独占的AI産業の現状
AIのインフラを担っている主な企業は以下です。
- クラウド・インフラ…Amazon、Microsoft、Google(世界のシェア65~70%)
- GPU…NVIDIA(90%)
- 半導体集積回路(半導体前工程)…TSMC(60%)
- 最先端露光装置…ASML(100%)
以下で、それぞれの現状を詳しく見ていきます。
クラウド・インフラ:Amazon、Microsoft、Google
Synergy Research Groupは、2023暦年のクラウド・インフラストラクチャー・サービス産業全体の売上高を2700億ドル(約40兆円)と推定しています。2023年10~12月期だけを切り出すと約737億ドルで、同四半期の企業別占有率は以下の通りです。
これから述べる他の産業に比べれば「可愛い」ものですが、それでもアメリカ3社で世界の70%近くを占有しています。これら3社は今後もAIデータセンターへ巨額投資することを公表しており、少なくとも短期間で寡占が崩れることは想定しづらい情勢です。
市場分析会社Omdiaによると、2023年、MetaとMicrosoftはNVIDIAのGPU「H100」をそれぞれ15万個購入した可能性があるそうです。当時、H100は3万USドルとも4万USドルとも言われていたので、それだけで5,000億円もの投資であり、他社が追随することは容易ではありません。
GPU:NVIDIA
AIインフラの計算を担うのがGPU(graphics processing unit)と呼ばれる半導体集積回路(一般には「半導体」と呼ばれていますが、これは、電気を通したり通さなかったりする素材である半導体という素材の表面に細かい回路を集積した製品のこと)です。GPUはもともとは主にゲームの画像処理のために開発されたものですが、極めて多くの計算を並列処理するAIに適していることがわかり、今ではAI計算が主用途になっています。データセンター用GPU市場で圧倒的な占有率を持つのがNVIDIAです。
データセンター用GPU(2023年)NVIDIA92%AMD3%出所:IoTアナリティクス
同社の2024年2~4月実績は、売上高260億ドル(前年同期72億ドル)、粗利益率78%、営業利益169億ドルと垂涎(すいぜん)の業績でした。Intel、AMDなどが対抗製品を投入していますが、矢継ぎ早に新製品を投入するNVIDIAの競争力は当面維持されそうであり、2024年通年では売上高1,000億ドル、営業利益700億ドルに達する勢いです。700億ドルは日本円で10兆円、日本の上場企業の営業利益合計金額の20%に相当する水準です。
本論とは関係ありませんが、NVIDIAの創業者Huang CEOは台湾からの移民で、ファミリーレストランで起業計画を書いたそうです。革ジャンがトレードマーク。「長期計画はない、今が重要」との思想を反映し時計をしません。
半導体集積回路(半導体前工程):TSMC
半導体製造技術はまさに日進月歩の成長を遂げています。これを長期にわたって続けた結果、半導体企業の多くは最先端の製造技術を維持することは難しくなり、今では設計を自社で、製造を外部に委託して行う半導体集積回路企業が増えています。NVIDIAもその一社です。
台湾の調査会社TrendForceによると、半導体集積回路製造を担う産業「半導体ファウンドリー」の企業別占有率は以下の通りです。
半導体ファウンドリー産業(2023年10~12月期)売上高占有率上位10社合計305億ドルTSMC197億ドル61%サムスン電子36億ドル11%GlobalFoundries18億ドル6%TSMCの2023年度の業績は売上高2.2兆台湾ドル(おおよそ10兆円)、営業利益9,200億台湾ドル(同4.5兆円)となっています。TSMCは年間300億USドル水準の設備投資を行っており、他社が追随するのは容易ではありません。
半導体集積回路製造装置:ASML
半導体集積回路の製造には、様々な装置が使用されています。もちろん、どの装置が不足しても半導体集積回路を作ることができません。しかし、集積回路の性能を決めるもっとも重要な装置を一つ選べと言われれば、露光装置になるでしょう。
露光装置は、半導体ウェハーの表面に電子回路を描く装置です。現在、その回路の細さは最先端では2~3ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)と驚異的な細さです。
かつて露光装置は日本の2社――ニコンとキヤノン――が世界を圧倒し、特にニコンはピーク時には世界の露光装置産業の50%以上を占め、技術的にも他社の追随を許さない企業でした。
しかし今では、最先端の露光装置ではオランダのASMLが占有率100%です。
ASMLの2023年度の業績は,、売上高275億ユーロ(おおよそ4.5兆円)、営業利益90億ユーロ(同1.5兆円)でした。
巨額のデジタル赤字
財務省の統計によると、2023年度の日本の国際収支は下記の通りです。
経常収支+25.3兆円 貿易収支▲3.6兆円 (電気機器)▲0.5兆円 (輸送用機器)+20.1兆円 サービス収支▲2.4兆円 (通信・コンピュータ・情報サービス)▲1.8兆円 (その他業務サービス)▲4.7兆円 第一次所得収支+35.5兆円 第二次所得収支▲4.2兆円*「その他業務サービス」は以下の三つで構成されている・・・「研究開発サービス」「専門・経営コンサルティングサービス」「技術・貿易関連・その他業務サービス」。
クラウド・インフラ使用料が含まれると思われる「通信・コンピュータ・情報サービス」の赤字は上記の通り1.8兆円(三菱総合研究所では、このほかに「著作権等使用料」「専門・経営コンサルティングサービス」を足したものをデジタル赤字として▲5.5兆円と算出※2023年。これは10年前よりも3兆円ほど悪化しているそうです)。
もちろん、特定の区分だけをとって赤字であることが単純に悪いわけではありません。モノの輸出入でも、材料を100円で仕入れて付加価値をつけて200円で輸出するのであれば結果的に黒字であり、良いことといえるでしょう。
すなわち、デジタルサービスを活用して、日本国・企業の競争力が総合的に改善しているのであれば問題はないと言えます。
デジタル赤字解消のために取り組むべきこと
しかしながら、デジタルサービス産業は、前述のように明らかな独占的産業であり、「高い」価格で購入せざるを得ない状況と言っても過言ではないでしょう。NVIDIA、TSMC、ASMLのわずか3社の営業利益合計額が年20兆円(!)に達しようというのですから。
日本国としては、以下のいずれかを検討していく必要があります。
(各国政府が挑戦していますが……)
(シャープの工場の跡地だけではとても足りません)
(上記の通り、電機産業の貿易収支はマイナスプラスゼロになってしまった今、自動車産業が維持できなくなることが日本の最大の不安要素かもしれません)
当然のことながら、どれも簡単なことではありません。
デジタル赤字は今後も重要な国家課題と言えそうです。