F1第6戦モナコGPレビュー(後編)
◆レビュー前編>>
限界まで攻めるのは、レースの世界においては当たり前のことだ。
しかし、その当たり前のことすら難しいのが、モナコGPの週末のアストンマーティンだった。
低速コーナーではひどいアンダーステアでマシンが曲がっていかず、ブレーキング時にはギアボックスやエンジンブレーキの制御が不安定。結果としてドライバーはコーナーで攻めることができない。ミリ単位でガードレールとの距離を縮めていかなければならないモナコだからこそ、不利な状況は大きくなった。
彼らが期待していたのとは違い、モナコはマシンパッケージの不利を覆い隠すサーキットではなく、むしろマシンパッケージの問題点を際立たせるサーキットだったのだ。
「厳しいのは今シーズンずっとだけど、モナコではいろんな要素がいつも以上に厳しかった。ほかのサーキットならこういう問題が起きてもコースオフするだけでいいけど、モナコのようなサーキットではコーナーごとに挙動が違うので、ドライブするのはかなり難しいよ」(ランス・ストロール)ストロールがクラッシュを喫したのも、思ったようにエンジンブレーキが効かず、うしろから押されるような挙動になってしまったためだ。
ヌーベルシケインでも4回にわたって止まりきれずに飛び出し、5秒加算ペナルティを科されていた。しかし最終コーナーにはランオフエリアがないため、予想外のブレーキ挙動が即座にクラッシュへとつながってしまった。
「エンジンブレーキに問題を抱えていて、ラップごと、コーナーごとに挙動が異なっている。うしろからプッシュされるような挙動の時もあれば、引っ張られるような挙動の時もあったりして、クラッシュした時もうしろから押されるような形になった。スロットルペダルは50パーセントくらいしか踏んでいなかったのに、ウォールにまっすぐ行ってしまった」
そう語るストロールと同じように、フェルナンド・アロンソもマシンと格闘していた。
「ものすごくクラッシュしやすい状態だった。
3周目にピットインして最後まで走りきろうとしていたから、その難しいクルマで50周か60周、オールドのタイヤで走っていたわけで、余計に厳しかった。でも、赤旗が出たおかげでいろんなことが起きたし、僕らのレースも少しラクになった。今日はベストを尽くしたよ」
【モナコで露呈したマシンの弱点】
この想定外に苦戦した理由は、今もわかっていない。
今までに出たことのないほどひどいアンダーステアだったと、チームアンバサダーのペドロ・デ・ラ・ロサは言う。
「低速コーナーのミッドコーナーでのアンダーステアは非常に深刻だったし、メカニカル面でも空力面でも考え得るすべてのセットアップ変更を施して、なんとか改善しようと試みた。だが、セットアップ変更ではどうにもならない根本的な問題だった。
ほかのサーキットでもこれほどひどいアンダーステアは経験したことがなかったし、何をやってもマシンの向きを変えるのが非常に難しく、低速域で正確にコントロールするのも困難だった。そのせいで大幅なタイムロスを喫してしまったんだ」
パワー差がほとんど影響しないモナコでの低迷が、即座に車体パフォーマンスの低さを意味するわけではない。ダウンフォース量が足りず、タイヤに熱が入らないのは事実だ。しかしそれだけでなく、パワーユニットとギアボックスの協調制御面でも、まだまだ十分ではないところは残されている。
ホンダの折原伸太郎トラックサイド・ゼネラルマネジャー兼チーフエンジニア(GM)はこう語る。
「ドライバーがいかに自信を持ってコーナーに飛び込んでいけるかが重要なので、パワーユニット側はドライバビリティを重点的に準備してきました。ドライバーから前回のカナダよりよくなっているというコメントはもらいましたが、このモナコで自信を持って飛び込むにはリアの安定性がまだ少し足りないとのことでした。
その点についてはFP1とFP2のなかでデータを修正し、FP3からある程度の改善が見えてきました。ただそれでも、ドライバーとしてはもう少し安定度がほしいという状態でした」
ブレーキング時には、MGU-K(運動エネルギー回生システム)が350kWで制動をかけて発電し、リアブレーキ本体とエンジンブレーキのすべてを合わせ、ドライバーが求める自然なブレーキング感覚を提供する必要がある。
そしてブレーキングを終えて、ターンインから立ち上がっていくフェーズにおいても、発電のためにICE(内燃機関エンジン)は回り続けている。それをMGU-Kで制動しながら、ドライバーがスロットルを踏んだ感覚どおりのトルクを出していく必要がある。
そのドライバビリティは改善が進んでいるものの、モナコGPという特殊なサーキットでは、まだ不十分であることが露呈した。
【アップデート投入のタイミングは?】
アロンソは語る。
「これまでいろんなサーキットでレースをしてきて、どのサーキットで走っても、僕らのマシンの弱点を理解するうえで役に立ってきた。オーストラリアではICEのパワーの不利が大きいことがわかり、中国ではエネルギー量の不利が大きいことがわかり、マイアミとカナダではギアボックスが全然ダメだということがわかり、モナコでは車体の不利が大きいことがわかった。
どのサーキットでも、僕らのマシンの弱点が露呈してきた。
今は苦しく、普通のレースでは結果など期待できない。しかし、苦しい状況だからこそできる努力と改善を進めていく。夏に完成する大型アップデート投入までに、その準備を整えていく。
ホンダの折原GMはこう語る。
「次のアップデートが入るまで、こういった厳しいレースは続いていくと思っています。たとえ21位・22位を争っている時でも、少しでもタイムを縮めよう、少しでもオペレーションで前に出られるようにがんばろう、という姿勢を採り続けます。そういう働き方をチーム全体として構築していくことが、すごく大事なことだと思っています。
そうやって細かいところまで詰めていく関係性を築いていければ、アップデートが入った時にすぐマシンのパフォーマンスにつなげられるのではないかと思います。見た目のラップタイムや順位はそんなに変わらないと思いますが、少しでもパフォーマンスを上げられるよう、チームと一緒にやっていくしかないと考えています」
アストンマーティンとホンダは、新たなパートナーシップに必要とされる準備が十分ではなかった。幸か不幸か、初期パッケージが不発に終わった今だからこそ、その準備作業を実戦のなかで地道に進めている。
アップデート投入はシーズン前半戦に間に合うのか、夏休み明けになるのか──。
「あと4~5戦、苦しいレースに耐えるだけだよ」
アロンソの目にも、光が戻ってきた。



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