――『貧困女子』のセーフティーネットとして風俗で働く女性が増えているといいます。AVに出演する女性にもそのような社会的風潮が影響しているのでしょうか?
宮本 女性の貧困問題と性の商品化とは密接な関連があります。アダルトビデオもまた紛れもなく女性の性の商品化の一形態です。貧しい女性たちが収入を得やすい分野で高額、短時間で稼げるという、うたい文句は非常に魅力的です。今日のお金に困っている女性にとって、1回出演すれば数十万円の収入になるということは、これ以上にないおいしい話でしょう。求められているのは性的身体であっても、今だけ我慢すればいいと考えてしまうのです。
――宮本さんの行っている『AV被害者相談支援事業』には具体的にどのような相談があるのでしょうか?
宮本 2012年に1件、'13年に1件、AV出演絡みの相談が寄せられました。徐々に相談が増えたので、'15年4月に『アダルトビデオ被害者相談支援事業』をNPO法人ライトハウスとの協同事業として始めました。昨年は150件あまりの相談が寄せられました。相談内容は極めて複雑で錯綜しており、何が起きているのか、どうしたいのかを整理して聞く作業は非常に困難です。痴漢や強姦とは異なり、必ずなにがしかの本人の意思が絡み、また金銭の授受も行われていることから、他者に相談することをためらわせて困難にしているんですね。一方で、それでも相談せずにはいられない切実性、迫真性があります。相談内容は、第一に、激しい怒りの気持ち(自分自身やこのような状況に追い込んだ関係者に対する)を吐露したいということがあり、これは真摯に耳を傾けるしかありません。次に来るのが、出演した結果に対する現実的な処理です。DVDの販売停止、回収、ネット上の動画の削除が具体的な相談内容になります。「だまされた」「辞めたい」と言ったら違約金を請求されたなど、違約金を盾に出演を強要されるケースもあります。
――強制されAVに出演してしまう女性に共通するタイプはあるのでしょうか?
宮本 相談に現れるのは、モデルやタレントなどに憧れている18~20歳代初めの女性です。強いて言えば、気が弱くて従順で、相手に強く言われるとそれ以上は自己主張ができなくて従ってしまうタイプが多いですね。一見、自由奔放に見えても肝心なときに言うべきことを言えない、そのような若い人はどこにでもいるものです。そんなごく普通の女性が被害に遭ってしまうのです。
(聞き手/程原ケン)
宮本節子(みやもと せつこ)
1943年生まれ。日本社会事業大学卒業後、地方公務員福祉上級職を16年間務め、現在「ポルノ被害と性暴力を考える会」世話人として、ポルノ被害や性暴力を訴える社会活動に取り組んでいる。
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