「女」についての情報ばかりでありながら、受け手はもちろんのこと、作り手側も男性ばかりのアダルト雑誌。その中で、数少ない女性ライターとして働きながら、感じたことをまとめた『男しか行けない場所に女が行ってきました』(イースト・プレス刊)が刊行されたばかりの田房永子さん。

ちょうど同じ頃、アダルトメディアに携わってきた筆者が、お話を聞かせていただきました。今回は、風俗取材で感じたことや、風俗嬢に対する男性の見方などについて伺います。

風俗取材で「若い女同士なのに裸と裸じゃない人」のあいだが埋まらない

大泉りか(以下、大泉):そもそも、田房さんは、なんでいわゆる「エロ本」の編集部で働き始めたんですか?

田房永子さん(以下、田房):もともと興味があったんですよね。内田春菊さんがすごく好きで、高校生の時に春菊さんの「風俗ルポ」に衝撃を受けて、こういう漫画も描いてみたいなって心のどこかで思ってました。実際にエロ本でルポ漫画家になったのは25歳で、女子アナのパンチラを激撮! みたいなお宝雑誌とか、コンビニ誌をメインに仕事をしていました。大泉さんは、その頃、なにしてました?

大泉:わたしは大学出て、すぐに風俗情報サイトを作る編プロに入って、労働条件があまりに悪かったので半年で辞めて、その後は某出版社に嘱託で入って、そこで真面目に働きつつ、ロフトプラスワンでSMやストリップのイベントを主催したり、それこそエロ雑誌でライターをやったりとか。

主に実際に体を張る体験系。当時はちょっとしたブームで、幾人か女性体験派ライターがいたと思います。

でも、最初の風俗サイトの時は、田房さんみたいに、風俗店の女のコが待機してる個室に取材に行って、写真を撮って、通り一遍のプロフィール、身長だとかバストの大きさだとか性感帯だとか書いてもらって、というやつもやってました。

けど、それ、すごく苦手だったんですよ。なんていうか、自分も若い女だから、どういうポジションで関わればいいのかわからない。男性なら写真撮りながら、「カワイイねカワイイね」とか言えるけど、それを言うのも……しかも向こうは裸であったりして、どこをどういう顔で見ればいいのかもわかんないし。

田房:男の人に対してのほうが、女のコもリラックスしてる雰囲気もあったりね。

大泉:そう、あと、なんでかわざわざGパンとかの小汚い格好で行ったりして。

田房:わたしも、開口一番「自分、オナニー狂いなんッスよ!」とか言ったりしてた(笑)。「手に負えない変態なんで!」みたいなアピールで道化に徹して、向こうが笑うくらいなキャラじゃないと、その「若い女同士なのに裸と裸じゃない人」のあいだが埋まらない感じでした。

大泉:見抜かれている気がするんですよね。差別してるつもりはないけど、でも、こっちだけ服を着てて悪いな、って思ってるところが、もうおかしいじゃないですか。

田房:同じ立場の人と話したの、初めてかも。わたし、まわりにそういう仕事をしてる女性がいなくって。っていうか、そもそも、なんで、エロ本の編集部はあれをわざわざ女にやらせるのかな。

大泉:女性っていう性が邪魔して、女性と上手く関われないっておかしいんですけどね。

風俗嬢を「神聖化」する男性たちの都合のよさ

田房:高校生の時に通ってた美大予備校に、真面目な顔で下ネタをしょっちゅう言う中年男性講師がいたんです。本にも出てくる、男子にポケットティッシュをあげる講師なんですけど。

その講師が、親からの仕送りがなくて、夜は風俗だか水商売だかで働いてる女のコが浪人クラスにいたって話をしてたんです。「昼は絵を描いて、夜はそういう仕事をして……、俺は本当にエライと思う。そういうヤツと受験で戦うんだぞ! 実家で暮らしてる現役生のお前らにそんな根性あるのか!」って。発破かけてるんだけど、当時18歳の私にとっては、「受験頑張んなきゃ!」とは別の衝撃がありました。

そのあと付き合ってた彼氏にも、同じようなことを言われるんです。私は家出をしてきてその人と住んでたんで、お金がなくて、いつもそのことで責められるんだけど、「上司とキャバクラに行ってきたら、女の子たちは裸に白いシャツを着て働いてた。

あの子たちはあそこまでして偉い。それに比べて永子ちゃんは漫画家になりたいって言っても、全然なれないし、まずはそれくらいして稼いで根性みせなよ」とか喧嘩した時に言われる。男たちが、キャバクラ嬢や風俗嬢たちを「頑張ってるエライ人たち」として語るんですよね。確かに、一緒に住んでる相手がろくに稼ぎがなくて自分に頼ってきたらイライラするのは分かります。それは男女ともに同じ感覚だと思うけど、女にはそういう性別とか性的なことが関わる仕事がある、っていう点が、大きく違う。

予備校で講師が男子と女子に同じ話をしても、男子にとっては全然関係ない話だから「俺も負けないように頑張んなきゃ!」ってストレートに思えるだろうけど、女子はそこで働けちゃうじゃないですか。

「私もそのくらいしなきゃいけないのかも……」って私は思っちゃったんです。

自分でもよく分からなかったけど、「風俗嬢」に対してめちゃくちゃコンプレックスがありました。女同士なのに私は裸じゃない、っていう緊張もあるし、まぶしくて見ることができない、みたいな感じもあった。

いま考えると、たぶんあの男たちの「神聖化」がすごく影響してたんだなと思います。私もそのくらい頑張らなきゃいけないのにやってない、お金ないのに風俗で働かないで男に依存してる、この人たちは自分で稼いで自分で生活費を捻出してるのに、っていう負い目を一方的に感じてました。「風俗嬢」限定なのは、自分がもし働くとしたらAVより風俗のほうが現実的だと思っていたから。

男たちは、水商売や風俗嬢、AV女優を、自分たちの都合のいい時だけ讃えたり、けなしたりする。今なら「何言ってんの?」って返せるけど、あの時はそれを信じ込まされて、その価値観の上でしか生きられなかったなって思います。

>>【中編につづく】風俗は“別世界”じゃない――アダルト雑誌の女性ライターが語る、女が風俗を知るべき理由

(大泉りか)