被災地で風俗産業に従事する人々を取材していくなかで、頻繁に出てきたのが「癒し」や「安らぎ」という言葉だった。目の前に横たわる絶望や不安からひとときの救済を求めて、客たちは足を運ぶ。
しかし、それを受け止めて癒しを与える側の女の子たちもまた、ほとんどが被災者である。彼女たちはいったい何をよりどころにして、風俗での仕事に励んでいたのだろうか。
津波被害を受けていない岩手県内陸部を拠点とするデリヘルで、'11年8月から働き始めたアスカ(28)は、宮城県気仙沼市のアパートで地震に遭遇した。当時勤めていたスナックは被災して閉店。彼女は集中して稼ぐために岩手県内陸部にアパートを借り、デリヘルで働くことにした。
震災から2年が経った今も、夕方から夜12時までのペースで仕事を続ける彼女はこう語る。
「私にとっての風俗は、女が大金を稼ぐための唯一の仕事。最近は欲張りになって、いずれは気仙沼に家を建てたいと考えるようになってきました。ほんとうは早めに抜けたほうがいい仕事なんでしょうけど、少なくともあと2、3年は続けなきゃって思っています」
そんなアスカと同じ店で働くアコ(34)の住まいは、車で片道1時間半近くかかる石巻市にある。レースの入ったロリータ系の服を身につけた、おっとりとした雰囲気の人妻だ。
「震災前に勤めていたデリヘルの店長から3月下旬になって、『店を再開したから、いつでも戻りたくなったら戻っておいで』と連絡があったんですけど、車が浸水で故障して移動する手段がないし、自宅の片付けや母の家の片付けなんかもあって、身動きが取れなかったんです。だから店に復帰したのは5月でした」
じつは、震災がなければアコは年内のうちに風俗から足を洗い、別の仕事をしようと考えていた。
「夫に内緒の仕事なので、バレるのが怖かったんです。お金のために始めた仕事でしたけど、そろそろ潮時かなと思っていました。でも、久しぶりに復帰すると、『仕事ができるって幸せ』と思っている自分がいました。あと、人と話せるのも嬉しかった」
復帰して一番最初に当たった客が、彼女と同じく被災者だったことも良かったのだと語る。
「私とは別の町で自宅が津波の被害に遭った人でしたけど、互いに大変だったねって、なんとなく苦労を共有できる感じがあったんですね。そこで、辛いのは自分だけじゃないんだということを実感できましたし、生きていられたからこそ、たとえこういう仕事であっても、働くことができるんだと思いました」
非常時のなかで、収入を得る術があることに深く感謝したのだそうだ。彼女は震災から2年を迎えた現在も、同じ店で働いている。
それぞれが、事情を抱える被災地の風俗嬢たち。そこには、未曽有の大災害に立ち向かう、逞しい女性たちの姿があった。
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