日本代表・史上最強の検証(3)
「史上最強」と言われる現在の日本代表は、何か変わり、何が変わっていないのか。過去のワールドカップの印象的な敗戦から見えてくるものがある。
2010年南アフリカワールドカップ。日本は初めて自国開催以外のワールドカップでベスト16へ勝ち進んだ。第2戦でオランダに敗れたものの、カメルーン、デンマークに勝利。ラウンド16で激突したパラグアイとは、延長戦を戦っても0-0で決着がつかず、PK戦に進んだが、ここで力尽きた。サッカーの世界では、PK戦はあくまで"PKによる決着"で、勝ち負けに関しては引き分けと表記されるが、大会からの敗退という意味では、敗北の記憶と言うにふさわしい。
南アフリカワールドカップは聴覚で記憶に残る大会だった。とにかくブブゼラがスタジアムを支配していた。自分がどこにいるのか、麻痺させるような爆音のなか、選手たちは奮闘していた。パラグアイはビッグネームこそいなかったが、全員が"サッカーがうまい"個人の集まりだった。たとえばMFネストル・オルティゴサは、ずんぐりむっくりとしていて鋭敏には見えなかったが、巧みな駆け引きでパスを振り分け、攻守のバランスをとっていた。GKフスト・ビジャールは小柄(180cm)だが、ハイボールの処理や適切なシュートの弾き方など総合力に優れ、南米屈指の名手だった。
日本はパラグアイと構造的によく似ていた。4-1-4-1というアンカーを使った守備的な布陣で堅牢に守り、カウンター、もしくはセットプレーに命運を懸ける。どちらもそうやって接戦を制して勝ち上がってきた。
必然的に、我慢比べのような戦いになった。
「全然、面白くはなかったよ。でも、一発勝負と決め込んでいたから。楽しくなくても問題なかった」
南アフリカワールドカップを振り返って、大久保嘉人は拙著『ロスタイムに奇跡を』のなかでそう語っていた。大久保は、本田圭佑、松井大輔とともに3人で攻撃を引っ張りながら、守備でも体を張った。
【攻撃陣が戻らなければやられていた】
「選手は監督の決めた戦術に合わせて動くべきで、それを徹底的に貫いた。そこまで割り切らんと、あそこまで俺はディフェンスはせん。日本人が勝つためには、数的有利を作らないと難しいから、俺たち(攻撃陣)は戻った。自分が戻らないとディフェンスはやられていたはず。(長友)佑都でも、1対1の勝負に追い込まれたら厳しかった。
正論だった。グループリーグでカメルーン、デンマークに勝利したが、"弱者の兵法"が功を奏した。
「一発を狙ってたからね」
大久保はそう説明していた。
「セットプレーかカウンター、どちらか一発を決めればよかった。あのレベルで、自分たちがリズムよくパスを回してチャンスを作る、なんて無理。当時の戦力差を考えたら、それなりのやり方だった。まず守備ブロックを作る、次にブロックごと後ろに下がる。ボールをクリアしたら押し上げる、敵ボールになったらまた下がる。隙を見つけてセットプレーを取る、もしくはカウンターでシュートを打つ。その繰り返しで、一発を待って辛抱強く戦えた」
パラグアイ戦の大久保は満身創痍だった。半月板損傷を悪化させると、大会後、全治2カ月と診断された。
「カメルーン戦で膝をぶつけて半月板を損傷してからは、気力だけが頼りだった。
パラグアイ戦は延長に入ると、交代選手投入で強度が落ちない相手にじりじりと押されていた。全員が気力を振り絞ってたどり着いたPK戦だったとも言える。現場で取材しながらの実感としては「健闘した」と拍手を送るべき試合で、「あと一歩で勝てた」という口惜しさは湧いてこなかった。当時の日本代表は、あらゆる手を尽くし、ひとつの歴史を作ったと言える。
【本質は受け身的な両監督】
森保ジャパンもその気概は受け継ぐべきだが、未だに"我慢比べ"から脱せていないところが気になる。
当時、代表を率いた岡田武史監督と森保一監督は、深いところでコンセプトがつながっている。ボールゲームを志しながらも、結局は「負けない算段」を整える実務家で、情熱的な言葉を使って飾りつけるが、本質は受け身的で、献身が第一だろう。
森保監督が率いた2022年のカタールワールドカップの日本代表は典型だった。大会後、指揮官自身は「ボールを持つ時間を増やす」「攻撃の選手の枚数を増やした」と胸を張ったが、現在も、相手がボールを持ったときを得意とし、自らがボールを持ったときは攻めあぐねている点は変わっていない。攻撃の選手を増やしたかもしれないが、彼らに守備を求めているだけで、チームとしてのパーソナリティは変わらない。
今回、森保監督は26人のメンバーにMF守田英正を入れていない。チャンピオンズリーグでベスト8のチームで先発するMFを選外にするのは、控え目に言って摩訶不思議である。守田は中盤でプレーメイクし、攻撃を活性化するだけでなく、自分たちのテンポを作ることで相手の攻撃を削って守備でも貢献する。主体的なサッカーを目指すなら、彼を選ばないなど論外だろう。
そして森保監督は先日のアイスランド戦で、瀬古歩夢を本大会直前というタイミングでアンカーに起用している。頭数からしてMFが足りない(遠藤航は明らかに試合勘を失っていた)なか、センターバックの前にもうひとりのセンターバックを置いて守備を堅牢にした。それは岡田監督が阿部勇樹をアンカーで使うことで守りのリスクを下げたことにも似ているが、守田を選ばないどころか、瀬古のアンカー起用というのは、あまりに受け身的だ。
もっとも、森保監督は主体的なサッカーを捨てているのかもしれない。砦に籠って戦う以上、コンタクトプレーを重んじ、その士気を高めるような人材を求めたのかもしれない。
16年前、日本は誇るべきベスト16進出を成し遂げている。しかし、その記憶はそろそろ上書きされるべきだろう。なぜなら、"身を粉にして戦う"だけではベスト16の壁を越えることはできないからだ。
日本代表・史上最強の検証(1)『サッカー日本代表は「史上最強」なのかを検証 初めてのワールドカップで挑んだ3バックと何が違うか』はこちら>>
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