日本郵便は10月1日、定形郵便物や通常はがきなど全般的な郵便料金の値上げを行った。全般的な値上げ自体は2019年以来、5年ぶりだが、消費税増税時を除けば、1994年以来、30年ぶりとなる。

パソコンやスマートフォンなどでのメール、あるいはLINEなどでコミュニケーションを取ることが少なくない昨今、郵便事業、さらには“手紙文化”をどう生き残らせていくか、模索が続けられている。

郵便料金、なぜ「値上げ」?

今回の値上げによって、これまで 84円(25グラム以下)、94円(25グラム超50グラム以下)だった定形郵便物の郵便料金は統合され、一律110円(50グラム以下)に。通常はがきは63円から85円、特定封筒を用いるレターパックは「プラス」520円が600円、「ライト」370円が430円に、それぞれ改定された。
これを受けて、少数、少量の郵便物を送る個人はともかく、定期刊行物を全国に送る会社などからは「(郵便料金の負担額が)大幅に上がった」という“嘆き”にも近い声が聞かれる。しかし、郵便料金は法律によって「安価」な必要があると定められていることは、知らない人も多いのではないだろうか。
郵便事業に関する基本的事項を定めた「郵便法」は、「郵便の役務をなるべく安い料金で、あまねく、公平に提供することによって、公共の福祉を増進する」とし(第1条)、さらに「郵便に関する料金は、郵便事業の能率的な経営の下における適正な原価を償い、かつ、適正な利潤を含むものでなければならない」と定めている(第3条)。
法の趣旨を踏まえると、今回の郵便料金の値上げは、このままでは「適正な利潤」を生みだすことが難しくなったからといえるだろう。事実、冒頭に述べた通り「郵便離れ」は加速している。
日本郵政グループの今年5月の会見で浅井智範専務(日本郵政)は、日本郵便の営業収益について「800億円ほど減っている」と発表。増田寛也社長(日本郵政)は「(郵便事業について)SNSなどがやりとりに非常に多く使われ、大変厳しい状況があります」と述べた。日本郵便広報部も次のように述べ、値上げに対し利用者に理解を求めている。
「昨今のデジタル化の進展等により、郵便物数は2001年度をピークに大きく減少しており、今後も右肩下がりの傾向が継続していくと見込まれます。他方で人件費、燃料費等の上昇、協力会社への適正な価格転嫁、その他の調達コストの増加等、営業費用の増加が見込まれています。

これまでも手紙文化の振興、その他の郵便利用拡大のための取り組みを行い、機械化、その他の生産性向上による業務の効率化に取り組んできました。さらなる取り組みを推進していきますが、今後とも郵便サービスの安定的な提供を維持していくために、郵便料金の改定を実施させていただくこととしました」

民間企業との「競争」から「協業」へ

明治初頭の開始以来、郵便物を扱う公益性の高さから国営で行われてきた郵便事業だが、小泉純一郎首相(当時)が進めた郵政改革によって2005年10月、郵政民営化法が成立。日本郵政公社は解散し、12年10月からは日本郵政グループとして、日本郵政、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の4社体制となった。
郵便の業務についても長く国が独占してきたが、2003年4月に公布された信書便法(民間事業者による信書の送達に関する法律)によって、手紙やはがきなどの「信書」は、総務大臣の許可を受けた信書便事業者に限って、その送達が認められている。今年6月現在、許可を得ているのは全国612の民間企業だ。
民営化等によって民間企業との競争を余儀なくされた日本郵政グループだが、昨今では「協業」も目立つ。
同グループは5月の会見で、各社の中期経営計画として「JPビジョン2025+(プラス)」も発表。
物流大手のヤマト運輸、西濃グループとの協業によって、荷量を増やし、また幹線輸送の共同運行によって、2024年問題(働き方改革によってドライバーの労働時間に上限が課されることに伴い、輸送能力が低下すること)や、持続可能性(CO2の排出削減)にも取り組んでいく意向を示した。
発表に際し、増田社長は、「新しいサービスやいろいろな商品をもっと、他企業様などとも協力しながら出せるのではないか、と思っています」と語った。

苦戦が強いられる年賀状では新たな商品も

11月1日からは、年賀状の販売が始まった。
年賀状の発行枚数も年々減少し、10年前(2015年)の約33億枚から、2025年は約11億枚(当初発行)と3分の1となり、苦戦を強いられている。
こうした苦境について、日本郵便広報部は「インターネット社会の中でも、一定程度、郵便事業の必要性は求められるものと認識しており、デジタル社会が進展する中での顧客ニーズの変化を踏まえ、商品・サービスを改善していくことにより、便利にご利用いただけるよう継続的に検討していきます」と回答。
今年は年賀状とギフトが一体となった新商品「POST&GIFT」を発売した。
差出人は、年賀状と料金が一体となったはがき(料金別に3種類)を購入して送る。受取人ははがきのQRコードを読み込んでネット上からギフトを申し込み、受け取るというものだ。
筆者の知人にも「年賀状はもう送らない」と連絡してきた人や、LINEの“スタンプ”で年始の挨拶を送ってくる人が少なくない。ただ、実物、特に手書きの年賀状には、デジタルのコミュニケーションにはないあたたかさがあることは多くの人が体感的に理解しているのではないだろうか。


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