとかで北口さんと一緒になることが多いのですが、そのたびに金メダルを持ってきていて......。もちろん、北口さんは僕に見せるために持ってきているわけではなく、イベントで披露するために持ってきているのですが、毎回見せられると、やっぱり欲しくなるっていうか。そういう意味で、ご一緒するたびに勝手に刺激をもらっています(笑)」

――9月の世界陸上に向けた準備は、現状どのように考えているのですか。

「なんとなく『こんなローテーションで進めたい』という話はコーチともしていますが、本格的にシーズンが始まるのは4月以降です。

そこから9月半ばの世界陸上に向けて、どうやってピークを持っていけるか。前半からトップコンディションでいっても最後までもたないので、シーズンのなかで徐々に上げながら、6月ぐらいまでに一度、8~9割ぐらいまでの出来にして、直前にさらに上げていくような感じをイメージしています」

――パリ五輪でのタータン(陸上競技場のトラックに使用されている合成ゴム)の話を聞くと、東京開催はアドバンテージがあるのでは。

「もちろん走り慣れた会場で、日本食を食べながら臨めるわけですから、全然違います。パリよりは絶対にやりやすいはずです」

――メダル獲得の期待も膨らみますが、順位など、具合的な目標はありますか。

「順位というか、メダルは絶対欲しいですし、あとは12秒台ですかね。いまの自己ベストは13秒04ですが、なんとか12秒台を出せれば。そうすれば過去の大会を考えても、ほぼ確実にメダルに届くと思いますし、優勝の可能性も見えてくる。これまで世界陸上の男子トラック競技の最高成績は為末大さん(01年エドモントン大会、05年ヘルシンキ大会、男子400メートルハードル)と末續慎吾さんの銅メダル(03年パリ大会、男子200メートル)なので、12秒台を出して、銀メダル以上を狙いたいです」

【急速にレベルアップした日本のハードル】

――現時点で、12秒台への手応えはどうですか。

「いまはオフで体を動かしていないので、何とも言えないですが......。でも、冬季練習でしっかり課題を克服できるかどうかだと思うので、まずはそこに向けてしっかりトレーニングしていければと思っています」

――かつて「世界から一番遠い種目」と言われていた日本のハードルですが、近年、村竹選手だけでなく、村竹選手の大学時代の先輩にあたる泉谷駿介選手(住友電工、自己ベスト13秒04)などの活躍で、急速にレベルが上がっているように思います。その要因についてはどう考えていますか?

「僕はそのインフレに乗っかっているだけなので、よくわからないです(苦笑)。ただ、僕や泉谷選手の前にも、矢澤航さん、高山峻野選手(ゼンリン、自己ベスト13秒10)、金井大旺さんらがいて、僕は学生時代から皆さんの動きをよく見ていましたし、そういうのが下の世代にも波及して記録更新につながっているのでは。

未知の世界に挑んでいるわけですし、記録を更新してきた先輩たちには尊敬の気持ちしかありません」

――最後に今後ハードル選手として目指す道や目標があれば教えてください。

「今後の展望みたいなものは、正直、あまり考えていません。まずは、東京の世界陸上でしっかりメダルを獲っていい結果を残したいというのが今の一番の目標です。そのあとのことは、世界陸上が終わってから考えればいいかなと。もちろん次のロス五輪のこともありますが、それも東京の世界陸上でどんな結果になるかで、向かい方も変わりますからね。もし世界陸上で優勝できれば、優勝した立場として順位を落とさずどう振る舞っていくかということになるし、挑戦者という立場なら、どう挑戦していくのかとか、やっぱり心持ちは違ってくると思うんです。だから、まずは東京の世界陸上を頑張りたいと思っています」

【profile】
村竹ラシッド
2002年2月6日、千葉県生まれ。JAL所属。男子110メートルハードル日本記録(13秒04)保持者。小学5年生で、担任から陸上競技を勧められたことがきっかけで陸上競技を始める。順天堂大学在学中の2022年、世界陸上競技選手権大会オレゴンに出場。パリ五輪では5位入賞を果たす。

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