これまでメジャーではなかったラグビー日本代表が大活躍し、多くのファンを獲得しています。10月17日にも、とあるマイナースポーツがファンを熱狂させるという出来事がありました。

車いすバスケ日本代表が、11大会連続12回目の、リオデジャネイロ・パラリンピック出場を決めたのです。来場者は約3600人、報道陣は約120人と注目度の高さがうかがえるのは、やはり2020年に控えた東京パラリンピックが背景にあるからでしょう。

“欠損女子”が笑顔でお出迎え

そんな国民的快挙の裏で10月23日、ひっそりと開店した期間限定コンセプト・バーがありました。場所は新宿ゴールデン街、店の名前は『ブッシュドノエル』、和訳すると『切り株』ですね。

クリスマスでもないのに、なぜこの店名? その疑問は、バーの扉を開けるとすぐに解消しました。

「いらっしゃいませ~」

義手・義足の“欠損女子”に会えるバーに潜入 障害は「かわいい...の画像はこちら >>

左:琴音さん/右:幸子さん

カウンターの中に入るアイドル並に愛らしい女性たちが、これまた愛らしい笑顔で出迎えてくれ……と、ちょっと待ってください。

思わず見入ってしまったのが、彼女たちの手と脚。

そう、彼女たち、『ブッシュ・ド・ノエル』という名の通り、体の一部が欠損している、“欠損女子”だったのです。5年前に片手を事故で失ったという琴音さんが、つたない手でお酒を注いでくれ、片脚をダンプカーに轢かれて失くした幸子さんが、人懐っこい笑顔で接客してくれます。

義手・義足の“欠損女子”に会えるバーに潜入 障害は「かわいい・かっこいい」

幸子さん

義手・義足フェチもいる

主催するのは、欠損女子のほか、瓶底眼鏡や歯列矯正など、マイノリティなフェチ中心に撮影する映像作家・sguts氏。普段は琴音さんや幸子さんをモデルにしたDVDを制作し販売、熱狂的なファンから医療関係者まで、幅広い購買層がいるそうです。

「僕もsguts氏のファンです。

一番好きなのはフック義手ですね。小学生のとき、『ブラックジャック』1巻の『海賊の手』という話を読んで、琴線に触れたんです。以来、フック義手一筋。でも、日本は装飾義手(※手を模した義手)人口が多くて、フック義手の人にはなかなか出会えないんですよね。海外だと、普通に切断面を見せて歩いていたり、1台600万円以上するような、筋肉信号で5本の指が動く電動式の義手もあるんですけどね。だからこそ、彼女たちの存在は貴重なんです。
可愛くて、義手だなんて」(男性客Aさん)

「可愛い」という言葉に照れる琴音さんは、自らの装飾義手をさすりながら、

「私もフック義手は持っているけど人前では全然つけないですよー。お裁縫をするときくらい。人前で使うとびっくりされちゃうから、普段はいつも、装飾義手。毎日つけてるからコレ、こんなに汚れちゃった」

と、笑います。

義手・義足の“欠損女子”に会えるバーに潜入 障害は「かわいい・かっこいい」

琴音さん

彼女は元々コスプレ好きで、欠損してからもコスプレ写真をサイトにアップしていたところ、sguts氏にスカウトされたそうです。

「最初に『欠損の写真を撮ってる』と連絡があったときは、『え!? そんなジャンルがあるの!?』と驚きました。

で、モデルになってイベントとかに出してもらうと、ファンの方もたくさんいることを知りました。正直に『いやらしい目で見てもいいですか?』と聞かれたこともありますよ。でも、ひとつの萌え要素としてそう思ってくれているんだから、全然平気。何をそういう目で見るかは個人の自由ですし。そもそも、欠損している私を認めてくださっていること自体が、嬉しいんです」

義手・義足の“欠損女子”に会えるバーに潜入 障害は「かわいい・かっこいい」

琴音さん

“中2病”の捉え方でボジティブに

「そうそう、わかるわかる」とは、幸子さん。彼女が片足を切断したのは、小学1年生の下校途中で小学校前の横断歩道でダンプカーにはね飛ばされたとき。

辛いリハビリ生活も経験したそう。

「毎日毎日、痛かったですよー。でも私は、元々スポーツが好きなのに、『もう歩けないかもしれない』と思っていたから、義足をつけて歩けるようになったこと自体が楽しいんです。思春期や大人になって脚を失くすと、ショックで自殺しちゃうこともあるみたいだけど、私は幼すぎて逆によかったのかな?」

仕事はイラストレーター兼デザイナー。そして趣味は、琴音さん同様、コスプレです。

「表現することが好きなんですよね。

コスプレも、本当は欠損した状態でできたら開放的だと思うんですけど、コスプレ元のキャラが欠損していないので、おのずと義足をつけて、脱脂綿を巻いてうまいこと自分の脚っぽく見せていました。そんな中、sgutsさんに声をかけられ、はじめて映像の中で本来の自分を出し、そういうのがいいと言ってくれる人がいたってことにびっくり。喜んでくれる人がいるから、私って義足で良かったのかなって」

これまでも「あの子、走り方オカシイよね」と陰口を叩かれたこともあったという幸子さんがめげずにやってこられた転機は、高校生時代にもありました。

「私も“中2病”で、中2病っぽい友達から、『逆に、そういう障害があるってことが羨ましい。カッコイイじゃん』と言われて、ハッとしたんです。そんなこと言ってくれる人、それまでいなかったので」

義手・義足の“欠損女子”に会えるバーに潜入 障害は「かわいい・かっこいい」

幸子さん

不便なことがあるのは健常者も一緒

そんな幸子さんの話を聞いていた、「会社に障害者枠があって何人か働いているけど、どう接していいか分からないから、無難な距離を取っている」と言う、男性客Bさんが言います。

「そう思っていても、『不謹慎なのでは?』と、どこまで言っていいのかわからないんだよね」

「そう思うの、わかります。人によって受け取り方が違うし。私は何でも言ってもらいたいタイプだけど、同じ立場の障害者と話すときは、気を使いますもん。だから、健常者はより気を使うだろうなあって」(幸子さん)

一方で琴音さんは、健常者が言う「『かわいそう』がキライ」だそう。

「面と向かって言う人がいるんですよ、『かわいそう』って。『何がかわいそうなの?』と聞くと、『手がないから。不便でしょ?』って。いやいや、健常者のあなたでも、不便でできないことはあるでしょう?『あなたが出来ないことを私ができることもあるし、お互い様じゃない』って言い返しちゃう」

そんな思いもあり、「まずは私たちの存在を知ってもらいたかった」ことから、今回バーに立つことを決めました。

「私たちを見て引いちゃう人もいるけど、別に引くことないですよ。たとえば、今は車いすは有名になって『変』と思う人はいないと思いますが、私たちのことも、知ってもらえればそうなるかなって。義手も義足も、メガネと変わらない、補助してもらっている感覚です。もうちょっと、皆の見方が変わったら嬉しいな」(琴音さん)

義手・義足の“欠損女子”に会えるバーに潜入 障害は「かわいい・かっこいい」

左:琴音さん/右:幸子さん

帰り際、男性客Bさんが筆者にこっそり打ち明けました。

「実は僕、欠損フェチでもなんでもない、ただの好奇心で来たんですよ。でも、来てよかった。会社の障害者の人たちとも、前よりは普通に喋れるかも」

彼女たちの願いは、少しずつ伝わっているようです。

■開催情報
・10月30日(金)
開店時間
1部・19:00~20:30
2部・20:40~22:10
3部・22:20~23:50

・問い合わせや空席の確認
欠損BARブッシュドノエル公式Twitterまで

(有山千春)