「働き手最多」の日本、人手不足が深刻化する本当の理由

人手不足という言葉がメディアをにぎわせている。人手不足だから高齢になっても働かざるを得ない、人手不足だから企業が倒産する、人手不足だから応募者が集まらない……等々。

本当にそうか。どんな人材が、どのような事情で、どのくらい不足しているのか、調べてみた。

生産年齢人口は過去最低、労働力人口は過去最高

国内の生産活動の中心を担うのが15歳から64歳の人たちだ。労働供給の土台であり、「生産年齢人口」とよばれる。少子高齢化の影響により、1995年に8726万人でピークとなった後に減り続け、2050年には5275万人まで減少すると見込まれている(総務省統計局「国勢調査」「日本の人口推計」)。そういう意味では、確かに「人手不足」だといえる。

ただ、生産年齢人口には学生や専業主婦といった「働かない」人たちも含まれており、正確にいえば、人手不足という場合の「人手」とはいえない。

その意味では、15歳以上の就業者と完全失業者(求職活動をしており、働く意思のある失業者)を足した「労働力人口」のほうがふさわしい。こちらの数字を見ると、2026年6月時点で、過去最高の7057万人に達している(総務省統計局「労働力調査」)。

「働き手最多」の日本、人手不足が深刻化する本当の理由
出典:「労働力調査」(総務省)を加工して作成

生産年齢人口が減少しているのに、労働力人口はなぜ増加しているのか。

その背景にあるのが、女性と65歳以上の高齢者の労働参加が進んでいるからだ。女性は3161万人、一方の高齢者は964万人と、いずれも2026年5月時点で過去最高となっている。

「働き手最多」の日本、人手不足が深刻化する本当の理由
出典:「労働力調査」(総務省)を加工して作成

このことから、昨今の人手不足と言われる現象が、単に働き手の数が減っていることに起因しているのではないことがわかる。

働き手の数が増えているのに、人手不足とはこれいかに?

企業は深刻な人手不足状態に

一方で、企業の人手不足を喧伝するデータには事欠かない。たとえば、帝国データバンクによると、2026年上期の倒産件数(負債1000万円以上の法的整理が対象)は5335件であり、2年連続で5000件を超えた。倒産の理由を見て行くと、従業員の退職や採用難、人件費高騰などを原因とする「人手不足倒産」が227件と過去最多を更新。同様に過去最多だった「後継者難」の312件も含めると、人手不足の様相はよりいっそう深刻ととらえることもできる。

日本銀行の短観(全国企業短期経済観測調査)における雇用人員判断D.Iも見てみよう。

雇用人員判断D.I.とは、企業の雇用人員の過不足についての判断を示す指数であり、雇用人員が「過剰」と回答した企業の割合から「不足」と回答した企業の割合を差し引いて算出される。プラスは人員過剰感、マイナスは人手不足感を表わす。

大企業、中堅企業、中小企業ともに、2010年代後半から人手不足が深刻化し、コロナ禍で一時的に緩和したものの、その後、再び不足感が強まっていることがわかるだろう。

「働き手最多」の日本、人手不足が深刻化する本当の理由
出典:「全国企業短期経済観測調査」(日本銀行)をもとに作成

労働時間はどんどん減少している

こうした状況下、企業は既存の社員に目いっぱい働かせ、人手不足を補っているかと思いきや、実態はまったく異なる。厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、一般労働者の労働時間は年々減っている。2015年には月間167.1時間あったが、2025年には159.7時間と、10年間で月間7.4時間も減っている(ここでいう一般労働者とは短時間勤務以外の労働者で、正社員および正職員とほぼ等しい)。

「働き手最多」の日本、人手不足が深刻化する本当の理由
出典:「毎月勤労統計調査」(厚生労働省)を加工して作成

ここ30年あまりのその値を見ると、2009年と2020年にそれぞれ深い谷を描きながら、全体的に短縮している。2009年の谷はリーマンショック、2020年のそれはコロナ禍によるものと分かるが、後者のより深い谷にはもう一つ、別の要因があった。

働き方改革の進行だ。

2015年に起こった大手広告代理店における新入社員の過労死問題をきっかけに長時間労働への規制が大きな社会問題となる。それに対応するために、当時の安倍政権が進めたのが労働基準法改正に代表される働き方改革法案の制定、施行だ。

そのうち、労働時間に大きな影響を与えたのが、①時間外労働の上限規制(月45時間、年360時間を原則)の導入と、②年次有給休暇の確実な取得(毎年5日、時季を指定しての付与)である。①は大企業への施行が2019年4月、企業の多くを占める中小企業への施行が2020年4月だった。②は2019年4月に全面施行されている。

そもそも残業時間の上限を法律で規制することは、戦後に定められた労働基準法の大転換を意味した。企業は景気が拡大した場合には正社員が残業で対応する一方、後退した場合は定時で退社する。彼らの時間外労働、つまり残業が労働力の調整弁の働きを果たしたのだ。この仕組みが雇用を安泰にした一方で、長時間労働を助長させた。

件の過労死事件以来、大手の著名企業でさえ、労働者をないがしろにするブラック企業化足り得ることが明るみに出、2015年以来、多くの大企業が自主的に残業規制を行っていた。そこに、残業規制を強める本丸の法律が施行されたのだ。

企業はたまらない。

今までの「休みなしの働かせ放題」ができなくなってきた。ブラック企業はもう流行らない。ワークライフバランス重視のホワイト企業化へ一直線である。その余波として、今まで働いていなかった女性と高齢者が働き始めたものの、人手不足は続く。

日本企業のホワイト企業化が人手不足を招いた真犯人というわけだ。

生産性向上という働き方改革を

人手不足を解消するには、仕事の効率を上げ、これまでより少ない人数でも仕事ができるようにする必要があるが、日本の場合、心もとない。労働生産性が国際的に非常に低いレベルにあるからだ。

公益財団法人日本生産性本部によると、日本の時間当たり労働生産性は2024年最新の数字で60.1ドル。ポルトガル(60.7ドル)やニュージーランド(59.6ドル) と同じ水準にあり、米国(116.5)の約半分しかない。OECD加盟38カ国中28位であり、主要先進7か国中、最も低い。その順位は2018年(21位)から2020年(28位)にかけて急激に落ち込んでから回復しつつあったものの、2024年は2020年と同じ、28位に沈んでしまった。

そう考えると、日本の働き方改革は終わっていない。

2019年のその趣旨が「長時間労働の撲滅」であったなら、次に必要なのは「生産性の向上」である。

ただ、これは非常に難しいのではないか。新卒時、誰もが「経営者を目指すエリート社員」としてキャリアをスタートする日本企業では、エリート層と非エリート層が分かれるのが40代以降と遅い。その間、会議や資料作成、社内接待といった、直接的には成果を生まないものの、社内の覚えをめでたくする「手続き仕事」が多くなりがちだ。そこにメスを入れないと、仕事の生産性の向上、ひいては、真の人手不足解消にはつながらない可能性が大きい。

文:人事ジャーナリスト荻野進介

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