日本代表・史上最強の検証(2)
「史上最強」と言われる日本代表は、何が変わり、何が変わっていないのか。過去のワールドカップの印象的な敗戦を検証することで見えてくるものがある。
2006年、ドイツワールドカップ。ジーコが率いた日本代表は当時、大きな期待を背負っていた。
2002年日韓ワールドカップで、地元の声援を後押しにベスト16に進んでいたことで、それ以上の躍進を遂げるだろうとの期待感が高まった。中田英寿を筆頭に、小野伸二、中村俊輔、小笠原満男、稲本潤一などMF陣の人材に恵まれており、「セレソン(ブラジル代表)で"黄金のカルテット"(1982年スペインワールドカップのブラジル代表の4人の中盤)の一員だったジーコなら歴史に残る大会にしてくれるのではないか」と......。
しかし、結果は失望に終わった。
第1戦はオーストラリアに失意の逆転負けを喫し、いきなり追い込まれてしまった。第2戦のクロアチアにはどうにか引き分けたが、GK川口能活がPKをストップするなど、神がかったセービングを繰り返さなければ敗れていただろう。グループリーグ最終戦のブラジルとの試合では、2点差以上をつけて勝つことが決勝トーナメント進出の条件になっていた。「もろさ」
それがジーコジャパンの正体だった。相手と接触しながらボールを受けるとバランスを崩す。球際で負け、相手に逆を取られる。
「世界と比べてフィジカルが弱い」
当時、ジーコが大会を総括したときに出た言葉は、あまりにも"今さら"だったことで批判も出た。その後、ケガ人の多さなどへの不満が真意だったとも釈明しているが、それも含めてフィジカルの弱さがあったのは確かだろう。
オーストラリアに逆転された試合は典型だった。中村俊輔が蹴ったクロスがそのままゴールに入る"幸運"で先制したあとは、じりじりと消耗した。後半、交代選手の投入で勝負に出たオーストラリアの攻撃を防ぎきれなかった。相手の単純な高さ、速さに後手に回っていた。要所にうまい選手はいたが、真剣勝負では局面を制することができなかったのである。
【「勝てるかもしれない」という錯覚】
ブラジル戦に話を移そう。
前半34分、筆者は記者席で玉田圭司が左足で叩き込んだ先制のゴールに熱狂したのを今でも覚えている。中田が玉田に縦パスをつける。これを落とすと、稲本がダイレクトで左サイドの三都主アレサンドロへ。三都主が中に切り込み、玉田が大外からインサイドを走ってスルーパスを受けると、左足を振り抜いた。
〈勝てるかもしれない〉
当時、筆者はそう胸を躍らせたのを覚えている。
しかしいま振り返ると、ひどい錯覚だった。知見が乏しく、洞察力がなかったのだろう。勝てるはずはなかったのである。
日本は開始からわずか20分で、少なくとも4、5回もの決定機をブラジルに作られていた。どれも川口がスーパーセーブで防いだが、守備は完全に崩されており、無失点は僥倖にすぎなかった。
そして前半終了間際には、呆気なく同点にされてしまう。シシーニョのヘディングでの折り返しを、ロナウドにヘディングで叩き込まれた。マーカーの中澤佑二は完全に背中を取られていた。「クロスは中澤がヘディングで跳ね返してくれる」というのも、都合のよい思い込みだった。
後半に入っても、日本は川口だけは目立っていたが、それだけ一方的に攻められている証だった。ジュニーニョに30メートル近いロングシュートをブレ玉で決められると、簡単に逆転される。
1-4での黒星は、映像を見直すと1-10になってもおかしくないくらいの大敗だった。後半途中、ブラジルは次々と主力が交代した。GKまでお役御免にするほど、屈辱的な実力差だった。
たとえばFWの巻誠一郎はイビチャ・オシムの申し子として期待されたが、ファイトするだけでは越えられない壁があり、現実を突きつけられていた。ポストプレーができずにボールを失い、ヘディングで競り負け、シュートはバーのはるか上へ打ち上げた。ロナウドと比べるのはナンセンスだろうが、試合前に勝負はついていた。
【初勝利に貢献した中盤の優勢】
大会を通じて川口は守護神にふさわしいセービングを見せていたが、それだけでワールドカップを勝ち上がることはできない。オーストラリア戦はラッキーゴールの1点だけ、クロアチア戦はスコアレス、ブラジル戦は玉田の一撃のみ。ストライカー陣が大会直前のドイツ戦でケガを負ったという事情もあったが、それもフィジカルの弱さの一部だった。そもそも得点のチャンスを作り出す機会が限定的で、強さは虚像にすぎなかったのである。
当時と比べたら、今の日本代表はブラジルとも互角に渡り合える。2025年には初めて勝利も挙げている。選手ひとりひとりを見比べても、そこまで見劣りすることはなくなった。
たとえば昨年10月のブラジル戦では、先発で中盤を組んだ鎌田大地、佐野海舟は、前半こそ受け身に回ったものの、後半はブラジルの中盤、カゼミーロとブルーノ・ギマランイスを凌駕していた。ふたりともサッカーセンスに優れ、ビジョンのよさとボールコントロール力で打開し、攻守の舵をとることができる。3-2の逆転勝利は、ふたりが中央の主導権を握ったことで生まれていた。
今年3月のイングランド戦でも、鎌田と佐野は先発し、劣勢のなかでも堅調さが光り、1-0と敵地で金星を挙げている。三笘薫の決勝点のシーンでは、三笘が中盤で味方と守備で連係してボールを奪い返すと、鎌田が迅速にボールをつなぎ、トランジションで起点になっていた。また、佐野も際立った感覚で相手のパスをカットすると、迫力のある持ち上がりで、上田綺世のバーを叩くシュートを演出した。
鎌田と佐野、さらに久保建英の3人は(惜しまれるのは三笘の欠場だ)、北中米ワールドカップでもキーマンになるだろう。
しかしながら、"たかが"親善試合で勝利を収めたことに喜んでいると、玉田のゴールに歓喜した筆者と同じ報いを受けるだろう。
日本がブラジルに初めて勝った試合にしても、前半はなす術がなかったからだ。
勝って兜の緒を締めよ。あれから20年、日本は驕らず、高ぶらず、あらためて地に足のついた戦いをするべきだ。
日本代表・史上最強の検証(1)『サッカー日本代表は「史上最強」なのかを検証 初めてのワールドカップで挑んだ3バックと何が違うか』はこちら>>

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