ラ・コビルナ代表取締役・杉沢志乃さん

男性のための娯楽、AV。しかし今、空前の女性向けAVブームが到来中です。

女性がセックスに関して興味をもつことが恥ずかしくない時代になりつつあるようです。なぜ今、女性向けAVを求める女性が多いのでしょうか? そこで今回、女性向けAV制作メーカー、ラ・コビルナの代表取締役、杉沢志乃さんにお話をうかがいました。

スタッフは全員女性、女性が作る女性のためのAV

――ラ・コビルナはどんなメーカーなのでしょうか?

杉沢志乃さん(以下、杉沢):ラ・コビルナの社員は全員女性です。女性が女性のためのAVを作っているんです。監督も脚本も、カメラを回すのも、全部女性がやっています。女優さんにとっては、男性向けAVの現場よりやりやすい現場かもしれませんね。

でも、男優さんの中には、スタッフが全員女性という現場に緊張してしまう方もいます(笑)。

――なぜ今、女性向けAVの需要があるのだと思われますか? 女性が性に興味を持つようになった社会的背景などがあるのでしょうか?

杉沢:女性がAVを見たい気持ちって今に始まったことじゃないと思うんです。例えば昔、深夜のテレビ番組で普通におっぱい出てたじゃないですか。それがいつからかNGになって、そのうちネットが普及して、アダルト動画が配信され、エロに興味を持つ人が増えたというか。エロに対して容認されている時期と厳しくなる時期と、その波が交互に来ているように思えます。

このように、AV業界には波があるのですが、レディースコミックや少女コミックって、波がなくてずっと売れているんですよね。

そういう面から考えると、女性はエロに対して昔から興味を持っていたのではないかと思います。

女性は生物学的な性教育によって性への興味を押さえられている

――女性はエロに興味を持っていることを隠している人が多かったということですね。

杉沢:そこを紐解いていくと子どものときの性教育の話になります。小中学校の性教育って、性器の図解があって精子と卵子が~という話があり、おしべとめしべの延長のような、生物学的な指導方法じゃないですか。そのうち女子が初潮を迎えると、それをからかう男子がいて、女の子は生理が恥ずかしいこと、悪いことのように思え、そこで性への興味の蓋を閉めちゃうんです。女の子がエロに対して興味を持っちゃいけないんだ、女の子の体はみんな同じなんだ、と。

そして、高校生くらいになると、コンドームを渡されて「避妊をしなさい」としか言われなくなるんですね。

だから、堂々とAVを手に取れる男性に比べ女性は、他の女性の体がどうなっているのかとか、他の人のセックスはどうなのかとか、なかなか知ることができません。今はネットの普及で、だいぶオープンになってきた感じはしますね。AVも今はネットで買える時代です。実際にAmazonやDMMなどのネットショップでAVを購入している方の比率で言うと、女性の比率がすごく高いですからね。ショップに買いに行くのが男性の方が多いだけで、実際は半分くらいの女性がAVを見ているはずです。

女性が知りたいのは、他の女性の体と自分の体がどう違うか

――男性向けAVを女性が見るというのは、女性からするとある種の違和感を抱くのではないでしょうか?

杉沢:はい、そういう違和感をなくすために弊社では女性向けAVを作っています。男性向けAVは、プレイ自体はファンタジーに近いと思いますが、女性が見たいのはストーリーやシチュエーションではないんです。

彼女たちが気になっているのは、女性の体とか、喘ぎ声の大きさ、セックス中の女性の表情、乳首や性器の色が自分とどう違うのか、とかなんです。AVを見て単純に性欲を高めたいという女性ももちろんいますが、女性の体を知りたくて見ている方も多いと思うんです。友達同士で乳首を見せ合うことなんてしませんし、他の女性の体を見られるのって銭湯くらいじゃないですか。

ハウツー物で女性の体の悩みを解決できたらいいなと思ったのが、ハウツー物をメインで作ることにしたきっかけです。

きっと、女性って性に関する悩みを口に出せないんです。

――女性向けAVを作る上で気をつけていることはありますか?

杉沢:上から目線で押し付けがましいニュアンスにならないように気をつけています。「これをやったらあなたは幸せになれますよ、これをやったら絶対気持ち良くなれますよ」的なことは避けています。体の作りは人それぞれなので、いくらハウツーでレクチャーしたとしても万人に当てはまるかどうかは分かりません。

――今までのハウツー作品にはどんな感想が寄せられていますか?

杉沢:「改めて自分の体のことがよく分かりました」とか、「間違っていた知識を正されました」とかは多いですね。マッサージのハウツーである『How? セクシャルマッサージ』はパートナーとお互いにマッサージをやってもらうハウツーなので「セックスレスが解消しました」といううれしい感想をもらうこともあります。

――今は、「自分の体を知りたい」という女性に向けて作品を作っているかと思いますが、今後はどのような悩みを持つ女性が増えていくと思われますか?

杉沢:セックスレスに悩んでいる人が多いという切実な現実があります。その部分に特化したものを作りたいですね。今度4月に出る新作『HOW? 上級者編 最高のキス&フェラで恋もキレイも手に入れる』(4/15発売)は、フェラチオとキスのハウツーにしたんです。

今まで作ってきたオナニーやSM、マッサージのハウツー物はわりと初級者編なのですが、今回はさらに踏み込んだ上級者編とでも言いましょうか。フェラってAVでしか見本がないじゃないですか。しかもAVのフェラって見て楽しむものなので、過剰に音を出したり、動きを大げさにしたりしているんですが、男性が本当に気持ちの良いフェラはどういうものなのかのポイントをまとめています。

ハウツー物なら18禁でなくても伝えられると思う

――まだ、女性向けAVを見ることに踏み込めていない女性もいると思います。そういう人たちを、今後どうやって取り込んでいく予定ですか?

杉沢:方向性としては、AVだけでなく一般作も作っていきたいと思っています。保健の授業的な内容になると、18禁ではなくなるんですよ。そういうところから知ってもらえるのではないかと。カラミがなくたって、おっぱいを出さなくたって、ハウツーは伝えられるんです。18禁じゃなくて一般作でどれだけ伝えられるかが今後の課題になってくると思います。

もちろん、ガチガチのエロ作品も作りたいんですが、本当に伝えたいことは一般作でも伝えられると思うんです。いろんなAVを見過ぎてしまった人や、逆にあまり見たことがない人、友達に体の悩みを言えない人の指南書になればいいなと思っています。

女性向けAVは、人には言えない性の悩みを抱える女子の救世主のようですね。まだ見たことがない方はぜひ、一度見てみると心につかえていたものがとれて、パートナーとの絆も深まりそうです。

(姫野ケイ)