多くの人がこれまで密かに感じてきた「食べ放題の店」のビジネスモデルへの疑問――。「モリモリ食べている人ばかりだが、経営は大丈夫なのか?」。
食べ放題の店が儲かるには、ワケがある
食べ放題の店は人気があります。3,000円出せば1,500円の定食が3人前食べられるのであれば、お得ですから、利用する人が多いのは理解できます。
しかし、店は大丈夫なのでしょうか。来てほしいのは小食の人なのに、小食の人は来店せずに大食いの人ばかり来店するわけですから、赤字で倒産してしまわないか、心配する人もいるかもしれません。
じつは、食べ放題の店は合理的な経営形態で、結構儲かっている店も多いと思われます。以下に、そう考える理由を述べていきましょう。
客が1人も来なくてもかかる費用・客が来るたびに増える費用
レストランの費用には、「客が1人も来なくてもかかる費用」と「客が来るたびに増える費用」があります。前者を「固定費」後者を「変動費」と呼びます。客が1人も来なくても、店を借りる費用、従業員の給料等は必要ですから、そうした費用は固定費です。材料費は、客が来るたびにかかりますから、変動費です。
1,500円の定食を提供するレストランの固定費が10万円、変動費が500円だとしましょう。客が1人も来ないと10万円の赤字ですが、客が1人来るごとに収入が1,500円増えて費用が500円増えますから、赤字が1,000円減ります。
食べ放題の店では、客が3,000円払って3人分食べるとしましょう。客が来ないと10万円の赤字ですが、客が1人来て3人前食べると収入が3,000円増え、変動費が1,500円増えるので、赤字が1,500円減るのです。客からすれば3人前食べられて得なのですが、店にとっては材料費の3人前ですから大した費用ではないのですね。
食べ放題の店は人気がありますから、空席が少ないでしょう。これも経営には大いにプラスです。空席だと赤字が減らないのに、客が来れば赤字が大きく減るからです。
ビュッフェスタイルには、さらなるメリットが!
食べ放題の店のなかには、「ビュッフェスタイル」といって、店の真ん中に大量の食べ物を置き、客が自分で好きなものを取って食べる店が少なくありません。ビュッフェスタイルの店には、さらに経営上のメリットがあるのです。
すぐにわかるのは、注文を取る手間がかからないし、料理を皿に盛り付ける手間も客席まで料理を運ぶ手間もかからない、ということですね。客が来店して直ちに食べ始めるので、客の回転が早い、ということもメリットでしょう。
シェフの労働という点でもメリットは大きなものがあります。注文を受けてから料理を作る店だと、食事時だけ忙しくてあとの時間は暇になる…というシェフも多いでしょうが、ビュッフェスタイルだと朝から調理を始めることができます。
それから、1人前作るのと20人前作るので手間が20倍かかるわけではありませんから、作業が効率的に行えます。規模の経済ですね。
材料の仕入れ面でもメリットがあります。普通の店では客が何を注文するかわからないので、メニューにある品を作るための材料をすべて揃えておく必要がありますが、ビュッフェスタイルの店では、作る料理を決めて使う材料を絞って購入するので無駄がありません。少品種の材料を大量に買うので、場合によっては値引き交渉もできるかもしれません。
このように、食べ放題の店というのは、客も嬉しいし店も儲かるということで、多くの店が営業しているわけですね。
食べ放題の店を楽しむ「食べ方」「考え方」
最後に余談ですが、食べ放題の店に行く客としての心得を記しておきましょう。ひとことでいえば「無理をして食べない」ということです。食べ放題の店に行くと、「元をとらなければ」という義務感や「せっかく食べ放題なのだから」というお得感などから、満腹になっても食べ続けている人を見かけますが、それはやめましょう。
入店するときに3,000円払ったとしても、そのことは忘れて自分がいちばん幸せになることだけを考えて、食べる物と食べる量を決めましょう。たくさん食べたら3,000円が戻ってくる、というわけではないのですから、払った金のことは忘れて、自分の今後の幸せのことだけを考えればよいのです。
食べ放題の店に限らず、払ってしまって戻って来ない金は多いですね。
このように戻ってこない金のことは「サンクコスト」と呼びます。これは「沈んでしまった」という意味の英単語です。サンクコストのことは忘れて、本を読むのと散歩に行くのとどちらが幸せになれるか、だけを比較しましょう。
「食べ放題の店を選んだ自分が愚かだった」と思いたくないから元をとろうと頑張るのは、自分に対する見栄のために苦しい思いをすることですから、それもやめておきましょうね。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義経済評論家